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初めてのことばかり 第1話
しおりを挟む私たちは、中年くらいの女中さんから定食のお盆を受け取り、席に着いた。
定食はおかずとして、鰯の粕漬に長芋の煮物、大根のお漬物が並んでいる。麦入りのご飯と蕪のお味噌汁からは湯気がでており、香ばしい匂いが食欲をそそる。
「わぁ~、美味しそう!私、お腹ペコペコだったんです!」
「ペコペコ?……桃子もそろそろ疲れたろう。ゆっくり食べなさい。」
「あっ、ありがとうございます。」
三人で、いただきます、と挨拶し食べ始める。いけない、思わず現代の言葉を使ってしまいそうになる。私の事情を知らない人もいるんだし、気をつけなきゃ。
あぁ、ちゃんとしたご飯だ。美味しい~。流石、釜戸で炊いたご飯だなぁ。所々おこげがあって、おかずの味付けも最高。
昔の食事って質素なイメージだったけど、お昼からきちんとしたおかずもついているし、この辺りは食材が豊富なのかな。町も賑わっている様子だったし、この所内も沢山の人手がある。豊かなところなのかもしれない。
てゆうか、鬼も普通に人間と同じ食事なんだ!?すっかり普通に受け入れてたけど……。まぁ、人間と共存しているわけだし、それもそうか。
神楽さんも藤堂さんも、落ち着いた方だから、黙々と食事を摂っている。所作も美しいし、きっと育ちのいい鬼なんだなぁ。
そこで食堂の入り口がざわついていることに気がつく。
どうやら桜谷さんが部下数名を引き連れて食堂へ入ってきたようだ。
他の隊士の人は、桜谷さんのために道を開け、ペコペコ挨拶をしている。
「あー!やっと見つけた思たら、桃子ちゃんもう飯食っとるやんけ!阿呆!おどれらの仕事が遅いからじゃボケ!」
何事かと思えば、桜谷さんは私のことを探してくれていたらしい。そして、何故か部下の人達は、とばっちりで叱られてしまっている。可哀想に……。
「……劉紀。食堂だ、あまり大声で威嚇するな。」
「へいへい……あーあ、折角桃子ちゃんと飯食おうと思っとったのになぁ~。」
え?桜谷さん、そのために私のことを探してくれていたの?嬉しい♡
桜谷さんも女中さんから定食を受け取り、私達の隣へ座った。
ちょうど、近くに座っていた別の隊士の人達は、怯えた様子で桜谷さんに席を譲っている。
私には優しいけど、本当はとっても怖い鬼なんだろうなぁ……。
本人は、どこ知らぬ顔で、いただきます、と手を合わせている。
「桜谷さん、すみません、お昼お先に頂いちゃって。」
「ん、ええよ。桃子ちゃんも朝から大変やったろ。でも、今度からは一緒に食べよな?」
「は、はい!」
えー!拗ねながらお食事のお約束ですか!桜谷さん、可愛い!そのギャップ最高ですよ。
「……京ちゃん、桃子ちゃんが着れそうな女中用の着物、納戸から探させといたで。あったはええけど、そろそろ在庫無くなりそうやった。また人数増やすつもりなら、新調せんと。」
「劉紀。恩に着るよ。たしかに、そろそろ予備を確保しておかなければならないな。」
「それと、大和。ちょいと休憩したら、俺と稽古付き合えや。」
「あぁ、勿論かまわない。」
うんうん、お仕事のお話ですね。皆さん、仕事が出来るオーラが出てて素敵です!
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