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第3章 国際首脳会議
アゼミア帝国交渉会談
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晩餐会の翌日。クリスタルとルーグは正装に着替えて会談に臨む。クリスタルの正装はルーグの手作りである。着ているドレスは様々な高位種族の素材から作り上げられた、体のラインを細く見せるデザインである。
ルーグの正装は、クリスタルの正装に合わせたものだ。作りは上質だが、決してクリスタルの衣装より目立たないデザインがされている。
会談の場に二人が入れば、それまで控えの者と雑談していた相手国の者が立ち上がり、礼をする。今回の交渉の目的は、相手国の持つ『金鉱石資源の確保』だ。戦争時の魔術具に金を使うため、出来るだけ多く確保したいのだ。
「レイレード国王様に側近様。昨日の晩餐会はお招き頂きありがとうございました。アゼミア大帝国帝王でございます。」
数人いる控えの者も、敬礼をする。クリスタルは手を軽くあげ、相手の敬礼を下げさせる。
「アゼミア帝王、昨日はよく眠れたか? もうそちらも体に気を付けないと大変だろう。」
クリスタルも礼を返し、アゼミア帝王と握手をし、座るように促す。そして自身も相手と対面になるよう座る。ルーグはクリスタルの後ろに立つ。
「さて、早速交渉の話をしようか。まずそちらからの要望はあるだろうか?」
「ではお言葉に甘えさせて頂きます。貴国の我が国への輸出品の値段を下げて欲しい品物が幾つかございます。」
帝王ははっきりと言う。その威圧と貫禄は凄まじいものである。クリスタルは怯むこともなく、通常通りの態度である。
「そちらに輸出している加工品はかなりの数がある。値段を下げて欲しい物は何だ?」
「布製品、貴金属加工品、医薬品でございます。これらは我が国でも最も人気があります。故に、不足している物でもあるのです。どうかご検討を。」
帝王は頭を下げるものの、威圧は下げない。
「ふーん……。」と言いつつ、少しだけ考えて、はっきりと言う。
「貴金属加工と医薬品に関しては無理だ。布製品だけは交渉次第では検討しよう。」
「他は何故検討をされるのですか?」
帝王の威圧はさらに増す。眉間に皺が寄っている。クリスタルはそれでも態度を崩さない。
「布製品はそちらが多く糸輸出してくれれば良いだけだ。多く生産し、少しだけ安くしても民に利益は出る。だが、貴金属と医薬品は数に限りがある。貴国も多く所有していない資源故に、輸出して欲しいのだろう? だからこそ無理だ。こちらが資源の取引先を増やさなければならなくなる。そうなると自然と値段は高くなり、民が飢える。そうなるのであれば、最初から値段は下げない。」
クリスタルの意見に、帝王も怯まない。
「それを調節するのが『国王』ではございませんか?」
「無暗に取引先を開拓するのは、愚策だろう?」
二人の圧は止まらない。帝王の後ろの控えは冷や汗を流している。
「布製品につきましては、こちらから糸の原料を多く輸出しましょう。その代わりに他の製品の値段の見直しをして下さい。」
「布製品に関しては下げよう。他は何かそれ相応の価値の物でなければ無理だ。」
「では、我が国の酪農技術はどうでしょうか?」
「それは先約が居るし、そちらよりも安価で確かな技術を持つ。必要が無い。」
「光魔法の運用技術はどうでしょうか?」
「俺自身で開発できる。必要が無い。」
「では、」
「食料関連、機械技術関連、魔法開発及び運用、軍事関連、交通機関の魔力管理、建築関連、どれも必要はない。この国でどれも解決できるものだ。必要な技術は俺や優秀な側近が開発する。技術『は』必要ない。」
クリスタルの取り付く島もない態度に、いよいよ帝王は最終手段を提案する。
「……では、金鉱石の輸出量の増加でいかがでしょうか?」
クリスタルはニヤリと笑う。
「いいだろう。それで貴金属加工品と医薬品は多少価格を考慮し、再度交渉の場を設けよう。では契約書を作ろうか。」
ようやく決まった交渉に、付き人は冷や汗を拭う。ルーグが契約書とサイン用のペンをテーブルに置き、契約書を互いに確認しサインをする。
