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10. めろめろの秘密
しおりを挟むいつもいつも、くっついてたいって思うのはヘンなのかなあ?
読んでいたマンガ雑誌を膝の上に置いて、オレは大きく伸びをした。
気持ちよく伸びをしたまんま、オレはカーペットの上にゴロンと横になった。
「読み終わった?」
オレから少し離れたところで床に座り込んでタブレット型のパソコンをいじっていたえーしが、そんなオレに気づいたらしく、視線は手元に向けたままオレに声をかけてきた。
「ううん、まだ、途中。ずっと、同じ姿勢で読んでたら、身体が痛くなってきた」
オレからは、えーしの後姿しか見えないけど、えーしがちいさく笑ったのが分かった。
「そこまで熱中できるなんて、すごいな」
「うん、だって、すごい、面白いし!」
学校帰り、えーしんちに来る途中のコンビニで買ったマンガ雑誌には、続きを読むのが待ち遠しい連載がいくつもあって、オレはえーしの部屋に入るなり、ページを開いていた。
「えーしも、読んでみる? オレ、コミック、持ってるよ」
「そうだね。興味が沸いたら、皓也(こうや)から借りようかな」
「うん、そんときは言って!」
オレは、寝そべったまま、凝った首をコキコキいわせながら、えーしに言った。
えーしの部屋は相変わらず、きれいに整っている。
勉強机の上も、その横の棚も、きちんと整理されていて―――― 。
(ホント、オレの部屋とは大違いだ・・)
「えーしは、パソコンで何、みてんの?」
少し肌色っぽい白い天井をながめながら、オレはのんびりと聞いてみた。毛足の長い緑色のカーペットは寝心地が抜群だ。
「アザラシの生態のドキュメンタリー番組だよ」
オレ、あんましパソコンに詳しくないけど(てか、持ってないし)、パソコンで世界中のテレビ番組が観れるらしい。
(う~ん、、、アザラシかぁ・・・)
イマイチ、っていうか、全然、オレには興味がない分野だ。
けど、えーしが好きで観てるってどんなのだろーと思い、オレは身体を起こすと、膝に乗せていたマンガ雑誌を床に置いて、膝立ちでえーしに近づいて行った。
そして、えーしの肩越しに、えーしが手に持っているタブレット型のパソコンを覗き込んでみると、ボリュームをしぼっていたらしく、そこまで近づいてようやくパソコンから英語での解説の声が聞こえて来た。
画面には、アザラシの群れらしきものが写っている。
海と岩場と何頭ものアザラシ・・・。
正直、どこかどう面白いのかオレにはさっぱり判らない。
(えーしって、こーいうのは観るみたいだけど、フツーのテレビ番組とか、お笑いとか観ないよな)
えーしにテレビの話題をふっても、反応がイマイチだから、自然とテレビの話しはしなくなったっけ。
それは、オレが、えーしから本の話しをされても、全然、ついてけないのと同じだ。
「えーし、重い?」
「いいや」
その返事に気をよくして、オレは膝立ちのまま、えーしの背中にもう少しもたれかかった。
オレもえーしも制服のブレザーは脱いでたから、薄いシャツ越しに、えーしの身体を感じることができる。
「―――― 僕の上腕三頭筋がどうかした?」
ふつーにしてるのに、えーしの腕の筋肉、硬いよなーって、さわってたら、えーしがオレのほうをちらっと見た。
「え、うぅん、別に、」
えーしのをさわった後に、自分の筋肉具合を調べて、少しがっかりする。
「えーしって、いつ鍛えてんの?」
読書とか勉強とかしかしてない感じなのに、ちゃんと運動してる身体だし。
「ああ、うちの地下にトレーニングルームがあるから。そこで、たまに」
パソコンの画面に視線を戻したえーしが、なんでもないことのように言った。
「え! えーしんちって、そんな部屋があったんだ!」
地下室があるとか、すごい!
