Crystal Asiro【クリスタルアシロ】

wiz

文字の大きさ
上 下
31 / 59
SS 『とある世界』での旅

『食事』を知った世界

しおりを挟む
「何だか不思議だ! これは確かに何とも言葉にし難いものだ! 水や『カプセル』なんか目じゃない!」

「だろ? それが『旨味』ってやつだ。」

 食べられる野草とキノコを探し、焚火で料理したものを男性に振舞う。味付けは手持ちの調味料のみだが、どうやら男性は気に入ったようだ。

「はぁ~。なんだか腹が重たいな。だが悪い気はしないな!」

「それが『腹が満たされる』『腹が膨れる』って感覚だな。食べ過ぎないようにしないと苦しくなるが、程々ならいい気がするんだよ。」

 「こりゃいいな! 俺も『食事』してみようかな……。」

 初めての感覚にぼんやりとする男性に、ルーグはアドバイスと忠告をする。

「さっき俺がやったみたいに『調理』をして『料理』を作って、『食事』をしてみて下さい。最初は面倒ですが、慣れれば『食事』が楽しみになりますよ。」

「そうしようかな……。これは止められないかもしれないなぁ……。」

「ですが、食料は限りがありますし、そもそも食べると危険なモノがあったりしますので、それはお気をつけて。」

「そうだな、だが暫くは『食事』はやりたいなぁ……。」

 どうやら忠告はあまり男性の頭に入っていないようだ。まだぼんやりと『腹が膨れる』感覚を味わっている男性を見て、二人はその場を離れることにした。

「さて、そろそろお暇しよう。おじさん、『カプセル』ありがとな。」

 クリスタルとルーグは男性と別れ、また旅を続ける。男性は二人を見送り、そしてまた『食事』の余韻に浸っていた。

  __________

「最近『飲食店が出てきて』ないか?」

 クリスタルとルーグは旅を続けて数週間、今までなかった『飲食店』が現れ始めていた。『食事屋』という名前で現れたソレは、何処も繁盛している。

「『食事』を体験できる所だよ! 寄ってみてくれ!!」

「『カプセル』にも飲み物にも無い、不思議な『旨味』というモノを堪能できるぞ!」

 二人は顔を見合わせる。

「どういう事だ? クリスタル、『空間操作』して状況を見られるか?」

「お前も『時間操作』で見てくれ。どうしてこうなったのかを。」

 二人はそれぞれの能力を使い、状況を把握する事に努める。探していけば、ある人物が見つかった。

「これは……、俺達が『食事』を教えた男性が皆に『食事』を教えている。」

「俺もこのままじゃ『人間の数が減る』のがわかった。食料を増やす手段を知らないのに飯食ってたら、食料不足になって飢える人が出る。これは、俺達がどうにかすべきか?」

 悩むクリスタルとルーグ。少し知識を教えただけで、ここまでの影響が出た。『食事』を教えた者として、どうにか手を加えて修正をするか。世界を旅する者として、手を加えずにそのままにするか。その判断はかなり際どく、難しい。

「出来る範囲の事はすべきだろう。食べ物の生産元に生産方法を入れ知恵しよう。それで様子を見てみるか。」

「わかった。まずは野菜の生産元に種の育て方を教えよう。」

  __________

 生産元に種を持って行き、「食料が増やせる」と言い教えて歩く二人。しかし、何処も反応は一緒だ。

「数か月も増やすのにかかるのか? それならそこら辺から取った方がいい。」

「そんな手間かけられるか!」

「その辺にあるものを、どうして金をかけなきゃダメなんだ!?」

 そして猟師にも酪農を教えるも、やはり同じ反応である。

「その辺にいる生き物だぞ? 増やす必要はないだろ!」

「勝手に増えるものを飼育する手間が面倒だ。」

「そんな事やるなら、上手い狩りの方法教えろ!」

 そんな反応ばかりで、取り付く島もない。二人は国を出て、しばらく旅をしつつ相談する。

「何処もダメだな。手間と金を見てばかりだ。これはどうする?」

「この世界の住人が『このままじゃダメだ』って気づいて、生産を始めないとな。『食事を教えた旅人』として、やれるだけはやったさ。後は『何でも屋として仕事』範囲の仕事になる。それには依頼が来ないとな。」

「暫くは依頼が来るか様子見しないか? 誰か気づくかも。」

 クリスタルとルーグは、仕方なく旅を続けて様子を見る事にした。辺りから聞こえる動物の声は、最初来た時よりも格段に減っていた。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

P.I.G. VS M.E.

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

死から始まる異世界冒険譚。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:17

宰相夫人の異世界転移〜息子と一緒に冒険しますわ〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:2,038

君が笑うまで。〜婚約者を裏切った僕は猫になって彼女につくす

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:48

平行世界

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

処理中です...