「では、確かに。」
「ははっ、相変わらず手厳しい方だ。」
「俺はそういう奴だ。知っているだろう?」
結局、クリスタルの狙い通りに契約は進んだ。
__________
執務室に戻り、クリスタルは椅子に座って契約書を仕舞う。ルーグはその間、ハーブティーを入れながら話しかける。
「お前も意地の悪い契約するよな。アゼミア大帝国の経済事情と資源の事狙って、金鉱石取引させただろ。」
「当たり前だ。何年とかけて『俺がそうさせた』からな。」
クリスタルの交渉は、年月をかけて下準備をするものだ。アゼミア大帝国に関しては、光魔法の技術と酪農、そして貴金属鉱石がメインの交渉材料である。特に貴金属は、クリスタルの国でも加工して輸出したい物でもある。アゼミア大帝国の貴金属を狙うために、何年もかけてアゼミア大帝国の貴金属加工相手を自国頼りにし、この様な取引をしている。今やアゼミア大帝国の貴金属加工品の殆どが、クリスタルの国の製品である。それ故に今回金鉱石を出してまで、加工品の値段を下げたかったのであろう。
「まぁ、相手の狙いは最初から分かりやすいから、交渉進めるのは早く済んで何よりだ。医薬品の値下げは意外だったが。」
ルーグは入れたてのハーブティーをクリスタルの前に出す。蜂蜜も添える。クリスタルは蜂蜜を少しだけ入れて、啜る。ルーグは資料を持ち出し、クリスタルに報告をする。
「今上がってきた調べでは、今アゼミア大帝国に病が発生しているそうだ。その関係で医薬品が足りないらしい。新薬を開発する程の病ではないが、消毒が必須となるし鎮痛剤も足りないとか。だから交渉に出したのかもな。」
それを聞き、クリスタルは腕を組んで少々考える。
「ふむ……。それなら医薬品は大人しく大量生産のちに少しだけ値下げしよう。ベクトレイアと戦争になりそうになった場合、貴金属加工品は相手の輸出量を見て金額を考えよう。」
「その方がいいだろうな。医薬品については、戦争になった場合でも足りる量を確保できるなら、俺は文句はない。貴金属加工品については、安い物に関してはちょっと低めでもいいかもしれないな。相手国の国民に恩を売る意味で。」
「なるほど。民間受けには多少は値段を下げるか。」
二人は暫く休憩した後、次の交渉に臨む。各国の交渉ラッシュは、まだまだ続く。
ルーグの正装は、クリスタルの正装に合わせたものだ。作りは上質だが、決してクリスタルの衣装より目立たないデザインがされている。
会談の場に二人が入れば、それまで控えの者と雑談していた相手国の者が立ち上がり、礼をする。今回の交渉の目的は、相手国の持つ『金鉱石資源の確保』だ。戦争時の魔術具に金を使うため、出来るだけ多く確保したいのだ。
「レイレード国王様に側近様。昨日の晩餐会はお招き頂きありがとうございました。アゼミア大帝国帝王でございます。」
数人いる控えの者も、敬礼をする。クリスタルは手を軽くあげ、相手の敬礼を下げさせる。
「アゼミア帝王、昨日はよく眠れたか? もうそちらも体に気を付けないと大変だろう。」
クリスタルも礼を返し、アゼミア帝王と握手をし、座るように促す。そして自身も相手と対面になるよう座る。ルーグはクリスタルの後ろに立つ。
「さて、早速交渉の話をしようか。まずそちらからの要望はあるだろうか?」
「ではお言葉に甘えさせて頂きます。貴国の我が国への輸出品の値段を下げて欲しい品物が幾つかございます。」
帝王ははっきりと言う。その威圧と貫禄は凄まじいものである。クリスタルは怯むこともなく、通常通りの態度である。
「そちらに輸出している加工品はかなりの数がある。値段を下げて欲しい物は何だ?」
「布製品、貴金属加工品、医薬品でございます。これらは我が国でも最も人気があります。故に、不足している物でもあるのです。どうかご検討を。」
帝王は頭を下げるものの、威圧は下げない。
「ふーん……。」と言いつつ、少しだけ考えて、はっきりと言う。
「貴金属加工と医薬品に関しては無理だ。布製品だけは交渉次第では検討しよう。」
「他は何故検討をされるのですか?」
帝王の威圧はさらに増す。眉間に皺が寄っている。クリスタルはそれでも態度を崩さない。
