末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

文字の大きさ
54 / 180
二章 高等学校二年生の王子

24.もう一つの公爵家

しおりを挟む
 高等学校で上級生に呼び出された。
 アルマスとヘンリッキと話している最中だったので、僕は話を続けたかったが、どうしても来て欲しいという上級生に仕方なく席を立った。
 授業の合間の休憩時間の出来事である。

 廊下に出るとその上級生は僕に言ってきた。

「ジュニア・プロムにエドヴァルド殿下をお誘いしたいのです。受けていただけませんか?」

 女性の上級生は僕をジュニア・プロムに誘ってきた。
 季節は初夏になっていて、エルランド兄上たち六年生は卒業式が近くなっているし、五年生は進級が近くなっている。
 五年生の夏休み前にジュニア・プロムといって、いわゆるプロムナード、クラシックなダンスパーティーが開かれる。六年生は卒業式後にシニア・プロムが開かれる。
 どちらもパートナーを誘って参加するのだが、僕に声をかけてきた上級生を僕はまじまじと見つめてしまった。

 ジュニア・プロムと言っているから五年生なのだろう。
 金色の髪を巻いていて、服も清楚だが豪華な布が使ってあるワンピースだ。
 僕に声をかける時点で、ただの貴族ではないことは分かっていた。

「お名前を伺ってもよろしいですか?」

 警戒しつつ僕が問いかけると、上級生は頬を染めて慌てる。

「名乗りもせず失礼いたしました。ハンナマリ・エクロースと申します」

 エクロース家。
 聞いたことがある。
 この国の二つしかなかった公爵家のうちの一つだ。
 ミエト家が公爵家になる前には、この国には二つの公爵家しかなかった。
 ヘンリッキのハーヤネン公爵家と、目の前にいるハンナマリ嬢のエクロース公爵家だ。

 これはエクロース公爵家による、新参者の公爵家であるミエト公爵家に対する嫌がらせではないのだろうか。
 ミエト公爵家の当主であるロヴィーサ嬢の婚約者の僕をジュニア・プロムに誘うことで、ミエト公爵家にエクロース公爵家の代々続く威光を見せつけようという企みに思えてならなかった。

「僕がミエト公爵家のロヴィーサ嬢と婚約しているのはご存じですよね」
「分かっております。エドヴァルド殿下がロヴィーサ様と仲睦まじいのも知っております」
「僕とロヴィーサ嬢との婚約は、王家とミエト家で交わされたもの。ロヴィーサ嬢はミエト家の当主です。あなたはエクロース公爵家の御令嬢。身分が違うのは分かりますよね?」

 ミエト公爵家の当主となるとミエト公爵なのだが、エクロース公爵家の御令嬢となると扱いは侯爵と同等になる。
 ロヴィーサ嬢の方がこのハンナマリ嬢よりは身分が上なのだ。

 そんな相手の婚約者をジュニア・プロムに誘うという意味がハンナマリ嬢には分かっていない。

「大それたことは考えておりません。エドヴァルド殿下をお慕いしておりまして、一度だけの思い出を作りたいだけなのです」

 涙目になって頭を下げられても、僕にはハンナマリ嬢は由緒ある公爵家の威光を使って、ロヴィーサ嬢にマウントを取りに来たようにしか思えなかったのだ。

「お断り致します。あなたも、公爵家の御令嬢ならば自分の立場というものを理解すべきです」

 きっぱりと断って教室に戻ると、ドアのところでヘンリッキとアルマスが立ってこっちを見ていた。僕は憤慨しつつ席に着く。ヘンリッキとアルマスも席に着いた。

「何を考えているんだろう。僕のロヴィーサ嬢にマウントを取りに来るなんて!」
「そ、そうだったのかな? 俺は貴族のことはよく分からないが、あのひと、泣いてたぞ?」
「泣いたら済むと思うの? ロヴィーサ嬢と僕の間に入ろうとしたんだよ」
「貴族的な企みはなくて、純粋にエドヴァルド殿下に恋心を抱いていたのではないでしょうか?」
「そんなわけないよ。僕はそんなにいい男じゃないし、王子って肩書がなければ、ただの十三歳の子どもだよ」

 僕に本当に気持ちがあるのならば、これまでに話しかけたことがあってもいいはずだ。それを一度も話しかけずに、初めて話しかけたと思ったらジュニア・プロムに誘うなんて、常識知らずに思えてならない。

「エクロース公爵家のハンナマリ様でしょう? 高等学校を卒業したら、結婚が決まっていると聞いたことがありますよ」
「それならば、尚更不実だ。結婚が決まっているのに、違う相手をジュニア・プロムに誘うなんて」

 怒っている僕にヘンリッキの言葉もアルマスの言葉も届かなかった。
 エクロース公爵家は御令嬢にどんな教育をしているのか。
 僕はその日ずっと腹を立てていた。

 ミエト家に帰るとロヴィーサ嬢とおやつを作る。
 ロヴィーサ嬢は今日はシュークリームを作ってくれた。
 ただのシュークリームではない。中にアイスクリームを詰めた、シューアイスだったのだ。

