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あの日の約束 3
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幸成の声が耳に直接響くのは、身体が密着しているせいだ。幸成の鼓動が、声が、伝わる体温が、全てが心地よい。
「スイ、でいいよ。てか、高橋くんだけだから。『スイ』って呼ぶのは。だから、どっちでもいい」
その言葉に、幸成は翠を抱きしめる腕に力を込めた。十年前に比べると、見た目以上に随分と痩せ細ってしまっている。今にも壊れそうなくらい、小さくなってしまった翠。ずっと昔からこうやって抱きしめたかったと言えば、もしかしたら翠は引くだろうか。
学生の頃の翠は肉付きがよくて、柔らかそうで、あの頃もこうして抱きしめたかった。
結婚式で翠に再会した時、見た目が変わってしまった翠に愕然とした。だからこそ無理矢理会う口実を作って、あの頃みたいに毎日幸成が作るスイーツを翠に食べさせて、あの頃の体重まで戻した上でこうしたかった。
こうして触れてしまったからにはもう我慢なんてクソくらえだ。
「わかった。じゃあ、二人だけの時は、今までみたいにスイって呼ばせてくれ」
幸成の声が、心なしか震えていた。翠は小さく頷くと、顔を上げた。
「そう言えば昔、高橋くんと話をしてたよね。有名パティシエになった暁には、欲しいものがあるんだって。で、私がそれをプレゼントするって。今更なんだけど、開業祝いも兼ねてプレゼントするよ。高いものは無理だけど、なにがいい?」
翠の上目遣いに、幸成は完全にノックアウト状態だった。
(なんだこのかわいい物体は! もう絶対に誰にも触れさせたくない)
正直言って、翠に対してここまで独占欲が湧くとは思わなかった。学生時代から一緒にいて居心地がよく、ずっと気になる存在だったけど、決して見た目で惚れた訳ではない。けれど、好きになれば、そのぽっちゃりとした身体に触れたくて仕方なかった。この前、勢いで『今日から彼女』発言をしたけれど、あの言葉が本当になって欲しいと、どれだけ願ったことか……
「……が……い」
「え? ごめん、聞き取れなかった。もう一度言って?」
翠の言葉に幸成は抱擁の手を解くと、改まって翠と向かい合い、深呼吸をすると覚悟を決めたように口を開いた。
「……スイが欲しい。今日会った奴がいるような職場にはもう行かせたくない。ここに閉じ込めてしまいたいくらい、スイのことが好きだ」
突然の告白に、翠の頭は真っ白になった。幸成への恋心を自覚したばかりの翠は、素直に幸成の言葉を信じられないでいる。今日はエイプリルフールでもなく、これが夢ではなく現実だということを認められない。
「高校の頃、みんながよく言ってた『付き合ってる時はいいけど、別れたら気まずくなるから校内での男女交際はしたくない』っての、俺もそう思ってた。スイのことが好きだった。だからこそ、スイが俺を拒否したらと考えたら怖くて、友達のラインを踏み越えられなかった」
翠は信じられないという表情を浮かべて幸成のことを見つめている。幸成は、翠に自分を受け入れて欲しくて、ゆっくりと言葉を選びながら、言葉を続けた。
「前の店でメディア取材を受けた時、昔の約束のこと、スイも覚えていてくれるといいなって思ってた。あれで一応有名人になったから、こっちに帰って店がある程度軌道に乗ったら、俺から会いに行くつもりだったんだ。あの時の約束を覚えていてくれたなら、それがまだ有効なら、スイが欲しいって」
その言葉に、翠の瞳から涙が一筋流れ落ちた。
「ほんとに……? 私でいいの……?」
「スイがいい」
幸成は間髪をいれず返事をすると、翠の頬に流れる涙を指で拭った。両手でそってと翠の頬に触れ、少し顔を上に持ち上げた。翠の潤んだ瞳が、幸成の庇護欲を掻き立てる。
「スイは? 俺と無理矢理付き合うように持っていったけど、本当に俺でいい?」
幸成の言葉に、翠は大きく頷いた。それを見た幸成は、翠を再びその腕に抱き締めた。
「他の誰でもない、高橋くんがいい」
