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幼少期
8 婚約者とお茶会(セルネス視点)
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お茶会が終わり、セルネスは自分の部屋に戻るために、王宮の長い廊下を歩いている。
(やはり、彼女はおもしろい)
先ほどのお茶会の出来事を思い出すと、笑みが溢れてくる。
一体、どのような育て方をすれば、あんな純粋に育つのか、セルネスにはわからなかった。
あんな純粋では、貴族社会を生き残ってはいけない。今まで生き残っていけたのは、アドリアンネの話すことができないというアドバンテージがあったからだ。
話すことができなければ、会話には時間がかかってしまい、そもそもワーズソウルは、家格も低い伯爵家。話す価値もないと判断されていたに違いない。
だが、今は第二王子の婚約者という肩書きができてしまっているため、今までのようにはいかなくなる。
腹の探り合いや、同じく王子の婚約者の座。虎視眈々と狙う令嬢からのやっかみにも、笑顔で楽々と対応できるようにならなければならない。
それができるのかどうか。
それを見るためのお茶会だった。
(あの様子では無理そうな気がしてきたな……)
セルネスは、お茶会のことを思い返す。
完全にこちら側の手違いにより、迎えもろくに寄越せずに始まってしまったお茶会だったが、失敗には終わらなかっただろう。成功とも言えない、微妙なところではあったが。
そして、いろいろと言葉を吹っ掛けてみたが、アドリアンネが良い対応を示したことはなかった。
セルネスが、彼女のことを優しいと褒めれば、即座にそんなことはないと否定してくる。
褒め言葉は、たとえお世辞だと思っていたとしても、素直に受け取らなければ無礼だと思われる。
心の中ではそんなことはないとか、どうせお世辞だと思っていても、笑顔でありがとうと言えなければならない。
もう少しはっきりと伝えるために、魅力的な女性だと言えば、お世辞でも嬉しいと返されてしまった。
セルネスは、思わずそれに、お世辞なんかではないと返してしまった。
(そういえば、僕はなんであんなことを言ったんだ?)
アドリアンネが魅力的な女性と思っているのは否定しない。
セルネスを楽しませてくれる彼女のことは、セルネスは好意的に思っていた。
でも、それだけのはずだ。わざわざ、お世辞じゃないと否定するようなことだったのか、セルネスにはわからなかった。
(無意識に、お世辞だと思われたくなかったのか?)
もしそうだとして、なぜそんな風に無意識でも思ったのか、セルネスには検討もつかない。
「お前は、また廊下で百面相しているのか」
そんな、王子であるセルネスには無礼ともとれる言い方で話しかけてきたのは、セルネスの兄であるクーファだった。
「兄上、どうしてこちらに?兄上は、西の庭園だったのでは?」
偶然か必然か、アドリアンネが指定してきた日時は、クーファと婚約者であるミレージュとの交流と被っていた。
ミレージュは、令嬢に対して、気性の荒いところがあるので、鉢合わせなどが起こらないように、ちょうど反対側の西の庭園にて茶会をしているはずだった。
「早めに切り上げたから、もう終わっている」
「ずいぶんとミレージュ嬢の扱いがひどいようで」
以前に、婚約者を物扱いするなと言われたのを少し根に持っていたセルネスは、ここぞとばかりに攻撃する。
クーファは、それに顔を歪めるようなことをせずに、「……そうだな」とボソッと呟いた。
「彼女は、とにかく自分のことを話すのが好きなようで、話題が尽きないのかと思うくらいに、毎回かなりの量を話してくる。私は、生誕パーティーの話をしたかったのだが、そんなことをする暇もなかった。それで、ドレスだけは送るという旨のみを伝えてお帰りいただいただけだ」
「ずいぶんと失礼な対応では?相手はサウスティールのご令嬢ですよ?」
サウスティールは、第二の王家とも言われるほどの家柄の公爵家。
こう言っては失礼だが、セルネスの婚約者であるアドリアンネの家のワーズソウルとは比べ物にならないくらいの家格である。
そんなワーズソウル家の令嬢にも物扱いするなとか、失礼な言動を咎めるような発言をしていたのに、自分はワーズソウルよりも数段は格上のサウスティールにやっている。
その矛盾をセルネスはつついた。
子どものようだが、セルネスはどんな小さなことでも、自分を苛立たせたら、やり返さなければ気が済まない質であった。
「自分のことを話すだけならまだいいのだが、それと同時に、他の令嬢を貶す言動も多くてな。聞いていて気持ちの良いものではない。あれでは、婚約を考え直す可能性も出てくるだろう」
「ですが、彼女以上にふさわしい婚約者は簡単には見つかりませんよ?特に、彼女に屈しないというところが」
少し小馬鹿にしたようにセルネスがそう言うと、クーファははぁとため息をつく。
「……本当に良い性格をしているな、お前は」
「ありがとうございます。兄上」
「まったく褒めてない」
蔑むような視線を向けてくるクーファに、セルネスは達観したような視線を向ける。
(昔は兄上をからかうのがおもしろかったけど、やっぱり今はアドリアンネ嬢かな)