そっかー、えーしんちの家族は、みんな武道をやってるって言ってたけど、家にはちゃんとトレーニングできる部屋があったんだー。
「えーしって、ちっちゃい頃、空手を習ってたっんだっけ?」
確か、途中で止めたんだって言ってたなー。
「・・うん、まあね」
余程、アザラシの生態が佳境なのか、なんだか気のない返事だった。
ちょっぴり、取り残されたような気分になってしまう。
(ちぇー、別に、いいけどさー)
また、マンガを読もうかなあ、と思ったけど、一度くっついてしまったら、えーしの身体から離れたくなくなっちゃったし。
かと言って、えーしと一緒にアザラシのドキュメンタリー番組を観たいわけでもない。
どうしようっかなあ、と、えーしに抱きついたまま考えてて、ふと、ひらめいた。
うん、オレ、アザラシの生態には興味はないけど、えーしの生態になら興味があるなあ。
オレは、ぺったりくっついていたえーしの背中から少し身体を離すと、そーっと、えーしの右耳のうしろあたりを隠してる髪の毛をかき分けた。
(へへ・・)
えーしの右側の耳のうしろにホクロがある。
耳のつけ根から少し離れたトコ。いつもは髪の毛で隠れているところに、縦に2つ並んでいる。
きれいに一直線状に並んでるのが珍しい。
普段じゃ絶対に見えないところだから、きっと誰も知らないだろーなー。
この前、偶然、見つけた・・んだ。
何をしていたとき、なんてことは、思い出すと恥ずかしいから、そこんとこはスルーした。
(このホクロ、えーしも、知らないかも)
オレだけが知ってる、えーしのコト。
なんか、そーゆーのがうれしくて、にまにましてしまう。
オレはその2つのホクロを指でなぞった。
それがくすぐったかったのか、えーしがぴくっと身体を揺らした。
あ、ごめん、って言おうとしたら、
「僕、たしか、そこにホクロがあるんだよね」
って、何気ない感じで、えーしが言った。
「え・・、なんで、えーし、知ってんの? 鏡で見るのも難しいトコなのに」
驚いて、後ろから、えーしの顔をのぞきこむと、世にも珍しいことに、えーしが、「失敗した」ってゆー顔をしてる・・。
「―――― 前に、 トモダチが、僕に教えてくれたんだ」
オレの顔を全然、見ずに言った。
家族とかじゃなくて、髪をカットしてもらうお店の人からとかじゃなくて、「トモダチ」って言ったのも、胸に引っかかった。
「・・・へー、そうだったんだー。ふつーだったら、髪の毛に隠れててわかんないのに」
「うん、まあ、そうだね」
歯切れが悪い感じで、えーしが言った。
オレ、同じクラスの友達から、鈍感とか天然とか言われてるけど・・・、でも、こんなふうに、ものすごく近寄らないと分からない場所にあるホクロを知ってる「トモダチ」とかって、ただのトモダチじゃないよな、っていうのぐらい、オレだって気がつく。
オレは、えーしから手を放した。
密着していた身体が離れて、急に肌寒くなった。
(誰が、えーしに教えたんだろう・・)
なんか、急に、えーしに「バカ」って言いたくなって、でも、言う理由なんてないことはわかりきってたから、言えなくて――― 。
それで、オレはカーペットの上に腰を下ろすと、えーしの背中に倒れこむようにして自分の肩をえーしの背中にぶつけた。
でも、えーしの背中は全然、揺らがないから、オレはそれが、すごく悔しかった。
そして、そのまま、身体ごとえーしの背中にもたれかかった。
「前に、さぁ・・・、えーしが、」
やっぱり、くっついてるとあったかいなあ、と感じながら、オレは、モゴモゴとつぶやいた。
頭の中に、隣のクラスの女子生徒の顔が浮かんでいた ―――― 前に、えーしとつきあってたコだ。
生徒会に入ってて、髪が長くて、姿勢が良くって、いつも、ハキハキしてて、キレイなコ。
(あのコが、えーしにホクロのこと教えたのかなー。それとも、あのコの前につきあってたカノジョかな。オレが知ってるのって、うちの高校のその二人だけだけど。去年、一年のときに、えーしが大学生とつきあってるって、チラっと聞いたこともあったしなー・・・)
