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幼少期
7 婚約者とのお茶会
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「引き止めてしまいましたわね。セルネスさまのところへお向かいなさい」
ミレージュの言葉に、アドリアンネはこくこくと頷いて、セルネスの元へと向かう。
セルネスはアドリアンネに気がつくと、微笑みを向けてくれた。
アドリアンネは、最初の顔合わせのときと同じカーテシーを行う。
「頭をあげてください。今日は来てくださりありがとうございます」
セルネスにそう言われたので、アドリアンネは頭をあげる。
そして、空いていた向かい側の椅子に座った。
「すみません。いろいろ手違いがあって、案内に不手際が出てしまいまして」
セルネスが苦笑いしながらそう言った。
アドリアンネは、慌てて文字を書き出す。
『私は気にしていないので大丈夫です』
それを見せながら、にこりと微笑んだ。
「アドリアンネ嬢はお優しいですね」
『そんなことはありません』
自分でも早くそう書いて、セルネスに見せていた。
セルネスは少し呆けているような感じだったが、アドリアンネも少し呆けていた。
自分がこう書いた理由がよくわからなかったから。
「アドリアンネ嬢がご自分をどのように評価しているのかはわかりませんが、私には充分に魅力的なご令嬢だと思いますよ」
にっこりと笑って、落ち込んだ様子を見せていたアドリアンネを励ましている。
その優しさが、アドリアンネの心に染み渡っていくのを感じた。
『ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです』
アドリアンネがそう書くと、セルネスが少し苦笑いしている。
「お世辞ではないんだけどなぁ……」
セルネスがそうボソッと呟いた言葉は、アドリアンネには聞こえていなかった。
何か大事なことかと感じ、『何かおっしゃいましたか?』と聞いても、「いえ、なんでもありませんよ」と返ってくる。
「そういえばアドリアンネ嬢は、あまり社交界には出ていませんよね?」
セルネスの唐突な質問に少し疑問を感じながらも、アドリアンネはこくりと頷く。
「実は、一ヶ月後に兄上の生誕を記念したパーティーがあるのですが、ご存じでしたか?」
アドリアンネは、その質問にもこくりと頷く。
アドリアンネも、貴族の端くれ。そういう王家主催のパーティーには、都合が合えばという体で顔を出していた。
パーティー等に滅多に出ないのは、アドリアンネが人目を気にするから。何かのきっかけで自分の異能のことを知って、それを狙って近づいてくるのでは?逆に、離れている人たちは、自分の異能を恐れているのでは?
そんな、他人に話したら被害妄想とも取られそうな考えが頭を巡ってしまい、少人数のところならなんとか対応できるものの、大人数となると難しかった。
どこへ行っても、人、人、人だと、心がまったく休まらなかったためだ。
「アドリアンネ嬢も私の婚約者ですので、必然的に出席することになるのですが、問題はありませんか?」
『予定はないです』
そもそも、予定が埋まるほどに毎日が充実しているわけじゃないしと、心の中で付け足した。
「では、近いうちにドレスをお送りしますので、お受け取りくださいますか」
「ーーっ!?」
セルネスのまさかの言葉に、アドリアンネは衝撃を受ける。
(セルネス殿下が贈り物?私に?婚約者だから?いやでも……)
アドリアンネは混乱状態にあった。
よく考えれば、婚約者であるセルネスが自分に贈り物をすることくらい、何もおかしなことではないのだが、そんなことを冷静に考えられる余裕は、今のアドリアンネにはなかった。
「迷惑ならばかまわないのですが……」
セルネスの言葉に、アドリアンネは首を小刻みに振る。
(セルネス殿下の提案を断るなんて、できるはずがないじゃない)
いくら上級貴族とはいえ、ぎりぎり伯爵家にぶら下がっているだけの、名前だけの上級貴族のアドリアンネが、つい先日までは雲の上のお方だった王子のセルネスの提案を断る度胸など持ち合わせていなかった。
そんな度胸があるのなら、社交界だって恐れずに出ているだろう。
『謹んでお受け取りいたします』
申し訳なさや嬉しさなどのいろいろな感情が複雑に絡み合いながらも、アドリアンネはその言葉を示すことしかできなかった。
ミレージュの言葉に、アドリアンネはこくこくと頷いて、セルネスの元へと向かう。
セルネスはアドリアンネに気がつくと、微笑みを向けてくれた。
アドリアンネは、最初の顔合わせのときと同じカーテシーを行う。
「頭をあげてください。今日は来てくださりありがとうございます」
セルネスにそう言われたので、アドリアンネは頭をあげる。
そして、空いていた向かい側の椅子に座った。
「すみません。いろいろ手違いがあって、案内に不手際が出てしまいまして」
セルネスが苦笑いしながらそう言った。
アドリアンネは、慌てて文字を書き出す。
『私は気にしていないので大丈夫です』
それを見せながら、にこりと微笑んだ。
「アドリアンネ嬢はお優しいですね」
『そんなことはありません』
自分でも早くそう書いて、セルネスに見せていた。
セルネスは少し呆けているような感じだったが、アドリアンネも少し呆けていた。
自分がこう書いた理由がよくわからなかったから。
「アドリアンネ嬢がご自分をどのように評価しているのかはわかりませんが、私には充分に魅力的なご令嬢だと思いますよ」
にっこりと笑って、落ち込んだ様子を見せていたアドリアンネを励ましている。
その優しさが、アドリアンネの心に染み渡っていくのを感じた。
『ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです』
アドリアンネがそう書くと、セルネスが少し苦笑いしている。
「お世辞ではないんだけどなぁ……」
セルネスがそうボソッと呟いた言葉は、アドリアンネには聞こえていなかった。
何か大事なことかと感じ、『何かおっしゃいましたか?』と聞いても、「いえ、なんでもありませんよ」と返ってくる。
「そういえばアドリアンネ嬢は、あまり社交界には出ていませんよね?」
セルネスの唐突な質問に少し疑問を感じながらも、アドリアンネはこくりと頷く。
「実は、一ヶ月後に兄上の生誕を記念したパーティーがあるのですが、ご存じでしたか?」
アドリアンネは、その質問にもこくりと頷く。
アドリアンネも、貴族の端くれ。そういう王家主催のパーティーには、都合が合えばという体で顔を出していた。
パーティー等に滅多に出ないのは、アドリアンネが人目を気にするから。何かのきっかけで自分の異能のことを知って、それを狙って近づいてくるのでは?逆に、離れている人たちは、自分の異能を恐れているのでは?
そんな、他人に話したら被害妄想とも取られそうな考えが頭を巡ってしまい、少人数のところならなんとか対応できるものの、大人数となると難しかった。
どこへ行っても、人、人、人だと、心がまったく休まらなかったためだ。
「アドリアンネ嬢も私の婚約者ですので、必然的に出席することになるのですが、問題はありませんか?」
『予定はないです』
そもそも、予定が埋まるほどに毎日が充実しているわけじゃないしと、心の中で付け足した。
「では、近いうちにドレスをお送りしますので、お受け取りくださいますか」
「ーーっ!?」
セルネスのまさかの言葉に、アドリアンネは衝撃を受ける。
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「迷惑ならばかまわないのですが……」
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そんな度胸があるのなら、社交界だって恐れずに出ているだろう。
『謹んでお受け取りいたします』
申し訳なさや嬉しさなどのいろいろな感情が複雑に絡み合いながらも、アドリアンネはその言葉を示すことしかできなかった。
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