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幼少期
9 過去のこと
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お茶会が終わり、心労を抱えたまま、アドリアンネは帰宅する。
行きと同じく、帰りもフィオリアが出迎えてくれた。
周りには、別邸の使用人たちがいる。
万が一のために、フィオリアの周りには、別邸の使用人がついていた。
「お茶会は楽しかったですか?」
フィオリアの問いに、アドリアンネはぎこちなく笑うことしかできない。
そんなアドリアンネを見て、フィオリアは優しくアドリアンネの頭を撫でる。
「……ドリー。あなたの心境は、少しはわかっているつもりだわ。でも、絶対に無理してはダメよ」
フィオリアの言葉に、アドリアンネはゆっくりと頷く。
フィオリアの言葉は、普段から聞く母としての言葉ではなかったように感じた。
それは、まるで、アドリアンネと同じーー
「お母さまは、私と同じく異能を持っていたのですか?」
気づいたら、アドリアンネはそのように聞いていた。
無意識に、口から言葉を出していた。アドリアンネは、慌てて口を塞ぐ。
特に何か事象を起こすような言葉はなかったこと、周りには、別邸の使用人のみだったのが幸いだった。
肝心のフィオリアは、アドリアンネが言葉を発したと同時に手の動きを止め、少し言い淀む。
普段ならば、アドリアンネの質問にはすぐに返していたのに、言い淀む母の姿を見て、アドリアンネは急いで撤回の文字を書いた。
『答えなくて大丈夫です。忘れてください』
それを見せて、返事も聞かないうちに、アドリアンネは屋敷に向かって走り出した。
フィオリアは、アドリアンネの後ろ姿を見続けている。
「思い出したのかと思っていたけど、どうやら違うみたいね」
フィオリアは、昔の記憶を思い出す。
今よりも、ずっと昔であり、フィオリアにとっては、あまりにも残酷だった記憶を。
(このまま思い出さないほうが幸せだと思っていたけど、話したほうがいいのかしら。私が異能を失くしたときのことを)
そんな葛藤を抱えながら、フィオリアは使用人が屋敷に入れようとするまで、その場を動くことはなかった。
◇◇◇
部屋に戻ったアドリアンネは、ベッドにうずくまっていた。
(なんであんなことを聞いてしまったのかしら……)
普段から、なるべく話さないようにしていたはずなのに、無意識に話してしまった。
その一瞬だけは、まるで、自分ではなかったように感じた。
確かに、自分の意思は存在していたはずなのに、思うように動かせない。まるで、操られているかのように、自然と口から言葉が漏れていた。
(話したらダメなのに。また、人を傷つけてしまう)
アドリアンネにとって、苦い記憶がよみがえる。
話してはいけないと父親や母親から言われていたが、その理由が当時のアドリアンネには理解できずに、なるべく筆話をしていたものの、声に出すこともあった。
ある日、自分の嫌いなものが出てきたとき、アドリアンネは当然ながら不機嫌になった。
そして、シェフにいらないと言っていたのだが、食べないといけないと説教されてしまい、言い放ったのがこの言葉。
「おりょーりってあぶないんだっておかーさまから聞いたよ。おじさんなんて怪我でもしちゃえばいいのに!」
ただ、そう言っただけだった。何気なく出た言葉。子どもがよく言うような、ちょっとした悪態だった。
それなのに、後日にそのシェフは、本当に怪我をした。
包丁を使っていたときに指を切った。それだけで、料理ではありふれた事故ではあるが、幼いアドリアンネはこう感じた。
(ドリーがやっちゃったんだ)
自分がそう言ったせいで、あの人は怪我をした。怪我すればいいと言ったから。自分のせいで。
それを理解してからは、絶対に話さないようにしてきた。
もしかしたら、あのときのことは、言霊とは関係なかったのかもしれない。今ではそう思っているが、でも、と思う自分もいる。
(絶対に話すわけにはいかない)
自分の異能で、家族も、セルネスも傷つけてしまうかもしれない。
さっきは無意識に話してしまったが、もうその失態はしないと決意した。
少なくとも、次の生誕パーティーでは、やるわけにはいかないと。