いろいろ考え出したら、胸がもやもやしてきた。
「えーしが、前に、つきあってたコって、」
オレは口ごもった。
自分で、何を言いたいのか、何を聞きたいのか分からなくなった。
「―――― かわいいよね」
「そうかな?」
思いついたことをテキトウに言ったオレに、えーしが自然な感じで返事した。
別に、オレが前のカノジョのことを話題にしても、気になんないふうだった。
「うん、かわいいと思う。あ、でも、カワイイっていうかキレイ、なのかも」
口だけ、ぺらぺらと動いて、本当に言いたいことが頭の隅っこで固まってるみたいな感じがした。
誰が、ホクロのこと、えーしに教えた? って、聞きたいだけなのに、なんか、すごく、遠回りをしている。
オレって、こんなに臆病だったかな・・。
「えーしは、あのコのどんなトコが好きだった?」
「突然、どうしたんだい?」
えーしの口調に、不思議そうな色合いがまじる。
そりゃそうだよな、急に、そんなこと聞かれても困るよな――、オレだって、なんで、そういうこと口に出しちゃったかわかんないや。
けど、
「どんなトコ?」
オレは、他の言葉は知らない、みたいな感じで同じ言葉をくりかえした。
「 ―――― 忘れた、かな」
「・・・へー、」
小さく聞こえていた、パソコンからの音声が消えた。
ストップしたのか、終わったのか分からないけど、そばにあったローテーブルに、えーしがパソコンを置いた。
そして、身体ごとオレのほうを向こうとしてきたから、オレはもたれていたえーしの背中から身体を離した。
二人ともカーペットの上に腰をおろしたまま、間近で向き合う形になった。
でも、オレは、えーしのこと見れなくて、カーペットの縁を目で追っていた。
「本当に、急にどうしたんだい?」
「・・・べつにー。ただ、なんとなく、聞いてみたくなっただけ」
(べつに、チョット、不安になっただけ・・)
「そう」
納得したんだか、してないんだか、分からない感じで、えーしが返事した。
「それじゃあ僕も聞くけど、皓也が前に好きだった人は、どんな人だった?」
「え、オレ?!」
イキナリそんなこと聞かれて、びっくりして、オレは顔を上げた。
すこしだけ目を細めて、えーしがオレのことを見ている。
「そうだよ。僕、まだ一度も皓也から聞いたことなかったよね」
気軽な感じで、えーしが言った。
そうだったっけ???
急にそーゆーことを聞かれて、驚きつつも、オレは、考え考え、返事した。
(オレが、前に、好きだったのって、)
「えーっと、―――― 中学の時に通ってた・・・、塾の先生だった」
そんなに遠い昔のことじゃないのに、もう、すっかり忘れていた。
「男性?」
「え、うん」
「どんな感じのヒト?」
興味深そうな口調で、えーしが言った。
「えっと、大学を卒業したばっかりの先生で、面白くて、いつも冗談ばっかり言ってて、」
しゃべりながら、センセーのことを段々と思い出してきた。
日に焼けてて色が黒かったっけ。アマチュアサッカーをしてるって言ってたなー。
背が高くて、いかにも、スポーツマン! っていう身体つきで、目じりにはくっきりと笑いジワがあって、顔はカッコイイお笑い芸人って感じだった。
「でも、勉強はわかるまでしっかり教えてくれて、それで、成績が上がらなくて落ち込んでる生徒を励ますのが上手だった」
そーいえば、オレも何度も励ましてもらったっけ・・。
うん、そう、それで、そーいうコトが何回かあって、オレ、センセーのことを少しずつ好きになって行ったんだった。
センセーのことを思い出して、少しだけ、緊張がゆるんだ。
口元がニコってなったのが自分でも分かった。
すると、えーしがにっこりと笑った。
でも・・・。
くちびるのはしっこがちょっと上がってるから、笑っているように見えなくもないけど。まるっきりの笑顔、って気がしないでもない。
(どうかしたのかな・・・。足がしびれてきたとか?)