「ありがとう。……でもな、スイ、そろそろ俺も名前で呼ばれたいんだけど」
「幸成……くん?」
「くんはいらない」
「スイ、でいいよ。てか、高橋くんだけだから。『スイ』って呼ぶのは。だから、どっちでもいい」
その言葉に、幸成は翠を抱きしめる腕に力を込めた。十年前に比べると、見た目以上に随分と痩せ細ってしまっている。今にも壊れそうなくらい、小さくなってしまった翠。ずっと昔からこうやって抱きしめたかったと言えば、もしかしたら翠は引くだろうか。
学生の頃の翠は肉付きがよくて、柔らかそうで、あの頃もこうして抱きしめたかった。
結婚式で翠に再会した時、見た目が変わってしまった翠に愕然とした。だからこそ無理矢理会う口実を作って、あの頃みたいに毎日幸成が作るスイーツを翠に食べさせて、あの頃の体重まで戻した上でこうしたかった。
こうして触れてしまったからにはもう我慢なんてクソくらえだ。
「わかった。じゃあ、二人だけの時は、今までみたいにスイって呼ばせてくれ」
幸成の声が、心なしか震えていた。翠は小さく頷くと、顔を上げた。
「そう言えば昔、高橋くんと話をしてたよね。有名パティシエになった暁には、欲しいものがあるんだって。で、私がそれをプレゼントするって。今更なんだけど、開業祝いも兼ねてプレゼントするよ。高いものは無理だけど、なにがいい?」
翠の上目遣いに、幸成は完全にノックアウト状態だった。
(なんだこのかわいい物体は! もう絶対に誰にも触れさせたくない)
正直言って、翠に対してここまで独占欲が湧くとは思わなかった。学生時代から一緒にいて居心地がよく、ずっと気になる存在だったけど、決して見た目で惚れた訳ではない。けれど、好きになれば、そのぽっちゃりとした身体に触れたくて仕方なかった。この前、勢いで『今日から彼女』発言をしたけれど、あの言葉が本当になって欲しいと、どれだけ願ったことか……
「……が……い」
「え? ごめん、聞き取れなかった。もう一度言って?」
翠の言葉に幸成は抱擁の手を解くと、改まって翠と向かい合い、深呼吸をすると覚悟を決めたように口を開いた。
「……スイが欲しい。今日会った奴がいるような職場にはもう行かせたくない。ここに閉じ込めてしまいたいくらい、スイのことが好きだ」
突然の告白に、翠の頭は真っ白になった。幸成への恋心を自覚したばかりの翠は、素直に幸成の言葉を信じられないでいる。今日はエイプリルフールでもなく、これが夢ではなく現実だということを認められない。
「高校の頃、みんながよく言ってた『付き合ってる時はいいけど、別れたら気まずくなるから校内での男女交際はしたくない』っての、俺もそう思ってた。スイのことが好きだった。だからこそ、スイが俺を拒否したらと考えたら怖くて、友達のラインを踏み越えられなかった」
翠は信じられないという表情を浮かべて幸成のことを見つめている。幸成は、翠に自分を受け入れて欲しくて、ゆっくりと言葉を選びながら、言葉を続けた。
「前の店でメディア取材を受けた時、昔の約束のこと、スイも覚えていてくれるといいなって思ってた。あれで一応有名人になったから、こっちに帰って店がある程度軌道に乗ったら、俺から会いに行くつもりだったんだ。あの時の約束を覚えていてくれたなら、それがまだ有効なら、スイが欲しいって」
その言葉に、翠の瞳から涙が一筋流れ落ちた。
「ほんとに……? 私でいいの……?」
「スイがいい」
幸成は間髪をいれず返事をすると、翠の頬に流れる涙を指で拭った。両手でそってと翠の頬に触れ、少し顔を上に持ち上げた。翠の潤んだ瞳が、幸成の庇護欲を掻き立てる。
「スイは? 俺と無理矢理付き合うように持っていったけど、本当に俺でいい?」
幸成の言葉に、翠は大きく頷いた。それを見た幸成は、翠を再びその腕に抱き締めた。
「他の誰でもない、高橋くんがいい」
「ありがとう。……でもな、スイ、そろそろ俺も名前で呼ばれたいんだけど」
「幸成……くん?」
「くんはいらない」
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