 シュークリームは食べるときにどうしても中のクリームが後ろから零れ出てしまう。だからといって一口で食べると口いっぱいになってとてもお行儀が悪い。
 それを解決するのがシューアイスだった。中に入っているのは固形のアイスクリームなので、クリームが零れることはない。

 綺麗に手を洗っていたのでアイスシューを手に持ってかぶり付く。パリパリのシュー生地に冷たいアイスクリームが挟まれていてそこに桃も入っていてジューシーでとても美味しい。
 飲み物も気温が上がって来たので冷たいものになっていた。

 上機嫌でアイスシューを食べていた僕だが、高等学校のことを思いだすと表情が曇る。
 エクロース公爵家とは一度話し合いの場を設けた方がいいのかもしれない。

「冷たすぎましたか? 頭が痛くなったのでは?」
「いえ、そうではありません」

 表情が曇った僕をロヴィーサ嬢が心配してくれるが、僕は正直に今日あったことを話してみようと思っていた。

「今日、高等学校でエクロース公爵家の御令嬢、ハンナマリ嬢にジュニア・プロムに誘われました」
「ハンナマリ様は、高等学校を卒業されたら隣国に嫁ぐのではなかったのですか?」
「そのようなのですが、僕に声をかけて来たのです」

 僕はこれをエクロース公爵家からミエト公爵家への挑発だと思っていた。

「エクロース公爵家は、ミエト公爵家が新興の公爵家なので、マウントを取ろうとしたのではないでしょうか。僕は許せません! ロヴィーサ嬢と僕の間に入ろうとするなんて!」

 そんな馬鹿らしい理由で僕とロヴィーサ嬢の仲が邪魔されるのは本当に許せない。
 僕が憤ると、ロヴィーサ嬢は小首を傾げている。

「エクロース公爵家にそのような思惑があったのでしょうか」
「ないとロヴィーサ嬢は思われるのですか?」
「あまりにも、稚拙ではないですか」

 ロヴィーサ嬢は僕とは違う意見のようだった。

「貴族の嫌がらせとはこんなに分かりやすく行われるものではありません。もっと陰湿に、それと分からないようにしないと、エド殿下は今怒っていらっしゃって、国王陛下に相談するおつもりでしょう? そうなると、エクロース公爵家の地位が危うくなります」
「もっと陰湿に、それと分からないように……」
「エクロース公爵令嬢のハンナマリ様のやったことは、許されませんが、王家とミエト家を侮辱したということで、逆にミエト家と王家からエクロース公爵家が責められる隙を作るような軽率な行動です」

 ロヴィーサ嬢は王城で国王陛下である僕の父上の前で婚約式もして婚約を誓った仲なのである。確かに、こんなにあからさまに行動していれば、エクロース公爵家の方が責められても仕方はない。

「ロヴィーサ嬢に言われると冷静になれます。確かにその通りでした」
「ハンナマリ様の一人のお考えだったのではないのでしょうか」
「それにしても、エクロース公爵家の教育を問われる行動ではありますよね」
「その通りです。高等学校でひとが見ている中で、エド殿下をジュニア・プロムに誘うなど、軽率すぎます。隣国との縁談が流れてもおかしくはありません」

 今度はハンナマリ嬢の地位が危うくなるような事態になってきていることに気付く。
 政略結婚とは心の通い合わない相手と行うものだし、ハンナマリ嬢が結婚を望んでいないのかもしれないが、家同士の重要な繋がりだ。
 ハンナマリ嬢はそれを壊してしまいかねない行動をしてしまった。

「今回のことは、エド殿下には不快だったかもしれませんが、ミエト家のためにそれを利用させてもらいましょう」
「どういうことですか?」
「このことを公にしない代わりに、エクロース公爵家の弱みを握って、ミエト家が優位に立つのです」

 新興の公爵家であるミエト家の方がエクロース家よりも立場が弱いのは当然のことだ。ハーヤネン家はヘンリッキとハンヌのことがあったから、ミエト家を尊重してくれているが、エクロース家はミエト家を認めていないようなところがあった。

「わたくしのお誕生日にも、ハーヤネン家で行われたアルマス様のお誕生日にも、エクロース家は出席をしていません。今後は出席を断れないようにして、エクロース家とミエト家の関係性を見せつけてやりましょう」

 もしかすると、ロヴィーサ嬢も怒っていたのかもしれない。
 僕はロヴィーサ嬢の海よりも深い青い目を見て呟く。

「ロヴィーサ嬢も嫉妬したのですか?」

 ぼっとロヴィーサ嬢の頬が赤くなった。

「それは嫉妬いたします。ハンナマリ様はわたくしよりもエド殿下と年が近いのですし、同じ高等学校にも通っています」
「怒っていたのは僕だけではなかったのですね」
「恥ずかしいです、エド殿下! 言わないでくださいませ!」

 あ、来る!

 僕は避けることができずにロヴィーサ嬢に肩を叩かれて、横向きに吹っ飛んで壁にめり込みそうになった。
 魔族なので怪我はなかったが、すぐには起き上がれない僕をロヴィーサ嬢が抱き起す。

「ごめんなさい、エド殿下!」
「いいのです。ロヴィーサ嬢は照れ屋さんですね」

 こんなところも可愛いと思ってしまうのだから、僕はロヴィーサ嬢に夢中でどうしようもないのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

処理中です...