「随分、素敵な先生だったんだね ―――― 告白は?」
「えっと、した・・・んだ。高校受験の合格の報告をしに行ったときに」
「そうしたら?」
「そしたら、先生は「ごめんな」って言って、オレの頭を撫でてくれた」
今思えば、まるっきり子ども扱いだったけど、それでも、最後に「ありがとう」って言ってくれて、それが、すごくうれしかった。家に帰って、すこぅしだけ、泣いたけど・・。
「なるほどね、そんなに優しくていい先生なら、また、会ってみたくなったりするんじゃないかな?」
「うん。っていうか、会ったし」
片思いで、失恋した相手だし、そんな大したことでもないよなー、と思いつつ、オレは言った。
「―――― へぇ。いつ?」
「毎年、夏に、塾生だった生徒なら誰でも参加できるバーベキューがあって、そんときに会ったんだ」
「それって、去年の話し?」
「去年も今年も参加した」
「そうか、毎年参加するほど楽しい会なんだ」
うんうん、と頷きながら、えーしが言った。
「うん。バーベキューは、塾長先生んちに広い庭があって、そこでブロックを積んで火をおこすとこからやるんだ。外で肉を焼いて食べるのも楽しいけど、みんなでそーいう準備したりするのもすごい、面白いんだー。それに、お世話になった塾の先生たちや、塾が同じだった友達に会えるのも楽しみだし。食べ終わった後は、花火とか肝だめしをして―――― 」
「その好きだった先生とは、何か話した?」
オレが話してる途中で、えーしが聞いてきた。
「え、うん、話した」
「どんなことを話した?」
センセーは相変わらずカッコよくて、面白くって、しゃべってるとあっというまに時間が過ぎて行ったっけ。
「えっとね、センセーはオレの高校生活とか、これからの進路こととか、気にかけてくれてて、そんな話しをいろいろした」
まあ、でも、それは、オレだけじゃなくて、センセーは他の塾生だった子にも同じように尋ねていたけど。
でも、なんか、センセーと話してても、胸が痛くなるぐらいのドキドキは、もうなくて、えーしとふたりっきりで居るときみたいな、なんだかすごいドキドキ嬉しい! みたいな気持ちもなかったっけ。
オレは、えーしのこと見つめた。そしたら、自然とにこっと笑顔がでた。
えーしのことすごい好きで、ふたりで居られることがすごい嬉しいなーと思ったから。
「ふーん」
えーしが、メガネのブリッジを押し上げた。
そこで、オレははじめて、えーしの口元は笑ってるけど、目が全然、笑ってないことに気がついた。
(あれ、れ? なんか、怒ってる、っぽいんだけど)
なんでだろう???
「まさか、また、頭をなでられたりしなかっただろうね」
少し強い口調で、えーしが言った。
「え・・、そんなのなかったよ。写メ撮るときに、肩を組んだぐらいだったし」
それも同期の塾生、5、6人で撮ったときで、たまたまセンセーと隣だったから肩を組んだだけだし。
でも、そう言った瞬間、えーしの右のほうの眉がぴくっと動いた。
そして、
「泣かせたくなった」
唐突に、えーしが言った。
オレは言葉の意味がのみこめずに、首をかしげた。
誰を?
どうして?
