馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

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犬牙、犬吠、その身に喰らえ

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「……クライヴ」

 一度動きを止めて、健気に俺を受け入れている腹を撫でる。俺の手の動きに合わせて、師匠の腰がぞくりと跳ねた。
 たぶん、俺とするのが一番気持ちいいって、体で感じてるのに頭がついていってない。だから、気持ち良すぎて怖いんだと思う。だったら、落ちつかせて、俺に委ねて大丈夫って安心させればいいだけだ。
 名前を呼んだら素直に俺の方を向いてくれる頬を撫でて、軽いキスを何度も落とす。

「俺が入ってるの、気持ちいいね」

 言葉に合わせて少しだけ腰を動かして、意識させる。小さな声を漏らしているのが可愛い。まだ大きく動いたら嫌がるから、少しずつ、師匠を快楽に馴らしていく。
 俺の手に撫でられるのは、気持ちいいこと。俺にキスされるのは、気持ちいいこと。舌で触れられて気持ちいいのは、ナカに挿れられて気持ちいいのは、相手が俺だから。

「気持ちいいね、クライヴ」
「ぁ、んぅ……っ、は、ァ……ッ」

 たくさん声を掛けて、師匠の意識に刻み付けていく。きっと師匠は、心を繋げて、その上でセックスをしたことはないんだと思う。誰にでも優しいのに、自分のことにだけは鈍くて優しく出来ない人なのは、カーメルにも聞いたし、俺にも何となくわかる。師匠が自分のことをわからないなら、俺が伝えていけばいい。

 だって、誰かに心を明け渡したことのないクライヴ・バルトロウを、今は俺が独り占めしてる。

「愛してる、クライヴ」

 俺が愛してるって言うと、それだけできゅんきゅんナカが反応してくれるのが可愛い。師匠の気持ちいいところに当たるように体を動かして、素直に快感を欲しがる体に楔を打ち込んでいく。
 俺のモノを咥えさせられて、ぐちゅぐちゅ抜き差しされて、それがめちゃくちゃ気持ちいいって、体から馴らされればいい。俺の形を教え込んで、食べ方を覚えさせて、俺を育ててくれたのは師匠だけど、俺が師匠の体を育ててやる。仕込んでいいって、許可はもらってる。

「ッ……ア、ぁ……!」

 師匠の体が震えて、生温かいものが俺にも掛かった。遅れて中に注ぎ込んで、また腹を撫でて意識させる。

「クライヴ、上手にイけたね」
「ぅア、っ、ァ」

 ナカの刺激だけでイってくれたのが嬉しい。今まではちゃんと擦ってあげてたけど、ナカだけでイけるようになったらきっと、そのうちメスイキも出来るようになるはずだ。俺に種を流し込まれるのも、気持ちいいことになってほしい。
 余韻で震える体が蕩けた視線を俺に注いで、声のないまま唇を動かす。

「なぁに、クライヴ」

 師匠に呼んでもらえるから、名前があるのはすごくいい。師匠が考えてくれた、俺の名前。俺に名前がなくても、師匠は俺を識別してくれるけど、名前があったら俺一人を呼んでくれる。見てくれる。

「……ルイ……」

 俺に手を伸ばして、ナカの角度が変わって一瞬苦しそうな顔をした師匠が、それでもぎゅって抱きしめてくれる。頭の後ろから背中まで、ゆっくりと撫でてくれる手の感触が、俺も気持ちいい。

「きもち、いい、な、ルイ」
「……うん」

 ちゃんと、ゆっくり師匠の体を馴らしていくつもりだったのに。
 きっと自分で、どれだけ自分が優しくて、俺を甘やかしてくれてるかわかってない。

 けど。

「気持ちいいから、もっとクライヴがほしい」

 師匠が欲しいから、師匠が知らない師匠の甘さに付け込んで、図々しく欲深く、俺だけにさらけ出してくれるようねだる。そうでもしないと、俺がもらえる分がどんどん少なくなっていく。師匠は、自分が英雄として消費されることを、まるで気にしない。
 丸くなった碧がふんわりと弧を描いて、柔らかい唇が俺に重なってくる。

「……ほしいなら、手に入れに来い」
「……はい、師匠」

 うっかり師匠って呼んで、くすくす笑われた。
 早くこの人に、一人前になったって思われたい。
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