翠も甘いも噛み分けて

小田恒子

文字の大きさ
16 / 20

あの日の約束 4*

しおりを挟む
 幸成はそう言って、翠の唇を自分の唇で塞いだ。最初は触れる程度に、続いて角度を変えてゆっくりとキスをした。幸成の唇は少し乾燥しているのかカサついていたけれど、弾力性のある柔らかい唇だった。同じものを食べていたせいで、ファーストキスはツナマヨの味がした。けれど次第にそんなことは気にならなくなるくらい、翠は幸成とのキスに溺れている。

「ん……んんっ…………ふぅ……」

 キスがだんだん深くなり、翠は立っていられなくなるくらいに蕩けさせられていた。自分でも聞いたことがないような声が口から出て、翠は羞恥から顔が赤らむ。幸成はそんな翠のかわいい声を聞いて、気がつけば翠を抱き上げていた。翠の許可を取らないまま寝室へと連れて行くと、ベッドの上にそっと横たえた。

「がっついてごめん、でももう我慢の限界なんだ……このまま俺のものにしてもいい?」

 寝室は、電気が点いておらず仄暗い。開け放たれたドアから漏れる光が逆光となり、幸成の表情は見えないけれど、その声は熱を孕んでいる。幸成は翠の返事を待っている。もしここで『嫌だ』と言えば、きっと止めてくれるだろう。でも……

「……私、今までずっと太ってたから、誰ともお付き合いとかしたことなくて、その……こういったことって、初めてなの。それに……急激に痩せたから、身体の皮がたるんでしまってて……」

 蚊の鳴くような小さい声で、翠が呟いた。その声を聞いた幸成は、翠の頬にそっと触れながら耳元で囁いた。

「そんなの全然気にしてないよ。俺を、スイの最初で最後の男にしてくれる……?」

 翠にとって、その行為はまだ未知の経験だ。女の子の初めては、高確率で痛いと雑誌に体験談が書かれていたり、女友達からも聞いているだけに恐怖心は拭えない。でも……いずれは経験することだ。それならば、大好きな人──幸成に、自分の一番近くに来て欲しい。
 どのくらい沈黙が流れただろう。ほんの数秒か、数分か、時間の感覚が分からない。ようやく決心した翠は、幸成の首に両手を回した。

「いいんだな……?」

 幸成が、翠に意思確認をする。翠はその言葉にキスで返事をすると、途端にそのキスが激しくなった。翠に覆い被さる幸成は、その体重を翠にかけて、逃げ道を塞ぐ。でもその反面で、幸成は翠を怖がらせないように、まるで宝物に触れるように、優しくそっと翠の身体を撫でた。幸成が触れるたびに、翠の身体は熱を帯びていく。

「スイ……高校の頃からずっと好きだった」

 幸成の告白に、翠の瞳から再び涙がこぼれ落ちた。一瞬なぜ翠が泣いたのか、自分がなにか変なことを言ったのか取り乱すも、翠の表情を見て安心した。翠は笑顔を浮かべている。

「私も……幸成のこと、好きだった。随分、遠回りしちゃったね……」
「ああ。でももう、離さない」

 幸成は再び翠にキスをすると、翠が着ている服に手をかけた。カーディガンのボタンを外し、下に着ていたブラウスのボタンを不器用ながら一つ一つ、ゆっくりと外していく。
 ようやくボタンを外し終え、その下に着ているキャミソールとブラジャーをたくしあげると、翠の上半身の肌が露わになる。幸成はゴクリと唾を飲み込んだ。

「スイ……」

 中途半端に服を脱がされて恥ずかしがる翠を見て、幸成はこの幸せを噛み締めている。洋服がしわにならないように、翠の腕から洋服を抜き取り、床へと落とすと、幸成も自分の着ているフード付きのトレーナーを脱ぎ棄てた。十年前より逞しくなった身体は、逆光のおかげで陰影がつき、更に筋肉が隆起して見える。

「ああ……やっぱりスイは柔らかいな」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

恋色メール 元婚約者がなぜか追いかけてきました

國樹田 樹
恋愛
婚約者と別れ、支店へと異動願いを出した千尋。 しかし三か月が経った今、本社から応援として出向してきたのは―――別れたはずの、婚約者だった。

財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。 専務は御曹司の元上司。 その専務が社内政争に巻き込まれ退任。 菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。 居場所がなくなった彼女は退職を希望したが 支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。 ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に 海外にいたはずの御曹司が現れて?!

思わせぶりには騙されない。

ぽぽ
恋愛
「もう好きなのやめる」 恋愛経験ゼロの地味な女、小森陸。 そんな陸と仲良くなったのは、社内でも圧倒的人気を誇る“思わせぶりな男”加藤隼人。 加藤に片思いをするが、自分には脈が一切ないことを知った陸は、恋心を手放す決意をする。 自分磨きを始め、新しい恋を探し始めたそのとき、自分に興味ないと思っていた後輩から距離を縮められ… 毎週金曜日の夜に更新します。その他の曜日は不定期です。

十年越しの幼馴染は今や冷徹な国王でした

柴田はつみ
恋愛
侯爵令嬢エラナは、父親の命令で突然、10歳年上の国王アレンと結婚することに。 幼馴染みだったものの、年の差と疎遠だった期間のせいですっかり他人行儀な二人の新婚生活は、どこかギクシャクしていました。エラナは国王の冷たい態度に心を閉ざし、離婚を決意します。 そんなある日、国王と聖女マリアが親密に話している姿を頻繁に目撃したエラナは、二人の関係を不審に思い始めます。 護衛騎士レオナルドの協力を得て真相を突き止めることにしますが、逆に国王からはレオナルドとの仲を疑われてしまい、事態は思わぬ方向に進んでいきます。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

処理中です...