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アイドル編

第44話  【完結】

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 『女性変化』が使える様にはなったが、タイムリミットが1時間で、その後は1時間のクールタイムを挟まないと、連続で使用出来ない。
 この状態でアイドルとしての仕事を入れているのだから、無茶な話だ。その為、スケジュールは1時間以内の仕事だけ入れた。
 ドラマや映画のオファーも有難い事にたくさん頂いたが、今の状態では厳しいので、体調が悪くて長時間の撮影には耐えられないとして断った。すると週刊誌で、「Mizuki不治の病か!?」と題されて、ドラマや映画のオファーを断っているのは、病で長時間の撮影に耐えられない身体だからだと報じられた。
 すると、マスコミが事務所前に殺到して、Mizukiの病は何か?と質問され、その件でファンや関係者らからの電話が鳴りっ放しだった。
「Mizukiのお陰で、私にも質問責めにされて困っているのよねぇ」
 麻里奈は、本当に迷惑そうにボヤいた。
 どうしようか?適当な理由を付けようか?それとも死んじゃう病気にして、この業界から消えようか?とか話し合ったが、結論は出なかった。
「もう一層のこと正直に話して、ファンに続けるべきか否かを、投票で決めさせたらどうなの?」
「それだ!投票で決まった事なら皆んな納得するし、話題性もバツグンだ。事務所の運営があるから下世話な話になるけど、金にもなるしな」

 事前にMizukiに関する投票だとファンサイトで告知して、日曜日の18時30分から23時までの4時間半に渡って、特別番組を借り切った。番組が始まって21時まではMizukiのこれまでの軌跡が流れた。
 予定ではこの後、Mizukiが秘密を打ち明ける話が1時間。そして最後の1時間で運命の投票、と言う流れだ。
「皆さんに…今日、どうしても、お話しなくてはいけない事があります…」
 Mizukiが語り出すと、ファンも報道陣も息を呑んだ。実は密かにMizukiの引退発表では?などと噂されていたからだ。勿論、体調不良が原因で、既にステージ4の乳ガンなのでは?とか憶測がされていた。
 Mizukiは言葉に詰まり、嗚咽しながら口を押さえ、声を振り絞って話した。ファンは声援を送って、その言葉に聞き耳を立てた。Mizukiが性転換症によって女性になった話は有名で、「そんな事ではファンなんて止めないよ!」とエールを送られると、さらに涙を流した。
 そして1時間経ち、『女性変化』が解けると、会場は真っ暗になり、スポットライトだけが、男性となったMizukiを照らし出していた。
 会場は静寂に包まれ、啜り泣くMizukiの声だけが響いた。そして1分後に全ての明かりが消された。
「会場にいる皆さん。そして、TVを観ている皆さん。性転換症で苦しんだのはMizukiだけではありません。その逆もまた然り。女性が男性となったケースも当然あるのです!」
 綾瀬がナレーションを入れると、会場の端にスポットライトが当たり、綾瀬が歩いて来るのに連れて照らされた。
 綾瀬は舞台に上がると、床に伏せて泣き崩れるMizukiの肩に手を置いた。
「そう、この俺こそが、その男性になった女性なのです!」
 Mizukiは「えっ?」と思って顔を上げると、黒髪の美女が横に立っていた。すぐさっきまでは、そこに綾瀬が立っていたはずだ。
「この俺、いや、この私、綾瀬アヤセジュンは、女です!」
 再び会場全体が明るくなった。余りにも衝撃的な展開に、誰もが声を出せなかった。
「Mizuki、今まで辛かっただろう?苦しかっただろう?だがそれはお前1人じゃない。俺と一緒に乗り越えて行こう。俺たちは一度道を踏み外した。だけどもう一度、共に歩いて行こう」
 そう言って綾瀬は、瑞稀に手を差し出した。瑞稀はその手を取って頷いた。会場からは2人を祝福する拍手が鳴り止まなかった。
 俺達は再婚した。しかし今度は、俺が男性で、綾瀬は女性としてだ。俺達は、以前の様な心変わりする事なく、1人だけを愛して仲睦まじく生活している。
 余談だが、女性の綾瀬は驚く事にまだ処女だった。10歳で発症して男性になった為に、瑞稀の様に両性での経験は無かったのだ。

 あの後の投票では、会場1000人中476人がMizukiの支持をし、524人がMizukiがアイドルを続ける事に反対した。ファンサイトでの投票は10000人中、4999人が支持してくれたが、5001人がアイドルを続ける事に反対した。
 その為、そのまま俺は引退を発表した。今は事務所の社長はこの俺、瑞稀だ。そして看板娘であるMarinaとAyaseが事務所を引っ張ってくれている。
 綾瀬は「何で私だけ苗字で、名前のJunじゃないんだ?」と不満そうだったが、「それは俺が名前を呼びやすいからだよ」と言って無理矢理に納得させた。
 そうそう、最期に1つ報告がある。綾瀬のお腹には、待望の俺達の愛の結晶が宿っている。どうやら女の子みたいだ。
「このが大きくなる頃には、今よりも豊かで平和な世界になっていると良いな」
「そうね。ノゾミに、そう願いを込めて名付けたわ。私達の愛しい子…」


 時は流れ、俺達プロデュースのNozomiが世界デビューする日が来た。女性だった時の俺によく似た彼女は、「世界の美女TOP100」で1位となり、彼女の母によく似た力強くキレのあるダンスは、世界一と謳われた。
 俺達の時代は終わり、これからは娘が世界を魅了する番だ。俺と綾瀬は寄り添って、そのステージを微笑ましく観ていた。

               ~Fin~
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