おそらくは一ヶ月後の生誕パーティーのときになるだろうが、それがセルネスには長く感じていた。
(やはり、彼女はおもしろい)
先ほどのお茶会の出来事を思い出すと、笑みが溢れてくる。
一体、どのような育て方をすれば、あんな純粋に育つのか、セルネスにはわからなかった。
あんな純粋では、貴族社会を生き残ってはいけない。今まで生き残っていけたのは、アドリアンネの話すことができないというアドバンテージがあったからだ。
話すことができなければ、会話には時間がかかってしまい、そもそもワーズソウルは、家格も低い伯爵家。話す価値もないと判断されていたに違いない。
だが、今は第二王子の婚約者という肩書きができてしまっているため、今までのようにはいかなくなる。
腹の探り合いや、同じく王子の婚約者の座。虎視眈々と狙う令嬢からのやっかみにも、笑顔で楽々と対応できるようにならなければならない。
それができるのかどうか。
それを見るためのお茶会だった。
(あの様子では無理そうな気がしてきたな……)
セルネスは、お茶会のことを思い返す。
完全にこちら側の手違いにより、迎えもろくに寄越せずに始まってしまったお茶会だったが、失敗には終わらなかっただろう。成功とも言えない、微妙なところではあったが。
そして、いろいろと言葉を吹っ掛けてみたが、アドリアンネが良い対応を示したことはなかった。
セルネスが、彼女のことを優しいと褒めれば、即座にそんなことはないと否定してくる。
褒め言葉は、たとえお世辞だと思っていたとしても、素直に受け取らなければ無礼だと思われる。
心の中ではそんなことはないとか、どうせお世辞だと思っていても、笑顔でありがとうと言えなければならない。
もう少しはっきりと伝えるために、魅力的な女性だと言えば、お世辞でも嬉しいと返されてしまった。
セルネスは、思わずそれに、お世辞なんかではないと返してしまった。
(そういえば、僕はなんであんなことを言ったんだ?)
アドリアンネが魅力的な女性と思っているのは否定しない。
セルネスを楽しませてくれる彼女のことは、セルネスは好意的に思っていた。
でも、それだけのはずだ。わざわざ、お世辞じゃないと否定するようなことだったのか、セルネスにはわからなかった。
(無意識に、お世辞だと思われたくなかったのか?)
もしそうだとして、なぜそんな風に無意識でも思ったのか、セルネスには検討もつかない。
「お前は、また廊下で百面相しているのか」
そんな、王子であるセルネスには無礼ともとれる言い方で話しかけてきたのは、セルネスの兄であるクーファだった。
「兄上、どうしてこちらに?兄上は、西の庭園だったのでは?」
偶然か必然か、アドリアンネが指定してきた日時は、クーファと婚約者であるミレージュとの交流と被っていた。
ミレージュは、令嬢に対して、気性の荒いところがあるので、鉢合わせなどが起こらないように、ちょうど反対側の西の庭園にて茶会をしているはずだった。
「早めに切り上げたから、もう終わっている」
「ずいぶんとミレージュ嬢の扱いがひどいようで」
以前に、婚約者を物扱いするなと言われたのを少し根に持っていたセルネスは、ここぞとばかりに攻撃する。
クーファは、それに顔を歪めるようなことをせずに、「……そうだな」とボソッと呟いた。
「彼女は、とにかく自分のことを話すのが好きなようで、話題が尽きないのかと思うくらいに、毎回かなりの量を話してくる。私は、生誕パーティーの話をしたかったのだが、そんなことをする暇もなかった。それで、ドレスだけは送るという旨のみを伝えてお帰りいただいただけだ」
「ずいぶんと失礼な対応では?相手はサウスティールのご令嬢ですよ?」
サウスティールは、第二の王家とも言われるほどの家柄の公爵家。
こう言っては失礼だが、セルネスの婚約者であるアドリアンネの家のワーズソウルとは比べ物にならないくらいの家格である。
そんなワーズソウル家の令嬢にも物扱いするなとか、失礼な言動を咎めるような発言をしていたのに、自分はワーズソウルよりも数段は格上のサウスティールにやっている。
その矛盾をセルネスはつついた。
子どものようだが、セルネスはどんな小さなことでも、自分を苛立たせたら、やり返さなければ気が済まない質であった。
「自分のことを話すだけならまだいいのだが、それと同時に、他の令嬢を貶す言動も多くてな。聞いていて気持ちの良いものではない。あれでは、婚約を考え直す可能性も出てくるだろう」
「ですが、彼女以上にふさわしい婚約者は簡単には見つかりませんよ?特に、彼女に屈しないというところが」
少し小馬鹿にしたようにセルネスがそう言うと、クーファははぁとため息をつく。
「……本当に良い性格をしているな、お前は」
「ありがとうございます。兄上」
「まったく褒めてない」
蔑むような視線を向けてくるクーファに、セルネスは達観したような視線を向ける。
(昔は兄上をからかうのがおもしろかったけど、やっぱり今はアドリアンネ嬢かな)
おそらくは一ヶ月後の生誕パーティーのときになるだろうが、それがセルネスには長く感じていた。
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