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6 普通の転生者、アルバイトをする

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「ロイ! 3番の定食あがったよ!」
「はーい!」

 動きやすく、完璧に平民に見える服と、魔法で髪の色をこれまた平民に多い赤系の茶色に変えて、顔に少しだけそばかすを散らす。これで『ロイ』の出来上がり。


 学校が早めに終わる2日間、僕はロイになって、隣町の食堂の手伝いをしている。
 しかも賄いつきなんだよ。お得!
去年から少し講義の数が減ってきたので、働ける時間もちょっとだけ増えた。
 夜はお酒も出るけど、店主がしっかりしているからガラの悪いお客はいない。

そして休日は、市場でフルに働く。ちょっときついけど時間が長い分給金はいい。
 正直未成年者を雇ってくれる所なんて少ないから助かった。
 市場って結構色々な仕事があるからさ。算術が出来たのが決め手になったんだ。
 ここはね、ロイじゃなくてそのまま働いているんだ。身分証明みたいなのが必要だったのと、その方が待遇が良かったから。

 貴族の子息が働くなんてって言う人もいるけどさ、田舎の子爵家の三男なんて、いずれは平民になる可能性の方が高いんだ。何でも出来ておいた方がいいし、なんなら前の記憶もあるしさ。
 それに試験に受かったら、やっぱりそれなりにお金がかかると思うから、使うだけじゃなくて貯めないといけないからね。

「ロイ!こっちにエール2つ」
「はーい!」
「ロイ! こっちは肉の煮物だ!」
「はーい!」

 常連さんも出来ている。

「ロイ! 4番のステーキ」
「はーい! 2番にエールを二つでお願いします」
「はいよー」

 食堂のおばちゃんはパワフルで優しい。
 えっとほら、ああ、前世でいうと肝っ玉母さんっていうのかな。そんな感じ。
 たまたまこっちの方の本屋に来て、たまたまこの食堂の求人募集を見つけた。そして雇ってもらえた。

「ロイ、また来ているよ。あの客。ロイの来る日だけやってくるんだ」

 同じ接客のマルクからそう言われて僕はちらりとそちらを見た。
 いつの頃からか見かけるようになった黒髪の男。見覚えはない。でも何かを言われた事も悪さをされた事も勿論ない。

「たまたまじゃない? だって話しかけられた事もないよ。あ、テーブル空いたから片付けてくる」
「そうかなぁ、ロイの事見ているような気がするけどなぁ」
「マルク! 中の皿洗いの手伝いをしておくれ! ついでに冷菜盛り合わせの仕上げも頼むよ」
「はい!」

 いずれは調理人になりたいマルクは嬉しそうに厨房の中に入った。
 僕は次々に上がって来る料理を運んで、片付けての繰り返し。今日は本当に忙しい。

「ロイ、遅くなったから気を付けるんだよ。ほら、今日の分と、忙しかったから特別手当だ」
「わぁ! 助かります! ありがとうございます」
今日の給金の他に、余ったバンズと肉の蒸し焼きをもらって店を出た。

 えへへへ、明日の昼ご飯確保。それとこれでやっと新しい資料が買えるな。

「わ~、今日は混んでいたからちょっと遅くなったなぁ」

 魔力量はそれほど大きくないけど、僕はなぜか転移が出来るので助かっている。もしかしてこれが転生特典ってやつなのかな?
 今日も道を少し進んで周りを確かめてから転移をした。隣町なので魔力もそれほどかからすに済む。あっという間に自分の部屋だ。

「よし、シャワーを浴びて寝よう」

 明日は朝から講義がある。

「小さいけどマジックバックを買っておいて正解だったな」

バッグの中のパンと肉は明日の昼ごはん。
 予定額が集まったから、新しい資料は明日の午後にでも見に行こう。
小さく鼻歌を歌いながらシャワーを浴びて、ベッドに入った。

「ふふふ、これも幸せだよね!」

 何だか意識をしていれば、僕の周りには幸せが多い。という事は、幸せ計画は地道にコツコツと進んでいるというわけだ。

「新しい本が買えるのも、お昼ご飯の心配をしないでいいのも幸せ」

 そう呟いて、僕はそっと目を閉じた。

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