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商店区に来た
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アードレー家はスキャンダルを嫌う。企業イメージが下がり、大きな損失に繋がるからだ。そのため、王妃が後宮から逃げ出した場合は、恐らく王妃をすぐに勘当し、無関係を貫くだろう。
そのため、事を起こす前に、私がアードレー家から見て、メリットのある取引先とならなければならない。王妃が王妃の座にあるうちに、エリーゼがアードレー家の人脈に少しでも食い込んでおく必要があるのだ。
若い女二人が簡単に生きていけるほど世の中は甘くはないのだから。
セバスチャンに連れられて、私は商店区に着いた。
石畳の広い道を挟んだ両側に、色とりどりに装飾されたお店が立ち並ぶ。雑貨屋、洋服屋、宝石店、貴金属店、陶器屋、食品店、カフェなど様々で、平日のお昼過ぎではあるものの、多くの人で賑わっていた。
「エリーゼ様は商店区は初めてでございますか?」
馬車を降りた私にセバスチャンが話しかけて来た。未婚の若い女性である私に遠慮して、ここまで来る間、彼は御者台に御者と一緒に座っていたのだ。
「後宮に入る前に何度か来ております」
「左様でございますか。文具店は右手の奥ですが、他にご覧になりたいお店はございますか?」
「そうですね。適当にお店に入ってみてよろしいでしょうか」
「お好きなだけどうぞ。私がいては落ち着かないでしょうから、あそこのカフェでお待ちしております」
「ありがとうございます」
私はいくつか気になるお店を見て回った。貴族向けの高級店、市民の富裕層向け、中流階級向けのお店など、多種多様で品揃えも豊富だが、思った通り、壊れやすかったり、デザインが伝統的なものばかりだったり、品質にバラツキがあったりと、改善点がいくつも見つかった。
(日本の商社で得た知識が役に立ちそうね)
あまりセバスチャンを待たせるのも良くないので、適当なところで調査を切り上げ、カフェに向かった。
セバスチャンがカフェに入った私に気づいて、にこやかに手を振っている。先ほどまであまりまじまじとは見られなかったが、しばらく見ないうちに随分と頭が薄くなってしまっていた。彼は小さい頃から私を可愛がってくれたが、王妃が失踪したと知ったら、悲しむだろう。
「セバスさん、実はこの辺りに私のお店を開く許可を王妃様から頂いております。セバスさんに保証人になって頂くようにと王妃様からお口添え頂きました。こちらが王妃様からの推薦状でございます」
「エリーゼ様がお店を出されるのですか」
セバスチャンはそう言いながら、推薦状に目を通した。
私が雑貨店を開くにあたり、セバスチャンに色々と手伝って欲しいと、私が記載してサインしたものだ。王妃にも話は通してある。
「『侍女の店』でございますか」
「はい。後宮で生産されているもののうち、生活用品を主に取り扱うお店です」
「なるほど。王妃様のご推薦とあらば、このセバスチャン、出来る限りのお手伝いをさせて頂きます」
「ありがとうございます。早速で申し訳ございませんが、店舗の賃貸契約に同伴して頂けますか」
「お安い御用です」
不動産屋でニーズに合った店舗を紹介してもらい、賃貸契約を私名義で契約した。アードレー家の執事のネームバリューは絶大で、不動産屋はずっと平身低頭で、契約条件も破格だった。アードレー家の関係者であると思わせる作戦は、大成功だったようだ。
ちなみに、王妃を保証人とした場合は、こうはいかない。商売に不案内だと足元を見られるし、王室に連絡が行く可能性があり、いいことが一つもないのだ。
(これで拠点は出来たわ)
その後、私は文具屋で万年筆を購入し、後宮へと帰った。
夕方遅く、鳳凰殿に入って行くと、王妃が目を赤く泣きはらして、私に抱きついて来た。
「臭いって、歳を取ってて臭いって、ジョージに言われたのぉぉ」
遂に来たか。モラハラフェーズ突入だ。
そのため、事を起こす前に、私がアードレー家から見て、メリットのある取引先とならなければならない。王妃が王妃の座にあるうちに、エリーゼがアードレー家の人脈に少しでも食い込んでおく必要があるのだ。
若い女二人が簡単に生きていけるほど世の中は甘くはないのだから。
セバスチャンに連れられて、私は商店区に着いた。
石畳の広い道を挟んだ両側に、色とりどりに装飾されたお店が立ち並ぶ。雑貨屋、洋服屋、宝石店、貴金属店、陶器屋、食品店、カフェなど様々で、平日のお昼過ぎではあるものの、多くの人で賑わっていた。
「エリーゼ様は商店区は初めてでございますか?」
馬車を降りた私にセバスチャンが話しかけて来た。未婚の若い女性である私に遠慮して、ここまで来る間、彼は御者台に御者と一緒に座っていたのだ。
「後宮に入る前に何度か来ております」
「左様でございますか。文具店は右手の奥ですが、他にご覧になりたいお店はございますか?」
「そうですね。適当にお店に入ってみてよろしいでしょうか」
「お好きなだけどうぞ。私がいては落ち着かないでしょうから、あそこのカフェでお待ちしております」
「ありがとうございます」
私はいくつか気になるお店を見て回った。貴族向けの高級店、市民の富裕層向け、中流階級向けのお店など、多種多様で品揃えも豊富だが、思った通り、壊れやすかったり、デザインが伝統的なものばかりだったり、品質にバラツキがあったりと、改善点がいくつも見つかった。
(日本の商社で得た知識が役に立ちそうね)
あまりセバスチャンを待たせるのも良くないので、適当なところで調査を切り上げ、カフェに向かった。
セバスチャンがカフェに入った私に気づいて、にこやかに手を振っている。先ほどまであまりまじまじとは見られなかったが、しばらく見ないうちに随分と頭が薄くなってしまっていた。彼は小さい頃から私を可愛がってくれたが、王妃が失踪したと知ったら、悲しむだろう。
「セバスさん、実はこの辺りに私のお店を開く許可を王妃様から頂いております。セバスさんに保証人になって頂くようにと王妃様からお口添え頂きました。こちらが王妃様からの推薦状でございます」
「エリーゼ様がお店を出されるのですか」
セバスチャンはそう言いながら、推薦状に目を通した。
私が雑貨店を開くにあたり、セバスチャンに色々と手伝って欲しいと、私が記載してサインしたものだ。王妃にも話は通してある。
「『侍女の店』でございますか」
「はい。後宮で生産されているもののうち、生活用品を主に取り扱うお店です」
「なるほど。王妃様のご推薦とあらば、このセバスチャン、出来る限りのお手伝いをさせて頂きます」
「ありがとうございます。早速で申し訳ございませんが、店舗の賃貸契約に同伴して頂けますか」
「お安い御用です」
不動産屋でニーズに合った店舗を紹介してもらい、賃貸契約を私名義で契約した。アードレー家の執事のネームバリューは絶大で、不動産屋はずっと平身低頭で、契約条件も破格だった。アードレー家の関係者であると思わせる作戦は、大成功だったようだ。
ちなみに、王妃を保証人とした場合は、こうはいかない。商売に不案内だと足元を見られるし、王室に連絡が行く可能性があり、いいことが一つもないのだ。
(これで拠点は出来たわ)
その後、私は文具屋で万年筆を購入し、後宮へと帰った。
夕方遅く、鳳凰殿に入って行くと、王妃が目を赤く泣きはらして、私に抱きついて来た。
「臭いって、歳を取ってて臭いって、ジョージに言われたのぉぉ」
遂に来たか。モラハラフェーズ突入だ。
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