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10 自分という者
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シエラの話の途中、食事やお茶が運ばれて来ては休憩を取る。
サウラにとって城で出される食事はそれは豪華な物で、勿論今までに食べた事はない物ばかりだ。
名前は知らぬが味はわかる。美味しい。一食毎に体が満たされ力が戻ってくる。本人が気付かぬだけで相当に疲れているのだろう。
シエラの話はサウラの知らない事だらけだった。
シエラは消えゆく王の命を繋ぎ止めるために、自分の一族の中から癒しの力が強い者を探し出した。それがサウラだと言う。
シエラが同じ村の出身?
今日はもう驚く事が多すぎて頭の整理が追いつかない。
「シエラさん。サタヤ村の出身なら私が生まれる前に村を出たんですか?」
神妙な顔つきで尋ねる。
サタヤは小さな村なのだ。村人全員の名前など朝飯前に言えるほど。村を出た人の事も良く話にのぼる。
シエラは20代後半くらいに見える。そうだとしたら誰かしらシエラの名前をあげるはずである。そして、あの魔法陣だ。知らない人はいないと思う。
しかし、今までのサウラはシエラの名前も話も聞いた事はない。サウラが産まれる前に村を出たのが本当なら、シエラは10代か10に満たない位の歳で出た事になるのだろうか?あり得ない。
「ふふ。そうよ。」
「シエラさんのお名前も、お話も村で聞いたことがないのですが。」
「村を出たのはサウラちゃんが産まれるもっと前だもの。」
フワッと笑った笑顔は花みたいに綺麗だ。
「幾つに見える?」
と楽しそうに聞いてくる。
女性に歳を聞くのも言い当てるのもなんだか失礼な感じがするんだが、この場合どうすればいいんだろうか?
昔、歳のことで村の若者がイルーシャを揶揄って蹴り飛ばされていたのを覚えている。
こてっと首を傾げてシエラを見つめる。
「まあ、外見は若く見えますよね。」
表情も声色も最初に会った時と同じシガレットがぽつりと呟く。
「シグ。」
さらに笑みを深くしたシエラがゆっくりとシガレットの方を見る。にこやかな表情なのだが何故か怖い。シガレットもにこやかに笑みで返し、ゆっくりとお茶を飲む。
シエラに歳のことを聞くのはやめよう、と心の奥深くに刻んでおこう。
サウラが召喚されたのは王であるルーシウスの癒し手となるためである事は分かった。
謁見の間で初めて会った時は、確かにルーシウスの命は尽きかけていた。あの様な状況でなかったらサウラは直ぐに魔法をかけようとしただろう。
けれどもどうだろう。
あの後からルーシウスの状態は確実に落ち着きを取り戻しているのだ。
先ほどは皆と同じ食事をしっかり食べていた。頬がやつれている様に見えたから少なくとも数日は十分に食事を取れていなかったのではないかと思われたのだが。今は食後のお茶まで頂いている。
食事を食べている様子に配膳をしてくれていた侍女も驚いていた様に思う。声には出していなかったけど。
同じ席で食事をした人達もまじまじと見つめていたから、やはり今までは食事も出来ないくらいに弱っていたんだと思うのだが。
私、必要なかったんじゃないの?
ふと、疑問が浮かぶ。もうこのまま村へ返してもらってもいいのでは?
「あの、その方は先程よりもとてもお元気そうに見えますが、私の魔法はもういらないのでは?」
このまま要らないと言われれば、今世紀最大の体験と土産話をもって村へ帰ることになるんだろう。
サウラはおずおずとルーシウスを見つめる。ルーシウスもサウラの問いかけに笑顔と共に視線を向けてきた。深いエメラルドグリーンの瞳は先程よりも光を増している様でとても綺麗だ。
「んん。」
金髪の青年アラファルトが咳払いする。姿勢を正しサウラを見つめる。
どうやらお行儀が悪かったのだろうか?王様に対する礼儀作法など分かろうはずも無いのだが。
「アルト、今は無礼講でいいわ。私たちしか居ないんだし。」
何故かシエラがサウラの無作法を許可する。
「アラファルトですよ。シエラ様。」
アラファルトは至極真面目な顔で返す。礼儀はしっかりとしたい方の様だ。
「あなたは昔からそんな所は真面目よね。お茶目で可愛いところが良いのに。ここにいる子は皆私の子供みたいな者だもの、愛称で呼ばせて頂戴な。」
呆れた様な困った様な笑みでもってシエラは答える。アラファルトは仕方ない、とでもいう様にため息一つ、お茶目で可愛いと言われた騎士団長は諦めの表情で口を閉じる。
本当にシエラさん、貴方はお幾つなのでしょう?
「サウラちゃん。ルーシュは今は一時的に回復しているだけでこのままでは全快はしないの。魔力を使う毎にまた以前の様に体調を崩すことになるわ。」
サウラの方を向きつつシエラが続ける。
ルーシウスの回復は体力が少し戻った程度で全盛期の頃よりは程遠いのだそうだ。今後も魔力は使わなければならない。その度に体調を崩すルーシウスの為にサウラの回復魔法が必要になると言う。
ならば体調を崩す王の為いつも側にいなければならない事になる。これは帰れない事を示唆するものではないのか?嫌な考えに頭が占領される。
「それだけだと思っていたんだけれど、番とはねぇ。」
いとも嬉しそうな笑顔を向けてくる。嬉しい誤算である。
「おや、気付かれていたんですか?」
「本当か?」
涼しげなシガレットの声にアラファルトの行儀良いとは言えない大声が被さった。
サウラにとって城で出される食事はそれは豪華な物で、勿論今までに食べた事はない物ばかりだ。
名前は知らぬが味はわかる。美味しい。一食毎に体が満たされ力が戻ってくる。本人が気付かぬだけで相当に疲れているのだろう。
シエラの話はサウラの知らない事だらけだった。
シエラは消えゆく王の命を繋ぎ止めるために、自分の一族の中から癒しの力が強い者を探し出した。それがサウラだと言う。
シエラが同じ村の出身?
