Calling me,Kiss me

秋月真鳥

文字の大きさ
20 / 31
本編

20.契約書

しおりを挟む
 アリスターから指輪をもらって、リシャールは浮かれていたが、浮かれているだけで済ませるわけにはいかなかった。
 リシャールの自宅の場所をスクープ雑誌の記者に漏らした人物がいる。恐らくは元マネージャーなのだろうが、その対処にも当たらなくてはいけない。

「アリスター、ストーカーをどうにかしないと、またこんなことが起きてしまうかもしれない」

 アリスターから貰った指輪が大事すぎて、料理をしているときに付けていられなくて箱に一度納めたが、料理が出来上がるとまたいそいそと付けるリシャール。アリスターは眠らなかった挙句、昨日の夜から何も食べていなかったようなのだ。

「ごたごたしてたから食事をするのを忘れてしまった」
「体調不良の原因はそれじゃないの?」
「そうかもしれない」

 指摘するとアリスターが恥ずかしそうにしている。一週間プレイをしなかったのはリシャールも多少は堪えていたけれど、体調を崩すほどではなかった。アリスターはSubとしての欲求が強いタイプなのかもしれない。

「アリスター、僕、この家を引っ越そうと思ってる。護衛も雇って、ストーカーも知らない場所に家を建てようと思う」
「そっちの方がいいかもしれないな。俺は遠くてもリシャールのいるところなら通うよ」
「そうじゃないよ。一緒に暮らそう?」

 一緒に暮らそうと言われてアリスターは驚いているようだ。Subなのにリシャールにプロポーズするような度胸はあるのに、一緒に暮らすことは全く頭になかったのだろう。

 結婚という形であれ、クレイムという形であれ、リシャールはアリスターが正式なパートナーになれば一緒に暮らすつもりだった。ただ、場所を知られているこの家は危険だということは分かっている。
 家が建つまでの間ホテル暮らしにして、家が建ったら正式に引っ越そうかと考えているリシャールにアリスターが口を開く。

「首輪は嫌だけど、何かリシャールからクレイムの証は欲しい」
「首はダメなら、手首だったら?」
「手はダメなんだ。仕事柄、身に着けられない」

 アリスターの仕事は警察の科学捜査班のラボの職員だ。手袋を付けての仕事も多いだろうし、手洗いも頻繁にするだろう。

「チョーカーもダメだろうし……そうだ、指輪。僕だけもらってるのは申し訳ないから、指輪は買わせてね。それ以外で……アンクレットとかどうかな?」
「指輪も付けていられないから、首にかけるようにするけど、アンクレットなら問題ないと思う」
「それならアンクレットにしよう」

 指輪はアリスターの分を買う。クレイムの証としてはアンクレットを贈るということで話がまとまった。

「リシャール、指輪のサイズなんだけど、大丈夫かな?」
「ちょっと緩い感じはするけど、平気。僕、これから体重戻すから、取れなくなったら困るんだ」
「手のサイズはそんなに変わらないだろう。緩いなら、調整してくれるって店員が言ってた」
「せっかくアリスターから貰ったのに、もう外したくない」
「緩くてなくす方が嫌じゃないか」
「それはそうだけど」

 左手の薬指を守るように握り締めると、アリスターに苦笑されてしまう。最初の方は笑うことのなかったアリスターが笑ってくれていると思うと、リシャールは胸が暖かくなるのを感じる。

「それじゃ、アリスターの指輪を注文しに行くときに、サイズも直してもらう」

 約束したがアリスターから貰った大事な指輪を一瞬も手放したくなくて、リシャールは左手の薬指をもう片方の手で握り締めてしまった。

 食事を終えると、リシャールがシャワーを浴びて、アリスターもシャワーを浴びて、ベッドに雪崩れ込む。
 リシャールの手を取ったアリスターが、左手の薬指の指輪の上に口付けしてくれる。

「もう、僕が『キスして』っていう前から」
「したかったんだよ」
「僕は相当強いDomだって診断されてるのに、アリスターは僕のコマンドの間に話したり、別のことができるくらい余裕だよね?」
「俺は自分のSub性が強いかどうかなんて検査したことがない」
「検査してみた方がいいと思う」

 それでずっとアリスターが抑制剤がよく効かずに苦しんでいたのだとしたら、リシャールはアリスターと長期間離れることがないように気を付けないといけないと思っていた。
 Sub性が強いということは欲求も強いということだ。リシャールと離れていた一週間と少しの間でアリスターが調子を崩したのも、Sub性が強すぎるからかもしれない。

