初体験が5歳という伝説の「女使い」冒険者の物語 〜 スキル「優しい心」は心の傷ついた女性を虜にしてしまう極悪のモテスキルだった

第十一章 ベラ、ブラ、パラ

馬車のなかでの一コマ

パラの王都パラリバからみて、温泉街リマは北西に約4000キロほどある。

ブラ、ベラを北上するルートは危険ではあるが、幹線道路が通っているため、馬車の旅に適している。

どうせどこを通っても狙われるだろうし、軍隊が来でも刺客が来ても対応できるとのことで、北上ルートを採用した。

パラの王室にとって、現人神リンリンへの輿入れは、もろ手を挙げて大歓迎だ。また、頭脳明晰で、実は恋愛は人生の無駄と考えている野心家のアイシャにしてみても、自分を高めるという観点で、これ以上ない縁談である。本当はさっさと使徒にでも悪魔にでもして欲しかったのだが、16歳以上ではないとダメ、というこだわりがリンリンにあるようで、たかが3カ月ぐらいと思うのだが、そこは譲れないらしい。

逆に3カ月待てばいいだけという考え方もあるのだが、ブラ、ベラが本気で自分を消そうとしてくるはずだ。そのため、この3カ月間を人間として過ごすのは、かなり危険だ。リンリンの使者が16歳になってから迎えに来てくれればよかったのだが、今更言っても仕方がない

現在、アイシャは王室の馬車に乗っている。前には今日の護衛のキョウコという女性が座っている。この女性も非常に美しい。まだ会っていないエリーゼという女性も美しいらしい。そういえば、ブラとベラにはここまで美しい王女はいなかったと思うが、ブラとベラから妃を娶らないと決めたのは、それが原因なのかもしれない。

「あのう、キョウコさん、神様の妻の方々ってのはどんな感じなのでしょうか」

「みんなやさしいわよ」

「26人もいらっしゃるそうですが、皆さん、そのう、上手くやっているのでしょうか」

「仲いいわよ」

キョウコさん、もう少し話に乗って来てくれないかな。すぐに会話が終わっちゃう。ひょっとして自分たちサイドのことはあまり語りたがらないのかな。こっちのことを話してみるか。

「父は側室が12人いて、子供が15人いて、私は側室の娘なのです」

「そう」

キョウコさんの興味はどこ？

「神様ってどんな感じの方ですか？」

「優しくてセクシーよ」

「子供なのにセクシーなんですか？」

「ええ、そうよ」

2行以上話さない無口な人なのかなあ。

「護衛の方でまだお会いしていないエリーゼさんってどんな方なんですか？」

「エリーゼ先輩はね、私の前の職場の先輩だった人なのよ。格好よくって、キレイで、優しくって、私たち後輩女性のあこがれの人だったわ」

おっ、エリーゼさんネタだと乗ってくるのね。

「でもね、男運がないというか、キレイすぎてまともな男が寄ってこないというか、とにかく不幸な境遇だったのよ。なぜか高飛車な女だって思われたりね。エリーゼ先輩のそんな境遇にどれだけ私たち後輩が心を痛めたか。ねえ、あなたにわかる？」

「は、はい。わかるような気がします」

「そんなとき、エリーゼ先輩がリンサマに出会うんだけど、先輩はただリンサマの面会人を応接室に案内しただけなのよ。そうしたら、リンサマにすっかり惚れてしまって。リンサマは当時まだ5歳よ。ねえ、あなた、信じられる？」

「いや、ちょっと信じられないです」

「それからのエリーゼ先輩は哀れだったわ。リンサマに会えなくて、どんどん憔悴していったわ。たまたま組合にいらしたフローラさんを見つけて、足を掴んで、リンサマに会わせてくれって、泣き叫ぶのよ。あの格好よかったエリーゼ先輩がよ！　その姿を見たときの私たちの衝撃といったら、あなたにわかるかしら！？」

「は、はい、想像はできます」

「でも、フローラさんは会わせてくれなかったのよ。そのままリンサマやマリちゃんを連れて街を出て行ってしまったの。それを知ったエリーゼ先輩を私はもう見ていられなかった。あの美しい赤毛はぼさぼさになっちゃうし、目の下にはクマが出来ちゃうし、どうやらお風呂にも入っていなくて、着替えもしていないようで、何だか少しにおうのよ。でも、エリーゼ先輩の匂いなのよ、臭くなんてないわ！　そうでしょ、あなた！？」

「は、はい、臭くないです」

敵の刺客が来るまで、この調子で2時間以上エリーゼ先輩ストーリーを聞かされる羽目になってしまった。二度とエリーゼさんネタは振らないようにしよう。