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23 記憶にございません

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「ラッキービーナは……あなた?」

 最後消える前のミッチェルの言葉。だが、どう言うこと?何のこと?

 この歳になるまでラッキービーナなんて名前も聞いたことなかったのよ?聞いた事があると思ったのが数日前じゃない?そもそもラッキービーナって何なのよ!?


 ……ラッキービーナ………私は名前を聞いた事がある…我が家の納屋深く眠っていた昔からの手紙達…私にしか見えない文字に、会いに来る人々…

 私が…?ラッキービーナ…?それとも先祖代々ラッキービーナ?納屋に眠っていた手紙には古すぎるものもあったから。何代も前の先祖の物だと思えるし。

 考えれば、考えるほど頭が混乱する。

 それに、なぜ、私は森へ入れないんだっけ?

 無理なものは無理、ともう余計なことを考えないように今まで生活してきたのに、ここに来て妙にそれが気にかかる…

「母さん…?どうだったの?」
 
 サラが心配そうに家の中をうろうろしながら待ってたわ。

「う…ん。ミッチェルとその婚約者の男性が来たわ。」

「へ?ミッチェル?婚約者?」

「久しぶりに会えて…喜んで…消えていったわ…」

「うわ!また消えたの?」

 未だ信じられない、と言うような表情で表へ続くドアを見つめるサラ。

「……うん…」

 なんだか呆然としながら椅子に腰掛ける私。

「サラ…何で母さんは森へ入れないんだっけ?」

「?小さい頃からだったんじゃ無いの?誰かに止められるって…」

だと思う?」

「誰に?……昔聞いたことあったかな?どうしてもダメだって言うのは知ってるんだけど…」

 そう、そうよね。自分だって分からないものを家族が知っているはずないんだわ。ただ押さえられる、知っているのはこれだけね。一息ついたら席を立つ。

「サラ、ちょっと行ってくるわ。」

「今度はどこへ?心配だから一緒に行っても良い?」

 私に代わって昼食と夕食の仕込みをしていてくれてるサラの手を何度も止めてしまうのは忍びないわね。

「もう一度、森の前でゆっくり考えてみたいの。何か分かるか、かもしれないでしょ?」

「母さん……じゃあ、父さん達が帰ってくるまでね?」

 うん、と私はサラに肯いてゆっくりと森の入り口に向かって行った。
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