「リシャールっていうパートナーがいるんだからよくないか?」
「よくない。自分のことは知っておくべきだよ」
「病院、嫌いなんだよなぁ」

 自分も医者の資格を持っているアリスターだが、病院が嫌いと言われて、いわゆる医者の医者嫌いというやつかとリシャールは思う。嫌いでもアリスターの体調のためには行ってもらわなければ困る。

「アリスターのSub性が強いなら、今回のフランス行きみたいに、長期で国を離れる場合には一緒に連れて行かなきゃいけない」
「そんなに休みは取れないよ?」
「年に一度くらいだから大丈夫じゃないかな? 後は、少し離れるときなんかは、通話でする?」
「へ? 通話で?」

 目の前でコマンドを言わなければプレイができないとアリスターは信じているようだった。リシャールくらいの強いDomになるとスマートフォン越しにでもコマンドを使うことができる。その場合、Subのアリスターはコマンドに従って褒められることによって欲求を満たせるが、リシャールの方が完全には欲求を満たせないのが問題となるのだが、それはリシャールは我慢できるはずだった。

「契約書作る?」
「作りたい」

 ノートパソコンを開いて、役所から出されている契約書のテンプレートをダウンロードして、リシャールはアリスターと一つ一つ取り決めをしていった。

「セーフワードは『アレキサンドライト』でいいね? なんでアレキサンドライトなの?」
「それは……リシャールの誕生石だからだよ」
「え!? 僕の誕生石知ってたの!?」

 そういえば宝飾品の宣伝で誕生石特集が組まれて、リシャールはアレキサンドライトを身に着けた写真を撮ったことがあった気がする。そういうのもアリスターには知られているのだと思うと、嬉しいような恥ずかしいような気分になってくる。

「NG行為は?」
「痛いことと、汚いことは嫌だな」
「僕にしてほしいことは?」
「ずっと抱かせてほしい……リシャールはこれでいいんだよな? 男なのに、抱きたいとかないのか?」
「僕は抱かれたいってずっと言ってるよ。Domだけど抱かれたいのはおかしいって言うひともいたけど、僕は抱かれる方しか考えてなかった」

 契約書の中身が埋まっていく。
 アリスターとリシャールだけの契約書だ。
 契約書をプリントアウトして、リシャールとアリスターはサインをした。

「婚姻届けにもサインをしないといけないね」
「クレイムしたから、これだけじゃいけないのか?」
「僕はアリスターにプロポーズされて嬉しかったの! 婚姻届けも出させてよ」

 甘えるように言えばアリスターが嬉しそうな顔になる。
 今日はアリスターは帰らなければいけないが、リシャールと約束して、明日の仕事が終わったら役所に一緒に契約書と婚姻届けを出しに行くことにした。

「ストーカーの件もどうにかしないといけないんだけど……」
「それは警察に任せないか?」

 ストーカーの件が落着しないとアリスターとリシャールの関係もまた崩しに来られるかもしれない。ストーカーのやること程度で崩されるつもりはなかったが、不快であることは確かだったので、リシャールはストーカーをどうにかしなければ、アリスターと落ち着いて過ごせないと思っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

『定時後の偶然が多すぎる』

こさ
BL
定時後に残業をするたび、 なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。 仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。 必要以上に踏み込まず、距離を保つ人―― それが、彼の上司だった。 ただの偶然。 そう思っていたはずなのに、 声をかけられる回数が増え、 視線が重なる時間が長くなっていく。 「無理はするな」 それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、 彼自身はまだ知らない。 これは、 気づかないふりをする上司と、 勘違いだと思い込もうとする部下が、 少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。 静かで、逃げ場のない溺愛が、 定時後から始まる。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

天の求婚

紅林
BL
太平天帝国では5年ほど前から第一天子と第二天子によって帝位継承争いが勃発していた。 主人公、新田大貴子爵は第二天子派として広く活動していた亡き父の跡を継いで一年前に子爵家を継いだ。しかし、フィラデルフィア合衆国との講和条約を取り付けた第一天子の功績が認められ次期帝位継承者は第一天子となり、派閥争いに負けた第二天子派は継承順位を下げられ、それに付き従った者の中には爵位剥奪のうえ、帝都江流波から追放された華族もいた そして大貴もその例に漏れず、邸宅にて謹慎を申し付けられ現在は華族用の豪華な護送車で大天族の居城へと向かっていた 即位したての政権が安定していない君主と没落寸前の血筋だけは立派な純血華族の複雑な結婚事情を描いた物語

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

処理中です...