今日はもう驚く事が多すぎて頭の整理が追いつかない。
「シエラさん。サタヤ村の出身なら私が生まれる前に村を出たんですか?」
神妙な顔つきで尋ねる。
サタヤは小さな村なのだ。村人全員の名前など朝飯前に言えるほど。村を出た人の事も良く話にのぼる。
シエラは20代後半くらいに見える。そうだとしたら誰かしらシエラの名前をあげるはずである。そして、あの魔法陣だ。知らない人はいないと思う。
しかし、今までのサウラはシエラの名前も話も聞いた事はない。サウラが産まれる前に村を出たのが本当なら、シエラは10代か10に満たない位の歳で出た事になるのだろうか?あり得ない。
「ふふ。そうよ。」
「シエラさんのお名前も、お話も村で聞いたことがないのですが。」
「村を出たのはサウラちゃんが産まれるもっと前だもの。」
フワッと笑った笑顔は花みたいに綺麗だ。
「幾つに見える?」
と楽しそうに聞いてくる。
女性に歳を聞くのも言い当てるのもなんだか失礼な感じがするんだが、この場合どうすればいいんだろうか?
昔、歳のことで村の若者がイルーシャを揶揄って蹴り飛ばされていたのを覚えている。
こてっと首を傾げてシエラを見つめる。
「まあ、外見は若く見えますよね。」
表情も声色も最初に会った時と同じシガレットがぽつりと呟く。
「シグ。」
さらに笑みを深くしたシエラがゆっくりとシガレットの方を見る。にこやかな表情なのだが何故か怖い。シガレットもにこやかに笑みで返し、ゆっくりとお茶を飲む。
シエラに歳のことを聞くのはやめよう、と心の奥深くに刻んでおこう。
サウラが召喚されたのは王であるルーシウスの癒し手となるためである事は分かった。
謁見の間で初めて会った時は、確かにルーシウスの命は尽きかけていた。あの様な状況でなかったらサウラは直ぐに魔法をかけようとしただろう。
けれどもどうだろう。
あの後からルーシウスの状態は確実に落ち着きを取り戻しているのだ。
先ほどは皆と同じ食事をしっかり食べていた。頬がやつれている様に見えたから少なくとも数日は十分に食事を取れていなかったのではないかと思われたのだが。今は食後のお茶まで頂いている。
食事を食べている様子に配膳をしてくれていた侍女も驚いていた様に思う。声には出していなかったけど。
同じ席で食事をした人達もまじまじと見つめていたから、やはり今までは食事も出来ないくらいに弱っていたんだと思うのだが。
私、必要なかったんじゃないの?
ふと、疑問が浮かぶ。もうこのまま村へ返してもらってもいいのでは?
「あの、その方は先程よりもとてもお元気そうに見えますが、私の魔法はもういらないのでは?」
このまま要らないと言われれば、今世紀最大の体験と土産話をもって村へ帰ることになるんだろう。
サウラはおずおずとルーシウスを見つめる。ルーシウスもサウラの問いかけに笑顔と共に視線を向けてきた。深いエメラルドグリーンの瞳は先程よりも光を増している様でとても綺麗だ。
「んん。」
金髪の青年アラファルトが咳払いする。姿勢を正しサウラを見つめる。
どうやらお行儀が悪かったのだろうか?王様に対する礼儀作法など分かろうはずも無いのだが。
「アルト、今は無礼講でいいわ。私たちしか居ないんだし。」
何故かシエラがサウラの無作法を許可する。
「アラファルトですよ。シエラ様。」
アラファルトは至極真面目な顔で返す。礼儀はしっかりとしたい方の様だ。
「あなたは昔からそんな所は真面目よね。お茶目で可愛いところが良いのに。ここにいる子は皆私の子供みたいな者だもの、愛称で呼ばせて頂戴な。」
呆れた様な困った様な笑みでもってシエラは答える。アラファルトは仕方ない、とでもいう様にため息一つ、お茶目で可愛いと言われた騎士団長は諦めの表情で口を閉じる。
本当にシエラさん、貴方はお幾つなのでしょう?
「サウラちゃん。ルーシュは今は一時的に回復しているだけでこのままでは全快はしないの。魔力を使う毎にまた以前の様に体調を崩すことになるわ。」
サウラの方を向きつつシエラが続ける。
ルーシウスの回復は体力が少し戻った程度で全盛期の頃よりは程遠いのだそうだ。今後も魔力は使わなければならない。その度に体調を崩すルーシウスの為にサウラの回復魔法が必要になると言う。
ならば体調を崩す王の為いつも側にいなければならない事になる。これは帰れない事を示唆するものではないのか?嫌な考えに頭が占領される。
「それだけだと思っていたんだけれど、番とはねぇ。」
いとも嬉しそうな笑顔を向けてくる。嬉しい誤算である。
「おや、気付かれていたんですか?」
「本当か?」
涼しげなシガレットの声にアラファルトの行儀良いとは言えない大声が被さった。
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