それが、オレをだなんてわかったのは、そのすぐあとで―――、
そうして、どうしてなのかは、全然、分からないままだった・・・。
「ばか」
「はい、丁度いい温度だと思うよ」
かすれた声で言っても迫力なかったかもだけど、オレは真剣に言ったのに、えーしは全然、気にしたふうもなくオレに蒸しタオルを手渡してきた。
ベッドの上で、まだ裸のままタオルケットにくるまっていたオレは上半身を起こして、ボトムだけを身に着けているえーしの手から蒸しタオルを奪い取った。
そして、えーしに背を向けた。
(えーしの、ばかっ! あんな・・・の、ヒドイんだから)
オレは心の中で、えーしのことを罵りながら蒸しタオルを顔にあてた。蒸しタオルはほどよくあったかくて、腫れたまぶたにおしあてるとすごく気持ちがよかった。
蒸しタオルでまぶたの腫れをさましていると、いつの間にかベッドに入ってきていたえーしに、背後から腕ですっぽりと囲まれてしまった。
盛大に汗をかいたままの肌が密着して、ぺったりと身体がくっつく。
オレは、渾身の力を込めて、えーしの身体を押しのけようとしたのに、全然、ダメだった。
えーしの力強い腕に抱きこまれたまま、もがいていると頭のてっぺんに、えーしのくちびるの感触がした。
その行為だけで、火照りが残る身体は、ぞくぞくっと反応してしまう。
「バカっ、もう、しないからッ」
「僕に、『バカ』って言うのは、皓也ぐらいだよ」
すごく満ち足りたような甘い声で、えーしが言った。
「約束、忘れちゃだめだよ」
だめだ・・・。
そんなふうに、やわらかく髪をなでられると、身体の力が抜けてく。
ばか。
オレは心の中で、も一回つぶやいた。
散々、泣かされたのに、どうしちゃっても、えーしのことを許してしまう自分が、すごいバカだと思ったから。
「約束したこと、ちゃんと覚えているよね」
返事をしないオレに、念を押すようにえーしが言った。
オレはしぶしぶと、小さくうなずいた。
なんで、塾んときのセンセーにもう会っちゃいけないのかわからない。
わからないのに、ムリヤリ、約束をさせられた。
(あ、あーいうときに、あんなふうにされたら「うん」って言うしかないじゃないか!)
あんな約束とか無効だし!
と、思うけど、もし、今そう言ったら、またとんでもなく恐ろしい目に会いそうで言えなかった。
「皓也は、ここにホクロがあるよね」
オレの右肩の先っぽを、背後からえーしが舐めた。
身体がぴくっとふるえた。
「それから、ここにも、」
肩先から、二の腕のまんなかあたりまで、舌でたどられて、そのホクロがあるとこを、えーしのくちびるがかるく吸った。
じわ・・っと、さっきまでえーしとつながってたトコが、熱くなっていく・・・。
「も、・・ゃだ」
タオルを目に押し当てたまま、オレは言った。
「もう、イジワルなことはしないよ」
「―――― さっき、すごい、いじわる、だった」
「うん、ごめんね」
「ばか・・」
そう言ったオレに、えーしは返事のかわりに、ぎゅうっと抱きしめてくれた。
横抱きにされて、オレの肩にえーしの胸が当たる。
心臓の音が、はやい。
オレは冷たくなり始めていたタオルを顔から離すと、ゆっくりと、えーしの顔を見上げた。
そして、指先で、えーしの右の耳をさわった。
耳の裏側、付け根から少しはなれたトコ。2つきれいに縦に並んでいるホクロがあるあたりを。
「ここにあるホクロ、オレだけが知ってるのかも、って思ってた」
かるく言ったつもりで、声が沈んでしまった・・。
「え?」
そう言ったオレに、えーしが少し驚いたような表情をした。
そして、抱擁をとくと、オレのことをまじまじと見た。
「それが、さっき、皓也がヘンだった原因?」
「べつに、オレ、ヘンじゃなかったし」
そう返事したオレのことを、えーしがあんまりジーっと見つめてくるから、オレはその視線から逃げるようにして横を向いた。
そうか、とえーしが何やらつぶやいたあと、
「本当は、知られたくなかったんだけど、」
内緒話みたいに、えーしが声をひそめた。
「僕ね、小学生の頃、ボウズだったんだ」
「・・・ぼうず、って?」
「坊主頭だよ。小学3年生まで、家の方針で空手を習っていたから、頭を丸刈りにしていたんだ」
!
なんか、意外すぎて、想像できない。
そしたら、えーしが、なんだか申し訳ないような顔で言った。
「だからね、耳の後ろのホクロは、誰にでも見えていたんだ」
え・・・っ!!!
( おわり )
応援ありがとうございます!
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