(これがきっと、一番いいんだから……)
そう思いながら、心労を抱えていたのもあり、そのまま眠りについた。
行きと同じく、帰りもフィオリアが出迎えてくれた。
周りには、別邸の使用人たちがいる。
万が一のために、フィオリアの周りには、別邸の使用人がついていた。
「お茶会は楽しかったですか?」
フィオリアの問いに、アドリアンネはぎこちなく笑うことしかできない。
そんなアドリアンネを見て、フィオリアは優しくアドリアンネの頭を撫でる。
「……ドリー。あなたの心境は、少しはわかっているつもりだわ。でも、絶対に無理してはダメよ」
フィオリアの言葉に、アドリアンネはゆっくりと頷く。
フィオリアの言葉は、普段から聞く母としての言葉ではなかったように感じた。
それは、まるで、アドリアンネと同じーー
「お母さまは、私と同じく異能を持っていたのですか?」
気づいたら、アドリアンネはそのように聞いていた。
無意識に、口から言葉を出していた。アドリアンネは、慌てて口を塞ぐ。
特に何か事象を起こすような言葉はなかったこと、周りには、別邸の使用人のみだったのが幸いだった。
肝心のフィオリアは、アドリアンネが言葉を発したと同時に手の動きを止め、少し言い淀む。
普段ならば、アドリアンネの質問にはすぐに返していたのに、言い淀む母の姿を見て、アドリアンネは急いで撤回の文字を書いた。
『答えなくて大丈夫です。忘れてください』
それを見せて、返事も聞かないうちに、アドリアンネは屋敷に向かって走り出した。
フィオリアは、アドリアンネの後ろ姿を見続けている。
「思い出したのかと思っていたけど、どうやら違うみたいね」
フィオリアは、昔の記憶を思い出す。
今よりも、ずっと昔であり、フィオリアにとっては、あまりにも残酷だった記憶を。
(このまま思い出さないほうが幸せだと思っていたけど、話したほうがいいのかしら。私が異能を失くしたときのことを)
そんな葛藤を抱えながら、フィオリアは使用人が屋敷に入れようとするまで、その場を動くことはなかった。
◇◇◇
部屋に戻ったアドリアンネは、ベッドにうずくまっていた。
(なんであんなことを聞いてしまったのかしら……)
普段から、なるべく話さないようにしていたはずなのに、無意識に話してしまった。
その一瞬だけは、まるで、自分ではなかったように感じた。
確かに、自分の意思は存在していたはずなのに、思うように動かせない。まるで、操られているかのように、自然と口から言葉が漏れていた。
(話したらダメなのに。また、人を傷つけてしまう)
アドリアンネにとって、苦い記憶がよみがえる。
話してはいけないと父親や母親から言われていたが、その理由が当時のアドリアンネには理解できずに、なるべく筆話をしていたものの、声に出すこともあった。
ある日、自分の嫌いなものが出てきたとき、アドリアンネは当然ながら不機嫌になった。
そして、シェフにいらないと言っていたのだが、食べないといけないと説教されてしまい、言い放ったのがこの言葉。
「おりょーりってあぶないんだっておかーさまから聞いたよ。おじさんなんて怪我でもしちゃえばいいのに!」
ただ、そう言っただけだった。何気なく出た言葉。子どもがよく言うような、ちょっとした悪態だった。
それなのに、後日にそのシェフは、本当に怪我をした。
包丁を使っていたときに指を切った。それだけで、料理ではありふれた事故ではあるが、幼いアドリアンネはこう感じた。
(ドリーがやっちゃったんだ)
自分がそう言ったせいで、あの人は怪我をした。怪我すればいいと言ったから。自分のせいで。
それを理解してからは、絶対に話さないようにしてきた。
もしかしたら、あのときのことは、言霊とは関係なかったのかもしれない。今ではそう思っているが、でも、と思う自分もいる。
(絶対に話すわけにはいかない)
自分の異能で、家族も、セルネスも傷つけてしまうかもしれない。
さっきは無意識に話してしまったが、もうその失態はしないと決意した。
少なくとも、次の生誕パーティーでは、やるわけにはいかないと。
(これがきっと、一番いいんだから……)
そう思いながら、心労を抱えていたのもあり、そのまま眠りについた。
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