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10、兄の友人 3

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「3日だぞ?」

 熱が引き、食事をやっとまともに食べられる様になってから弟セージュのお小言が炸裂した。

「うん…そうだね?」

「分かってるのか?」

「うん。」

 ぶっきらぼうな物言いのセージュだが本気でウリートの事を心配している。毎朝毎朝ウリートには専属の侍女がいるにも拘らず、ベッドサイドに張り付いていて朝の訓練には家の者に押し出される様にしてやっと出かける始末であった。今も栄養価が高い果物を片手に持ちウリートに食べさせようとしている。

「だから俺も行くと言っただろう?」

「ただのお茶会だよ?セージュ。」

「そのお茶会で倒れただろ!」

「はい、ごめんなさい。」

 もう何度となく繰り返すこの会話にセージュは飽きないのだろうかと疑問が湧き上がる頃、お客がきていると侍女が声をかけてくる。

「何を言っている?兄上は臥せっているだろう?」

 何を馬鹿な事をとセージュは眉間を寄せた。

「それが……アランド様がお許しになられた様で……」

 侍女も困惑気味なのだろう。普段もそうだがアクロース家にはめったに客が来ない。そしてウリートを訪ねてくる人物は親戚以外では皆無であった。

「誰だ?」

 その客人は…

「こちらに……」

「失礼を承知で訪問した事をお許しください。アクロース侯爵子息、ウリート殿、セージュ殿。」

「…!?……ゴーリッシュ第1騎士団長!」

 謝罪を口にしながら部屋へと入室して来たのは、王室で開かれた茶会であったばかりのゴーリッシュ騎士団長である。流石は騎士団入団希望のセージュはゴーリッシュの姿を確認次第、バッと立ち上がって礼をする。

「畏まらないでもらえると嬉しいのだが…先日の謝罪を込めて訪問させてもらっている。ウリート殿のご加減は如何だろうか?」
 
 なんと礼儀正しい人だろう。先日、ウリートが倒れた件ならばゴーリッシュ騎士団長には直接関係のない事なのに…赤茶の髪や気遣う様に見つめてくる深緑の瞳の色は確かにゴーリッシュ騎士団長のもので、長身で逞やかな肉体はやはり同性から見ても惚れ惚れするものだ。

「この様な姿で失礼を…来られるのが分かっていましたらおもてなし致しましたのに…」

 アクロース家は広大な敷地を誇るのだ。庭には作り込まれた庭園と、ウリートの気に入りの温室もある。アクロース家の素晴らしさを持ってお迎えする事もできたのに…

「何をいう…病み上がりなのだろう?何度も身体を壊したと聞いてもいるのに、無理矢理に挨拶に押しかけたのはこちらだからな…本当に申し訳なかった…君の体調が落ち着いたとアランドから聞いたものだから訪問させてもらったのだ。リードは外せぬ任務があって来れなかったがくれぐれも大事にと伝えて欲しいと。」

 やっぱり、律儀な人だ。外見も、性格もこの様な方だからこそ皆んなにもてはやされるんだろう。

「ゴーリッシュ騎士団長様もサラント副団長様も本当にありがとうございます。私は家族親族以外に見舞ってもらうのは初めてで…お礼しか申し上げられないのですが…」

「かまわないでくれ。それよりも何か欲しい物は無いだろうか?」

 ゴーリッシュ騎士団長は先程からセージュが手に持つ果物に視線を投げる。

「欲しい物……?……………友人…友人が、欲しいです。」

「………友人?」

「兄上…」

 社交を一切してこなかったウリートには婚約者はもちろんの事、何かを相談できる友人もいない。

「……………ふむ…」

 しばらく何か考えていたゴーリッシュ騎士団長は、納得した様に肯くとウリートに向かって顔を上げる。

「謝罪を求める者に対して、好きな物や食したい物ではなく友人を求められるとは。長年、寂しい思いをされたのだな。」

 寂しい…?確かに身体が弱すぎて何度も死にかけて…でもいつも優しい家族に恵まれて囲まれて…今日も嫌と言うほどに構い倒されているくらいなのだから友達くらい居なくとも寂しくはなかったと思うのだが。後は、家族に迷惑がかからない様に早く伴侶を見つけて職を持ち家を出る事…アクロース家以外の事はほとんど何も分からないウリートだが学はあるのだ。だから何とかしなくてはと…
 
「そう…かも知れませんね…」

 家族に迷惑をかけたくなくても、そのだから何とかを相談できるのは家族、親族だけ…だから本当は……

「兄上…!友人など居なくても、俺たちがいる!本当は茶会に行くのにも反対だったのに!」

「セージュ…」

「セージュ殿、兄君が心配なのは分かるがそれでは兄君の自立を塞いでしまうだろう。いくら大事な兄君のためと言ってもそれでは兄君の将来は暗いものとなろう。人と触れ合い、他者の意見に触れていく事も兄君にとっては大切な事だと思うが?」

 穏やかで控えめな口調だが、言っている事は的を得ている。 

 そう、自立したいんだ…社会を見て、家を出て、大切にしてくれた家族がいるからこそ、立派にやっていける自分を見てもらいたいのだ。

「だが……それで、この様な事が繰り返されるのなら……」

 セージュは拳を握りしめながら言葉を選ぶ。

「うむ、ウリート殿は良いご兄弟をお持ちだな?」

「え?」

「何かあればここに帰ってくることができる。受け入れてもらえる場所があるのだから。」

 貴族家の次男であるウリートは爵位を継ぐ事はできない。だから長男さえ健康で爵位を継いでくれれば後はどうでもいいと言う家庭もあるにはある。それに比べると良い家族関係ではないかと。

「セージュ殿、ウリート殿の支えとなりなさい。ウリート殿の気持ちも挫かず、こうして弱った時に助けられる様に。家族としては十分ではないか?」

 コク…コクコクコク…

「……………」

 弾かれた様に頷くウリートの横ではまだ納得いかぬと厳しい表情をするセージュだが上官ともなろう人に楯突こうとはぜずぐっと堪えた。

「そうだな…友人か、悪くないかもしれん。私で良ければどうだろうか?」


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