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5 普通の転生者、小さな幸せを集める

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 その話はまた今度詳しくしよう、とブラッドは自分の部屋に帰って行った。
 そしてなぜか「早まらないでね。よく考えて」と言っていた。
 よく分からなかったけれど、とりあえず「ありがとう」と言ってみた。


 その後、明日の講義の課題を片付けて、僕は食堂で早めの夕食を取る為に食堂に向かった。
 いつもは大抵フィルの稽古が終わるのを待って一緒に食事をとるんだけど、何となくムカついていたし、別に待つ約束をしているわけじゃなかったって思い出したから。いや、もう、今更すぎるけどさ。最終学年の夏前にそれに気付くって何なの、僕。

「……まぁいいか。えっと今日は何かな」

食堂に一人で来たら顔なじみの配膳のお兄さんが「あれ? 今日は一人か?」って聞いてきたから「たまにはそんな事もあります」って言ったら元気出せよって、肉団子を一つ多く入れてくれた。
え、ちょっと嬉しくて幸せ。

 「ありがとう」って手を振ったら「落とすなよ」って、うん? 僕、幾つに見られているのかな。
 気にしないでおこう。肉団子大目にもらったし、それに明日の夜はちょっとお小遣いを稼ぎに出かけなければいけないから。

 貧乏子爵家の三男坊は、学校に通わせてもらって、学生寮に入れてもらえるだけで十分だと思わなければいけない。
 フィルは剣術と飛びぬけた魔法量で領地なしの男爵家でも特待生扱いになっているけれど、残念ながら僕は違う。

 学校に居るだけならば実家から払ってもらっているお金で間に合うんだけどさ、寮の食堂は朝と夜だけだし、昼は別なんだよね~。どうせなら全部つけてくれと思うけど、騎士科とかは実習もあって昼は外にいる事が多いみたいでね。不平等なんだって。う~ん……
 一応学校内にも食堂はあるんだけど有料なんだよね。

 だから取らない日も実はあったりする。
家族の名誉(大袈裟)の為に言っておくけど、お小遣いもちゃんと送ってくれているんだよ。可愛い末っ子が困らないようにって。
 でもさ、ノートとか、インクとか必要なものを買ったり、それにちょっと本を買っちゃったりするとさ。うん。というわけ。

 元々そんなに大食いではないし、身体もそんなに大きくないから取り忘れちゃったくらいのものだけど、知られるとフィルに怒られる。
 一応彼は僕の家に仕えている人の子供なんだけどなぁ。

 その他にも多くはないけどたまに下着とか服とかも買う。
 さすがに貴族が通う学校で破れたり擦れたりしたものを直した(ツギハギなんて論外)服は着られないからさ。
 だからね、そんなに贅沢はしなくてもお金ってかかるものなんだよ。うん。そんなところは今も前世も変わらない。




 部屋に帰って、少しだけ試験の勉強をした。本当はこの試験用の一番新しい資料が欲しいんだ。でも最新のものはちょっとお高い。
 去年の先輩が譲ってくれた参考書はもう何度も見たけれど、それでもどこか見落としがあったら困るから繰り返し見ている。   
 そしてやっぱり最新のが、エンドレス……

「んん~! そろそろシャワーを浴びるか。フィルと食事しないと結構時間があるんだな~」

 そんな事を言いながらハタと思う。

「頭を使ったし、沢山もらったから一つだけ食べちゃおうかな」

うふふと笑って僕は小さなボールのようなカステラを一つだけ口に入れた。

「甘~い、おいしい♪」

 やっぱり寝る前の甘味って贅沢で特別だよね。幸せ~♪

「ブラッドのお菓子って美味しい♪」

 しばらくおやつに困らない。あ、これも幸せか……!

 気分が良くなって鼻歌を歌いながらシャワー浴びて、早々とベッドに潜り込んだ。
 この調子で幸せを集めて行こう。っていうか、今までも結構幸せってあったんだな~。見逃していたよ。こういうのに気づいて集めて増やしていくのが大事なんだな。うんうん。



 夜中に小さく扉をノックする音が聞こえたような気がした。
 でも一瞬だけ浮かび上がった意識はそこまでで、僕はそのまま睡魔に従った。


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