[完]腐違い貴婦人会に出席したら、今何故か騎士団長の妻をしてます…

小葉石

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9、兄の友人 2

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 高身長で低い声、程よく筋肉がついた逞しい身体…なんとゴーリッシュ騎士団長の男らしい事だろう。そして素晴らしく気量が良いのにそれを鼻にもかけずさり気なくゴーリッシュ騎士団長の後ろに付き従っているサラント副団長も、美貌こそは女性かと思わせるものがあるがゴーリッシュ騎士団長よりも低い身長に見合った決して華奢とは言わせぬ引き締まった良い体躯をしているのだ。

 細身のウリートから見たらどれも自分にはないもので、健康的で鍛え上げられた身体というものはなんと魅力的だろうかとしばし惚れ惚れとしてしまう。

「ほら、やっぱり……」

「いつも一緒におられるでしょう?」

「うふふ、ではあのお噂は本当なのかしら?」

「でしたらいいわ!」

 何やら周りのご令嬢方もこのお二人には思う所がある様で、驚き過ぎ去った会場にはご令嬢方の楽しそうな囀りが復活しだす。

「わざわざ声をかけて下さってありがとうございます。」
 
 ウリートはゆっくりと失礼のない様に礼を返す。同性の友達もいない様なウリートからしたら声をかけて挨拶しに来てくれる、こんな他愛の無い事だけでも物凄く嬉しくて、緊張して目眩や動機さえしだす始末だからつくづく体力がなくて情けなくなってしまう。

「いや、茶会の席で一際目についたものだからな。他意はない。ご令嬢方も大切な時間を割いてしまって失礼した。」

 人気のある者は最後まで人心を掴む者なんだとウリートは心に刻んだ。2人とも去り際の挨拶までもが様になっていて同じ男として憧憬の念を抱かずにはおられない。周囲から聞こえてくる会話ももちろんこの2人の事中心だったのだ。絶対にそうだとか、離したくないからだとか、どちらが上下だとか、ぱっと花が咲いた様に盛り上がる話の内容は何のことか理解ができなかった。けれどもウリートの心を熱くさせるくらいこの2人は惹きつけられる存在ではあった。

 ふ…ぅ…熱い……?

「……失礼…?大丈夫か?」

 少し、顔が熱かったのは自覚していた。けれどもまさかゴーリッシュ騎士団長がそれを目敏く見つけるとは思わなかった。少し緊張で熱ったと思われた頬は本格的に熱を持ち始めた様だ。

「あ、はい。お構いなく…いつもの事ですから…」

「あら、ウリート様?」

 赤みがひかない白い頬に、少し慌てた様なゴーリッシュ騎士団長の声。何か異変が、と同席の令嬢達が気付き始めた。

 いつもこうなのだ…いつもと言うよりたった一回の子供の頃の茶会でも…ワクワクしながら参加して、訳がわからないうちに体調を崩していたっけ…

「お身体がお弱いと、先程お聞きしましたよね?」

 ゴーリッシュ騎士団長の隣から綺麗な眉を心配げに寄せてサラント副団長がウリートの顔色を伺う。

「そうなのです……お恥ずかしながら……」

「ま!具合が悪くなってしまわれたの?ウリート様…」

「大変!」

「馬車をお呼びしましょう!今すぐ!」

「では、私が運ぼう。」

 ゴーリッシュ騎士団長はその場に跪いてウリートを抱き抱えようとする。

「いえ、そんな事をしてもらう訳には…!」

 なんたる失態…今日初めて会う様な方にこんな迷惑をかけるつもりなんてなかったのに…!

「ウリー!?ウリート!!」

 どうやって断ったらこれ以上失礼にならないか必死に考えているところで良く聞き知った声がウリートの名前を呼んでいるのが聞こえた。

「あ…」
 
 そちらの方へ顔を向ける前にウリートの名前を呼んだ人物が茶会会場へと走り込んでくる。

「兄様……」

「ま!あのお方は…!」

「第3騎士団のアクロース騎士団長じゃありませんこと?」

「今日はなんてついてますの!」

「嫌だ…なぜ?」

「あ、アクロース子息様のご体調が…?」

 一瞬華やいだ会場がまたもやざわめき始める。

「ウリート!だから無理をするなと言ったのだ!」

 アランドは会場の雰囲気など我関せずで、すぐさまウリートの頬や額に手を当て始める。

「兄様…出仕は?」

「そんな事はどうでも良い。先程騎士団には顔を出したのだ。ほら、ウリート…熱がある…」

 この過保護な兄は周りの事など一切見えていないに違いない。ウリートの熱を測るためにアランドはウリートの額に自分の額をつける。

「きゃあぁぁぁ…!」

「し!し~~!!」

「いけませんわ!折角の尊いお二人の時間が!」

「お、お身体の具合がお悪いのでは?」

「そ、そうですわね?大丈夫かしら?」

 ざわめきが歓声に変わり…茶会というのは非常に忙しなく騒がしい所だったのだろうか?
 熱でボゥッとして来ているウリートの耳には遠くの方で鳴り響く大雨の音の様にも聞こえる。

「ウリート!大丈夫なの?」

 アランドが会場に現れた事で異変に気がついたエリザが駆けつけて来た。

「無理をさせてしまって?ウリート?」

「叔母様?いいえ…大丈夫です…」

 情けない事にここで意識を失ってしまった…

「ウリート!」

「さ、お早く!庭園前まで馬車を来させていますから!」

 馬車の手配に走っていた侍女が声をかける。

「分かった!連れて行こう!」

「アランド、余計な負担をかけた様ならば済まなかった。また謝罪は改めてさせてもらおう。」

「いたのか、ヒュンダルン…」
 
 馬車までの短い道のりを騎士達は急足で進み行く。

「全く…お前は、弟君しか目に入ってない様だな?」

「当たり前だ。何度死にかけたと思っている…?これにはただ普通の幸せがあれば良いと…」

 ここに寄越したのに……

「そうか…今日の所は早く帰ってやると良い。騎士団の方には俺から話しておく。」

「頼んだ。」

 ウリートをなるべく揺らさない様に馬車に乗せるとアランドは急ぎアクロース家へ向かう様に御者に命じた。













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