「布製品はそちらが多く糸輸出してくれれば良いだけだ。多く生産し、少しだけ安くしても民に利益は出る。だが、貴金属と医薬品は数に限りがある。貴国も多く所有していない資源故に、輸出して欲しいのだろう? だからこそ無理だ。こちらが資源の取引先を増やさなければならなくなる。そうなると自然と値段は高くなり、民が飢える。そうなるのであれば、最初から値段は下げない。」
クリスタルの意見に、帝王も怯まない。
「それを調節するのが『国王』ではございませんか?」
「無暗に取引先を開拓するのは、愚策だろう?」
二人の圧は止まらない。帝王の後ろの控えは冷や汗を流している。
「布製品につきましては、こちらから糸の原料を多く輸出しましょう。その代わりに他の製品の値段の見直しをして下さい。」
「布製品に関しては下げよう。他は何かそれ相応の価値の物でなければ無理だ。」
「では、我が国の酪農技術はどうでしょうか?」
「それは先約が居るし、そちらよりも安価で確かな技術を持つ。必要が無い。」
「光魔法の運用技術はどうでしょうか?」
「俺自身で開発できる。必要が無い。」
「では、」
「食料関連、機械技術関連、魔法開発及び運用、軍事関連、交通機関の魔力管理、建築関連、どれも必要はない。この国でどれも解決できるものだ。必要な技術は俺や優秀な側近が開発する。技術『は』必要ない。」
クリスタルの取り付く島もない態度に、いよいよ帝王は最終手段を提案する。
「……では、金鉱石の輸出量の増加でいかがでしょうか?」
クリスタルはニヤリと笑う。
「いいだろう。それで貴金属加工品と医薬品は多少価格を考慮し、再度交渉の場を設けよう。では契約書を作ろうか。」
ようやく決まった交渉に、付き人は冷や汗を拭う。ルーグが契約書とサイン用のペンをテーブルに置き、契約書を互いに確認しサインをする。
「では、確かに。」
「ははっ、相変わらず手厳しい方だ。」
「俺はそういう奴だ。知っているだろう?」
結局、クリスタルの狙い通りに契約は進んだ。
__________
執務室に戻り、クリスタルは椅子に座って契約書を仕舞う。ルーグはその間、ハーブティーを入れながら話しかける。
「お前も意地の悪い契約するよな。アゼミア大帝国の経済事情と資源の事狙って、金鉱石取引させただろ。」
「当たり前だ。何年とかけて『俺がそうさせた』からな。」
クリスタルの交渉は、年月をかけて下準備をするものだ。アゼミア大帝国に関しては、光魔法の技術と酪農、そして貴金属鉱石がメインの交渉材料である。特に貴金属は、クリスタルの国でも加工して輸出したい物でもある。アゼミア大帝国の貴金属を狙うために、何年もかけてアゼミア大帝国の貴金属加工相手を自国頼りにし、この様な取引をしている。今やアゼミア大帝国の貴金属加工品の殆どが、クリスタルの国の製品である。それ故に今回金鉱石を出してまで、加工品の値段を下げたかったのであろう。
「まぁ、相手の狙いは最初から分かりやすいから、交渉進めるのは早く済んで何よりだ。医薬品の値下げは意外だったが。」
ルーグは入れたてのハーブティーをクリスタルの前に出す。蜂蜜も添える。クリスタルは蜂蜜を少しだけ入れて、啜る。ルーグは資料を持ち出し、クリスタルに報告をする。
「今上がってきた調べでは、今アゼミア大帝国に病が発生しているそうだ。その関係で医薬品が足りないらしい。新薬を開発する程の病ではないが、消毒が必須となるし鎮痛剤も足りないとか。だから交渉に出したのかもな。」
それを聞き、クリスタルは腕を組んで少々考える。
「ふむ……。それなら医薬品は大人しく大量生産のちに少しだけ値下げしよう。ベクトレイアと戦争になりそうになった場合、貴金属加工品は相手の輸出量を見て金額を考えよう。」
「その方がいいだろうな。医薬品については、戦争になった場合でも足りる量を確保できるなら、俺は文句はない。貴金属加工品については、安い物に関してはちょっと低めでもいいかもしれないな。相手国の国民に恩を売る意味で。」
「なるほど。民間受けには多少は値段を下げるか。」
二人は暫く休憩した後、次の交渉に臨む。各国の交渉ラッシュは、まだまだ続く。
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