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アイドル編

第29話

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 私は20歳の誕生日にプロポーズされ、その日のうちに入籍した。まるでドラマの1シーンの様だと、世界配信されて祝福された。そのお陰で、結婚しても私の人気が落ちる事は無かった。
 SSS(トリプルエス)ランクとしての私の能力スキルも、連日の様に放送された。
 私は回復魔法、防御魔法、光魔法、闇魔法が使えるとされ、他国が脅威を感じる様な攻撃魔法を持っていないと発表された。この時代には、神眼のスキル持ちはいないのかも知れない。いれば、本当はテンダラース(S10ランク)だと言う事がバレてしまう。
 他国の脅威にはならずむしろ、回復魔法=白魔法使いのイメージで、私は「癒しの天使」とファン達に呼ばれる様になった。本当は女神だけど。
 私がスキルホルダーだと世間にバレたので隠す必要も無くなり、『回復ヒール』を曲に乗せて詠唱魔法を唱えた。Mizukiの歌には、傷などを癒す回復の効果があるとファンに気付かれ、騒がれた。
 私の出す曲の全てが、全世界で1位を記録する様になり、「世界の歌姫」の称号は私の物となった。
 それから数年が経ち、25歳になった私は、芸能界引退を発表した。ファイナルコンサートでは、チケットは抽選となり、倍率は驚異の15000倍となった。
 アリーナ28000円、S席22000円、A席18000円と高額のチケットがわずか10秒で完売した。
「相変わらず凄いな、瑞稀」
 綾瀬はすでに芸能界を引退していて、私の専属マネージャーとなっている。結婚しても2人でいられる時間はほぼ皆無で、それならと一緒にいられるマネージャーになったのだ。
「うん、ファンに感謝だね。本当…少し寂しいな。でも…これからはずっと一緒にいられるね、綾瀬」
「お前も綾瀬だよ?」
「ふふふ、そうね…いつまでも癖が抜けないね」
 口付けをして、寄り添った。私達夫婦は「格差結婚」と呼ばれ、私の夫である綾瀬をうらやんで揶揄やゆされた。だから私は、これ見よがしに周囲に見せつける様に心掛けた。「私の方が綾瀬を愛している」と。
 この作戦は功を奏して、「Mizukiが愛している旦那なら、2人の幸せを応援するよ」と声が上がり始め、やがて揶揄する者は居なくなった。
「私達が愛し合っているんだから、世間がとやかく言ったって、気にしないわ」
 程なくして私は妊娠した。2人の愛の結晶である待望の赤ちゃんだ。しかし流産してしまった。私は嘆き悲しみ、『死者蘇生リアニメーション』を直ぐに唱えたが、生き返る事は無かった。死者蘇生リアニメーションは、怪我や病気などで亡くなった者には有効だが、寿命で亡くなった者に唱えても効果は無いからだ。
 女神の妊娠確率は極めて0に近い。その為、天界の神様はほとんど増えないのだ。それもあり、ゼウスが人間の娘を犯して妊娠させたりする話しがある。有名なペルセウスやヘラクレスは、ゼウスと人間の母とのハーフだ。
 限りなく0に近いはずの妊娠をして喜び、上げて下げられたのだ。受けたショックは大きかった。
「こんなに悲しいはずなのに、泣けないのよ…」
 それは恐らく精神状態異常無効のパッシブ効果だろう。通常なら作動する事の無いスキルだが、それだけ精神に異常を来たす程の深い悲しみだったと言う事だ。本当に悲しい時に悲しめない。因果な身体だと感じた。
 流れた子供は、水子とされる。毎日の様に、埋葬した子供のお寺へ供養に訪れた。
「あなたは流れても、私の初めての子。母は、決してあなたの事を忘れないわ」
 瑞稀は芸能界を引退し、それまでに稼いだ莫大な資産を使って、巨大な建物を建てた。そして1万人集客可能なベッドを用意した。
 現在の医学では治療が難しい病、医者も匙を投げ出す、怪我を負った者の治療を行うクリニックを創ったのだ。お代金は、個人が持つ魔力を捧げる事とした。
 魔力を抽出する装置に手をかざすと、魔力が吸い出される。それを元に魔石を精製し、治療で消費した魔力の回復に使う。
 世界では既に行っている国もあったが、スキルホルダーが500年前と違って、ほとんど居ないこの時代では、無用の長物であった。それを瑞稀は復活させたのだ。
 末期ガンの患者や事故で半身不随となった者、植物状態から意識が戻らない患者などの家族が藁をも掴む思いでクリニックに殺到した。それらを拒む事も無く治療した。治療と言っても、呪文を唱えただけだ。日本国内だけでなく、世界各地から訪れる様になった。
「癒しの天使」が、本物の「天使」になった。いや「女神様」だ、と呼ばれた。気がつくと、勝手に私を女神と崇める宗教が出来ていた。しかし実際、私は女神である為、その行動を見て見ぬふりをしていた。
 実は私のこの行動には裏があった。綾瀬にも話してはいない。「流れた子供を甦らせる為に禁断の闇魔法を使う」この呪文を使用するには途方も無く莫大な魔力が必要で、1度も使った事が無い闇魔法だ。闇魔法だけに、副作用も心配されるが、子を思う母心で、そんなリスクは度外視した。
「待ってて私の可愛い子…必ず生き返らせてあげるから…」
 この行動が後に、世界を破滅に導くとは、まだ知らなかった。
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