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第十章 ダムール帝国

ダムール王の後悔

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ダムール帝国では第三王女テレジアをリンリンなる子供に献上するかどうか、喧々諤々の協議中であった。

宰相を先頭に文官は賛成、王を筆頭に武官や王室は反対で、国を二分する大問題に発展していた。使者の滞在期間は1週間。明日にはテレジアを連れていくか、別のものを連れていくかを決めなければならない。

当のテレジアは大反対。

冗談じゃないわ。ようやく成人し、これからいくつもの武勇をあげようと思っていたのに訳のわからないエロガキに嫁ぐなんて、あり得ないわ。国にとっても大損失よ。

結果、ダムール帝国は大失策を犯すことになる。

翌日、ロナウン宰相が1人の女性を連れて、マリとロザンヌに謁見した。

「こちらがリンリン様に献上する姫でございます」

ロザンヌが合点がいかない表情でロナウンに聞く。

「私の記憶にない顔なんだけど、どこの姫? 旦那様は別に妃を増やしたい訳じゃないのよ。各国を平等に扱うために、各国の王の娘なら娶ってもいいということなのよ。その辺りは分かっているのかしら」

「王の娘は軍事部門の要職についておりまして、献上は難しいとの結論になりました」

「ふふふ、ロナウン、よくも仲介したを私の顔を潰してくれたわね。マリ様、申し訳ございません。このようなもの達のためにわざわざご足労いただいて」

あのロザンヌが土下座をして謝っている。ロナウンは痛恨の失策を犯してしまったのではないかと背筋に冷たい汗が流れる。

「いいのよ、ロザンヌ。女の子が増えなくて良かったじゃない。もう用はないから帰りましょう」

「マリ様、私は父に今回の件を報告してから帰ります」

「分かったわ。何かあれば手伝うから何でも言ってね。じゃあ、早くお兄ちゃんに会いたいから、私は帰るわよ」

そう言って、マリは姿を消した。ロザンヌはさっきはマリの手前、リンリンが舐められているという表現は使わなかったが、ロザンヌの顔が潰されたことなんて、彼女にとってはどうでも良かった。ロザンヌは、リンリンが舐められていることに激怒していた。

「さて、ロナウン。マリ様は帰られたわ。マリ様は全く意に介さなかったけれど、私のこの怒りはどこにぶつければいいのかしらね。お前か? それともダムール王か? あるいはダムール帝国か?」

ロナウンは震え上がった。ロナウンは自分がテレジアという王女を献上するよう走り回ったことを必死に説明した

「そうか。では、悪いのはダムール王とテレジアか。私は癒し系なのでな。攻撃系の仲間を呼んでくる。今から2人でお前たちの王族を攻め滅ぼすから、首を洗って待っているがいい!」

そう言い残して、ロザンヌはロナウンの前から消えてしまった。ロナウンは慌てて王宮に戻り、ロザンヌが激怒して、ダムール帝国の王室に攻め込んで来ると報告した。

「はっはっは、流石の頭脳明晰なロナウン殿でも、分野が違うと見当違いに慌てふためくものなんですなあ」

武官の1人がたかが女1人を恐れてどうする、と言い放った。いや、1人ではなく2人だと言い返したら、更なる失笑をかってしまった。

「もうよい。お前達には忠告したからな。ワシはロザンヌ姫に許しを乞うてくる」

「この臆病者をひっ捕えて、牢にぶち込んでおけ!」

ダムール王がそう言うのを聞き、ロナウン宰相はもうどうとでもなれと全てを投げ捨てた。

***

ロザンヌはメイリンに事の次第を説明した。メイリンの眉がどんどん吊り上がって行く。

「許し難い奴らね」

メイリンは怒り心頭だ。

「でしょ? もう滅ぼすしかないと思うの」

ロザンヌが思いを吐いた。

「そうね。王族を滅ぼしましょう」

「賛成してくれると思ったわ。お姉様達に知らせると星を滅しちゃいそうだから、ここは私たち2人で行きましょう」

「分かったわ」

ロザンヌとメイリンはダムール帝国に転移した。

ロナウンを牢にぶち込んだ王と家臣たちは、ロナウンの臆病さをネタにして、リンリンなど大したことないなどと話し始めていた。

そこに突然2人の美しい女性が現れた。1人の方は見たことのある顔だ。そうだ、ロザンヌ姫だ。

「ロナウン宰相の言うことを聞いていれば、死なずに済んだものを」

ロザンヌが王たちを睨んだ。

「で、出あえい! 侵入者だ。殺しても構わん」

「あら、今の言葉で死刑決定よ」

もう1人の女がそう言ったかと思うと、女の背後から金色の孔雀の羽根のようなものが現れた。いや、羽根ではない。金色の手だ。実は千手観音なのだが、ダムール帝国の者達には金の孔雀の羽根にみえた。

千手観音の千本の手からありとあらゆる魔法が飛び出す。一度に1000の魔法を放つチートスキル「千手観音」、メイリンが従者となってすぐに顕現した固有スキルだ。

炎、氷、土、水、重力、時空といった様々な魔法が宮殿内を縦横無尽に飛び回る。凄まじい音が鳴り響き、気の小さいものであれば、音だけで気絶しそうだ。しかし、誰一人として、かすり傷すら負わなかった。ただ、宮殿はそこかしこに穴が開き、天井は今にも崩れ落ちて来そうだ。1000もの魔法を完全に制御できている。恐るべき力だ。

「どう? 綺麗でしょう。次は全員の眉間に当てるわよ」

メイリンが微笑んだ。

宮殿にいた全員が慌てて額を床につけて平伏した。王も同様だ。

「あら? 伏せても当たるわよ」

ロザンヌが何を無駄なことをと言い放った。

額を隠しているのではなく、必死に謝っているのだが、勘違いされてしまったのだろうか。このままでは全員殺されてしまう。

「ま、まって、待ってください」

王が悲鳴をあげる。

「何よ、今さら何を待つのよ?」

ロザンヌがウンザリした顔でいう。

「テ、テレジアを献上します」

「別に要らないわよ。貰わなくて済んだのに、やっぱり来ちゃいました、になったら、マリ様に私が叱られちゃうじゃない。メイリン、やっちゃいなよ」

「すいませんでした。私の判断間違いでした。私の命を捧げますので、どうか家臣はお助け下さい」

王が必死に懇願して来る。

「あら? そんなこと言っちゃった。これで殺したら、私たちが悪者になっちゃうじゃない。仕方ないなあ。王は許すか。ロザンヌ、軍隊の方行こう」

「OK」

お騒がせ2人組は消えてしまった。

王はぼろぼろの宮殿に膝をついたまま、呆然としていたが、はっとして、

「王妃や王女たちを助けろ。絶対に逆らわないように伝言してくれ」

と兵士たちに早馬を出すように命令した。

まさかあんなデタラメな力を持った化け物だとは思わなかった。何なんだ、あの力は。王は自分の下した判断を改めて悔いた。
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