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29、限界 2

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「はい、なんでしょう?ゴーリッシュ騎士団長?」

 和やかにサイラス・ライーズ副書記官長は答えた。

「貴殿も知っているかもしれないが、ウリートは身体が弱い。の周囲の環境をあまり変えたくはないのです。この事はアランドも知っている事ゆえ理解願いたい。」

 騒ぎになる様な事はするな…か。そんなつもりは無かったのだが…

「それは余計な事を申し出ました…アクロース侯爵子息殿の負担になる様な事とは思わず…」

「いえ…いえ、こちらこそ…すみません、私が不甲斐なくて…この様に話してくださる方がいて友人が少ない私にとっては貴重な時間なんです。確かに騒がれるのは得意じゃありません…」

 ウリートは困った様な申し訳ない様な笑顔を向ける。

「そうですか。貴重な時間と言ってくださり今はそれで十分なのでしょう。では、今日はここまでといたしましょう。」

 いつもの様に書庫から去っていくライーズ副書記官長、いつもと変わらないヒュンダルンとの時間……なんだろう…何か違和感がある、けれど頭に靄がかかっている様にそれがなんだか分からない。

「どうした、ウリート?」

 ウリートを呼ぶヒュンダルンの低い声はそのままに、精悍な瞳は最初のころより少し柔らかくなった様な気がする。
 
 友人効果って凄い…… 

 自分の自信にも繋がるし、人の様まで変えてしまう。でも…

「私はこれ以上友人を作らない方がいいのですか?」

 兄様も騒がしくなるのは望んでいない様だし…

「ん~ウリートはどうしたい?」

 参考書を捲るヒュンダルンの手の逞しい事…いつも羨ましく思う。

「私の体力が追いついて行かなくなるだろう事は予想できます。だから…」

 大勢との付き合いは無理だろう。けれど……

「それでも納得はいかないのだろう?」

「はい…そうです…」

「友人が欲しいと1番最初に強請っていたからな。」

 クスクスと楽しそうに笑うヒュンダルンの低い声。

「やっぱり、変でしたか?」

「いや、友人がいる事はいい事だ。だが、寄ってくる者全てを友人にする必要もない。ウリートの事を友として本当に大切に出来るものだけを友人と呼んだらいい。」

「ヒュンダルン様は、反対は…されないのですか?」

 さっきライーズ副書記官長の言葉を止めたヒュンダルンの様子であれば、友人を作る事を歓迎していない様に受け取れた。

「……何を思って近付いてくるか、が問題なんだよ、ウリート…」
 
 そっと、アランドがいつもしている様にヒュンダルンはウリートの頭をつい撫でてしまった。普段であれば人前でそろそろ成人と呼べる友人の頭など撫でたりはしないものだろう。

「何を思って、ですか……」

 ウリートはヒュンダルンのその行為に何も思わない様で、アランドにされるがままになっている様にヒュンダルンにも好きにさせていた。

 ふと、ヒュンダルンは触れていた指先に違和感を感じる。

 熱い……?

 ウリートの頬は赤く上気していない。が、指が触れた額が物凄く熱い?逆に頬は透ける様に白いのだ。

「ウリート?」

 ヒュンダルンの眉がギュッと寄せられて、真剣にウリートを見つめてくる。

「はい…どうしました?」

 受け答えはしっかりとしている。が、急いで握った手が氷の様に冷たいのだ。本日は晴天、まだ陽は高くないと言っても手足が冷える程の陽気ではない。

「帰るぞ!?」

 突然ヒュンダルンに帰宅を宣言されたものだからウリートは目を丸くする。

「どうかなさいました?何が…?」

「具合が悪いならそう言いなさい!」

「え……!?」

 オロオロしているウリートの手をヒュンダルンは有無を言わせずに引いていく。

「あ、おはようございます団長……」

 丁度書庫の外にはヒュンダルンに用事でもあったのだろう、リード・サラント副騎士団長がいる。

「悪いリード。抜けるぞ!」

「抜ける?お帰りになるのですか?」

 ヒュンダルンに無理矢理に引かれる様な形になっているウリートを見て、リードも何か感じたらしい。

「第3騎士団長は郊外ですよ!」

 今日は演習のため第3騎士団は城から出ている。主に城外での業務にあたることが多いので城にいること自体が珍しいらしい。

「分かっている、アクロース家の馬車が待機しているはずだ。」

 アランドが仕事でウリートを送れない時にはヒュンダルンがアクロース侯爵家の馬車までウリートを送っていく。これがこの頃の日課であった。だから今日も馬車が待機しているはず………

「アクロース侯爵子息!!」

 とにかく急がなければと足を早めていたヒュンダルンの後ろからリードの悲鳴の様な声が上がる。バッと振り返ったヒュンダルンの目にはゆっくりと頽れ、倒れていくウリートが映る。

「ウリート!!」

 そのまま倒れる前にヒュンダルンはウリートを受け止めたが、既にウリートの意識はない。

「リード!ロレールを呼べ!!」

 ここからならば城内の医務室よりも馬車の方が近い。

「了解!!」

 リードが矢の様に走り去るのを横目で見つつ、ヒュンダルンはウリートの状態を確認していく。

「ウリート…!ウリート!」

 いくら呼んでも目を覚さないウリートの呼吸が徐々に乱れていく。ヒュンダルンは背筋が凍る程の、今まで感じた事もない恐怖が心に湧いてくるのを強引に抑えつつ、ウリートを抱え上げ馬車へと急いだ……














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