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アイドル編

第14話

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 アカデミー賞の授賞式から1週間後、綾瀬はグループを抜けて、事務所も電撃退所すると私の事務所に移籍した。連日の様にニュースで取り上げられると、タイミングを見計らったかの様に、私と大和が寝ている写真が出回ったのだ。ただその写真は、挿入部分まで写っていると言う物では無く、2人とも上半身裸で、私は大和に寄り掛かって肩を抱かれ、胸の谷間が見える程度で眠っている私と大和の自撮り写真だった。
 それと同時に、事故で大和の男性部分が損傷を受けて、機能しなくなったと発表された。このセンセーショナルなニュースは日本中を駆け巡り、様々な憶測が生まれ噂された。
 私が最初、大和と付き合っていて、大和のモノが不能になった為に捨てて、綾瀬と付き合い始め、それが原因で綾瀬はグループを退団、事務所も退所し瑞稀の事務所に移籍したと、それが事実であるかの様に噂された。
 噂が事実かどうかは別として、写真は大和に抱かれた事実を物語っており、清純派で売っていた私のイメージは大幅にダメージを受けて、23社あったCMのうち、20社は打ち切られ、残り3社は検討または休止となり、テレビ出演がそれまで月378本もあったが、全て見合わせとなってメディアから消えた。
「瑞稀って何なの?清純派気取ってて、大和と綾瀬を両天秤に掛けて、ただのビッチじゃん!」
「大和くん可哀想」
「彼女だったんなら、こんな時にこそ大和くんを支えるべきだったのに、同じグループの他の男に乗り換えるなんて、あいつマジでクソじゃん」
 もはや噂は事実として認識され、清純派からビッチに成り下がり、国民は私に対して裏切られたと言う感情をいだいた。SNSでも炎上し、特に大和ファンからのバッシングは苛烈を極めた。
「このクソビッチが、お前なんか死んで大和に謝れ!」
 日本国民全てを敵に回した気がしてうつになり、私が死ねば許してくれるのかな?と考えて、リストカットした。幸いにも、母が早く見つけてくれたお陰で、事なきを得た。
 事ここに至っては、社長と話し合った結果、警察に被害届を提出した。綾瀬が持っていた私の昏睡レイプ被害の動画を証拠品として、大和を訴えたのだ。
 そうなると、マスコミ各社は一転して大和を非難し始めて、他の被害者を見つけ出して連日、インタビューを流した。大和の父親がヤクザの組長であったのも、私の被害を裏付ける後押しとなった。その結果、大和は強姦致傷罪が確定して実刑の判決が出た。大和は即日、控訴した。
 SNSでは手のひらを返した様に、私を弁護する声が上がり、「瑞稀ちゃんの事、信じてあげられなくて、ごめんね」「いやいや、俺は最初から信じてたさ。キミがビッチなんかじゃないと」「被害者だとしても、もう処女じゃないと知ると辛い」「大和の奴は殺す」などが書き込まれた。
「でもさぁ、綾瀬と付き合ってるのは本当なんでしょう?」
 私の汚名はそそがれたが、以前ほどの人気には回復しなかった。私は元アイドルで、ファンの願望は、私が処女を貫く事だ。被害者とは言え、そうでは無くなった私への興が覚めたのだ。
 人気が落ちると、アダルト業界の方々が接近して来た。今脱げば、見えそうで見えなかったあの写真の中身が、見れると話題になるよ、と。私は頭に来て追い返した。「私は事件の被害者ですよ?心の傷を抉る様な真似をして、訴えますよ!」
 私は元々好きで芸能界に入った訳ではない。だから未練なんて無い。人前で裸になったり、Hしている所を撮影されてまで、しがみ付いていたいとは思わない。
「ここら辺が潮時かな…」
 私が芸能界引退を考え始めたのは、まだデビュー2年目だった。
「あなたの好きにしたら良いわ」
 お母さんはそう言ってくれた。でも折角、芸能人になれたのだ。密かに思い描いた夢もあった。
華流ファリュウドラマに出演してみたい」
 日本のドラマ等とは違い、どちらかと言うとほぼ全てのドラマが、大河ドラマの様なもので、平均60話前後、長いと100話近くもあり、短くても30話くらいある。
 その為、ドラマの撮影での縛りは長期に渡って拘束される。その代わりギャラは桁が違う。主演女優ともなると、ギャラは10億円を超す事も珍しくは無い世界だ。
 私は別に高額の報酬が欲しくて、華流ドラマに出たい訳では無い。ただ単純に好きだから出たい、あの世界感を自分ならどう演じられるだろう?そう夢見た。それに、ろくに中国語も話せない私が主演女優なんてなれるはずもなく、チョイ役で良いから出演したいのだ。
「中国に留学したい?」
「はい、中国で女優になる為に勉強したいです」
「何処にするか決めてるの?北京電影学院大学かしら?」
 この大学は入学の年齢制限が47歳までで、中国の有名美人女優の大半が、この大学の出身だ。入学者のほとんどは芸能科に入る目的で入学する。私は留学科に入って中国語を勉強し、芸能科に編入する事を提案した。
「ダメよ。貴女は、今は耐える時期で大切な時なの。それに貴女は腐ってもアカデミー賞主演女優賞の受賞者よ。この箔がある限り、堕ちて終わる事は無い。それに、そんなに華流ドラマに出たいなら、他にも方法があるわよ?」
「是非教えて下さい!」
「中国にもオーディション番組があるの。その番組の基準は顔面偏差値で見られる事が多いわ。貴女は気が進まないわよね?それでもそれが一番の近道よ。日本アカデミー賞の主演女優賞で、誰が見ても貴女は絶世の美少女よ。受かる確率はかなり高いわ。ただ、言葉の壁が大きい。だから、まずは中国語の勉強をしなさい。何も留学するだけが全てでは無いと思うの」
 社長の話は筋が通っていて、正論だった。
「分かりました。先ずは中国語の勉強を始めます」
 私はウキウキになって、鼻唄を歌うほどご機嫌で帰った。
「ふー、行ったわね?」
「良いんですか?」
「ふふふ、中国語を舐めてはダメよ?いくらあのがヤル気になっても、そう簡単では無いわ。日本語は50音、中国語は1300音以上よ。発音出来なければ相手に言葉は通じない。仮にオーディションに受かったとしても、哀れな聾唖ろうあ役しか出来ないでしょうね。喋れないんだから。それに万が一、中国語をマスターしてオーディションを実力で受かり、勝ち取る事が出来たら、私達は中国に進出する足掛かりを得る事になる。どちらにしても、こちらに損は無いわ」
「社長は…恐ろしい人ですね…」
「あははは、社員に恐れられるくらいじゃないと、社長なんてやってられないわよ」
 事務所に社長の甲高い笑い声が響いた。
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