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11.めろめろのあまいかおり
しおりを挟む土曜日、デパートやショップが立ち並ぶ駅前中央通りの歩道は、たくさんの行き交う人たちで、人を避けて歩くので大変だ。
「アっ」
駅で電車を降りて、映画館のあるショッピングモール行きが出ているバス停に向かっている途中だった。
となりを歩いてる英嗣の顔を見ながらしゃべっていたら、前から歩いてきてたオンナのコたちに気がつくのが遅れた。
それで、
あっ、と思ったときにはもう、オレと同じ、高校生ぐらいのオンナのコと肩がぶつかって、
時間を確認しようと手に持っていたオレのケータイが、そのコの足元のほうに転がって行った。
「ア、ごめんなさい」
そのオンナのコが、オレのケータイを拾おうとしてくれたけれど、
今度は、そのコに違う方向から来た人がぶつかって、よろけそうになったから、オレは、あわててそのコをささえた。
お互いに中腰で見つめあうような格好になった。
つかんだ腕は、細くてやわらかくて、
それに、
すごい間近にオンナのコの顔。
(・・あ)
くっきりした顔立ち。目と口に薄く化粧。ピンクのグロス。ラメっているブルーのシャドウ。ブラウンの長めの髪は毛先がゆるくくりん、としている。
でも、それよりも・・・。
立ち上がったオンナのコと、すみませんを言いあったあと(ケータイは、英嗣が拾ってくれた)、駅のほうへと歩いて行ったオンナのコのうしろ姿を、
オレは、ぼぉっと見送った。
「あのコ、いいなぁ」
はぁ、と溜め息がでた。
「―――― バスが来るよ」
英嗣が、オレの腕を取ると早足に歩き始めた。
バス停は、ほんのすぐそこにある。
そんなに急がなくても、バスはたくさんあるし、映画の上映時間まで、かなり余裕なのに。
オレの腕をにぎったまま、英嗣が前を向いてすたすたと歩くから、追いつくので精一杯だ。
英嗣がオレの前を歩いてくれたから、人にぶつからずにはすんだけど、早すぎな歩調だったから、バス停に着くと、オレはかるく息をきらしていた。
バス停では、ベンチが2つある屋根つきの待合所から歩道へはみ出すくらいの人たちがバスを待っていた。
その隅っこで、ふぅ、と息をついたあと、
「さっきのコ、いーにおいがした」
オレは、来た道を振り返って言った。
英嗣が、つかんでいたオレの腕にぎゅっと力をいれた。
そんなに強くにぎらなくても、はぐれたりしないのに。心配性だなぁ。
「あのコさぁ、」
英嗣の眉間にぐっと力が入ってるのが見えたけど、それがどうしてなのか考える余裕がないくらい気持ちが騒いでいた。
「チョコと、カスタードクリームと、シューのにおいがした」
オレはうっとりして、言った。
「絶対、エクレア食べたんだよ」
「・・・・・」
「すごーく、おぃしぃー」
口をもぐもぐさせながら言った。
オレ、別にねだったわけじゃなかったのに、
えーしが、バス停の近くのスイーツショップで、エクレアを買ってくれた。
てろっと甘いカスタードクリームの中に、新鮮で甘酸っぱいイチゴが入っている!
ねろりとしたクリームに、パリッとしたシューがナイスにマッチしていて、ほろ苦いチョコレイトが、いい感じにアクセントになっている。
すごい、おいしくて、うれしくて、
「オレ、すごーい、しあわせー」
って、これ以上にないくらいの笑みを、えーしに向けた。
「・・・・、そう、よかった」
( おわり )
【おまけ小話】
日曜日。
英嗣んちに、お昼過ぎにやってきた。
出迎えてくれた英嗣といっしょに、玄関からつづく廊下を歩いていると、・・・。
ん?
英嗣の腕をつかんで、歩みを止めて、
くん、とにおいを嗅いだ。
におう。
さらに、英嗣の頬に両手を添えて、口のまわりを、くんくんと嗅いだ。歯磨き粉のミントの香りにまじって、ほのかなにおいが残っている。
「―――― 皓也・・?」
「えーし、メープルシロップのにおいがする」
「・・・・・・。ブランチに、パンケーキを食べたんだ」
「っわーい」
英嗣のお母さんが、多めに焼いていたパンケーキを、英嗣がオーブントースターで温めてくれた。
きつね色のほかほかのパンケーキに、
ブラウンのてろっとした液体 ―――― 香ばしく甘いにおいのメープルシロップは、ダイヤモンドよりも輝いて見える。
それに!
それに!!
英嗣がパンケーキに、ヴァニラアイスものっけてくれた。
「オレ、英嗣のこと、世界一好きーーー!!!」
「・・・・・ありがと」
( おわり )
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