上 下
22 / 113
Ⅰ‐ⅱ.僕とあなたの深まり

22.環境の違い

しおりを挟む

 ジル様に翻弄されながら、時折マイルスさんに守ってもらい、馬車に揺られていたら、最初の目的地に着いたようだ。

 時刻は昼時。そろそろお腹が空く頃だ。

「ここは……」

 車窓から見えていた街道も、美しく整えられていて目を楽しませてくれたけど、到着した先の景色も素晴らしかった。

 たくさんの花々に囲まれた、瀟洒な白い城。青のとんがり屋根が特徴的で、王城ほど大きくないから可愛らしいようにも見える。

 玄関前で降ろされて、ゆっくりと辺りを見渡した。

「——素敵なところですね」
「喜んでもらえて嬉しい。ここは王族の保養地なんだ。王都から適度に離れていて環境がいい」
「保養地……僕には馴染みのない言葉です」

 思わず苦笑してしまう。
 保養地とは避暑や避寒、行楽のための場所だ。貧乏貴族の僕はもちろん、そんなところを訪れたことなんてない。

 王都から半日もかからない場所に、城まで建てた保養地があるなんて、さすが王族だと頷く。

 この場所に僕がいていいのかな。ジル様と一緒なんだから、ダメだなんて誰も言わないとわかってるけど、ちょっと気が引ける。

「王都からセレネー領まで、こうした休憩所は点在している。楽しみにしてくれ」
「……すごい」

 点在かぁ。それはやっぱり、セレネー領が王家にとって重要な場所だから、行き来しやすくするためなんだろうな。つまり、街道自体も相応に整備されているということ。

 エストレア国北部にあるボワージア領から王都に続く道が、ガタガタしていて随分と腰に悪かったことを思い出して、ちょっとしょっぱい気分になった。

 国から優遇されてる土地って、羨ましいよね。環境的に仕方ない部分はあるけど。

「ここで昼食をとる」
「……そのためだけに立ち寄ったんですか?」
「そうだが」

 エスコートされながら城の玄関ホールに招き入れられる。
 呆然としながら放った質問に、当然のように頷かれて返す言葉を失った。なにもかも、僕の常識とは違うことがよくわかる。

 僕は王都に向かう道中、基本的に食事は馬車の中で携帯食を齧っていた。夜は宿をとって泊まることもあったけど、半分くらいは車中泊。その方がお金がかからないし。
 宿をとるとなると、子爵家という立場的に、それなりに見栄を張らないといけないんだよね。

 だから、こんなに優雅にお城で昼食なんて、考えたこともなかった。
 でも、ジル様にとってはこれが当然で日常のことなんだろう。そして、周囲で立ち働いている人たちの顔を見ても、このような日常に慣れるべきなんだとわかる。

 王族という立場にいる以上、相応の振る舞いが必要。そんなジル様の番になる以上、その常識は僕にも求められている。

「……お食事、楽しみです」

 価値観の違いに不安を感じるし、これに慣れてしまったら、僕が僕でなくなってしまう気がして少し怖い。
 でも、今はそんな思いを隠して微笑む。ジル様に心配を掛けたくないから。

「フランの好きなものがあるといいな。好物を教えてくれ。次からは好みに合わせて用意させる」
「好き嫌いはない方なので、ご心配なく。食べたことがないものを楽しめるのも嬉しいですから」

 きっと料理もとんでもなく豪華なんだろうなと予想しながらも、気遣ってくれるジル様にニコニコとしながら答えた。

 今一番心配なのは、食事のマナーがちゃんとできるか、だ。社交界デビューに向けて立食パーティーのマナーはしっかり学んだけど、テーブルマナーはあまり自信がない……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多
BL
近衛隊隊長のバスクアル・フォン・ベルトランにバラを差し出されて結婚前提のプロポーズされた俺フラン・フライレですが、何で初対面でプロポーズされなくてはいけないのか誰か是非教えてください! 話しを聞かないベルトラン公爵閣下と天涯孤独のフランによる回避不可のプロポーズを生暖かく距離を取って見守る職場の人達を巻き込みながら 「公爵なら公爵らしく妻を娶って子作りに励みなさい!」 「そんな物他所で産ませて連れてくる!  子作りが義務なら俺は愛しい妻を手に入れるんだ!」 「あんたどれだけ自分勝手なんだ!!!」 恋愛初心者で何とも低次元な主張をする公爵様に振りまわされるフランだが付き合えばそれなりに楽しいしそのうち意識もする……のだろうか?

国王の嫁って意外と面倒ですね。

榎本 ぬこ
BL
 一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。  愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。  他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。

馬鹿な彼氏を持った日には

榎本 ぬこ
BL
 αだった元彼の修也は、Ωという社会的地位の低い俺、津島 零を放って浮気した挙句、子供が生まれるので別れて欲しいと言ってきた…のが、数年前。  また再会するなんて思わなかったけど、相手は俺を好きだと言い出して…。 オメガバース設定です。 苦手な方はご注意ください。

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

王と正妃~アルファの夫に恋がしてみたいと言われたので、初恋をやり直してみることにした~

仁茂田もに
BL
「恋がしてみたいんだが」 アルファの夫から突然そう告げられたオメガのアレクシスはただひたすら困惑していた。 政略結婚して三十年近く――夫夫として関係を持って二十年以上が経つ。 その間、自分たちは国王と正妃として正しく義務を果たしてきた。 しかし、そこに必要以上の感情は含まれなかったはずだ。 何も期待せず、ただ妃としての役割を全うしようと思っていたアレクシスだったが、国王エドワードはその発言以来急激に距離を詰めてきて――。 一度、決定的にすれ違ってしまったふたりが二十年以上経って初恋をやり直そうとする話です。 昔若気の至りでやらかした王様×王様の昔のやらかしを別に怒ってない正妃(男)

実は僕、アルファ王太子の側妃なんです!~王太子とは番なんです!

天災
BL
 王太子とは番になんです!

処理中です...