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SS 『とある世界』での旅
『食事』を無くした世界
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クリスタルとルーグがこの世界の人々に、食料の生産を広めることを諦めて暫くして。旅の道中で休んでいた二人の元に、見覚えのある人物がやってきた。
「ここに居たか! 異世界の旅のお二人さん!!」
やってきたのは、かつて二人が『食事』を教えた中年男性。二人を見て男性は慌てた様子で駆け寄る。
「お前達! 食料が無いんだ! どうしたらいいんだァ!?」
「やっぱりこうなったか。」
「散々俺達は食料の生産元に忠告しましたよ。『このままじゃ食料が無くなるから増やせ』って。それに、貴方にも『食料には限りがある』とアドバイスをしました。」
クリスタルは呆れ、ルーグは自分たちの行動を説明をする。だが、男性はそれでも口調を強めて責め立てる。
「だが食料は増やせてないだろ!? 責任取れッ!!」
クリスタルは何処か呆れつつ、それでも責任を感じたのだろう。『依頼』の提案をする。
「俺達は『食事を広めた者』として出来る範囲の事はした。これ以降の問題は『食糧問題を解決して欲しい旨』を、俺達に『依頼』してくれ。それで『食糧問題』はどうにかしてやろう。」
ぶっきらぼうに言うクリスタル。その横で冷たい眼で男性を見るルーグ。忠告をしても聞き流し、自分たちの責任の範疇の事をしても無視し、それでも尚自分達を責め立てる男性に二人は呆れていた。それに男性は気づく様子も無く、自分の要望を叶えたくて仕方がないらしい。
「『依頼』? それでこの問題を解決できるのか? それならさっさとやってくれ!!」
「じゃあこの『依頼書』にサインを。今回は俺達の責任もあるから対価は無いが、『依頼』後は自分たちでどうにかしてくれ。」
「わかった! じゃあ書かせてもらうか。」
男性は急ぎペンで名前を書く。それをルーグは受け取り確認し、「確かに。」とその契約書の写しを渡す。
「じゃあこれから作業に取り掛かる。暫くすれば、食糧問題は解決する。」
「本当だな? また俺は『食事』が出来るんだな?」
「そう契約しましたので。では自分たちは作業に取り掛かるので、これで。」
足早に男性と別れ、二人は誰もいない場所で依頼解決について相談する。
「さて、問題の解決だが、お前の案はあるか?」
「あるさ。だって『食料問題の解決』が『彼らの対価』だ。お前が考える事って、俺が考える事と似てるからな。違うところはちゃんと話すけどよ。」
「お前がそういう奴だから、側近にしてるんだがな。お前以外、俺に誰も意見言わないからな。さて、『世界の法則』を弄ってやるか。」
クリスタルは魔法式をメモに書きだす。『食糧問題の解決策』を、魔法式にしたためる。出来上がった魔法を発動させれば、『依頼完了』である。
そして、この世界の『食糧問題』は解決された。
__________
朝、人々は目が覚める。だが、最近感じていた感覚が無い。
「何も食事してないのに、お腹が『満たされている』。」
「いつもなら『腹が満たされていない』はずなのに、何故か『満たされている』。」
人々は混乱する。『腹が満たされていない感覚』がない事に。
「今日は食事はしなくてもいいな。」
「明日は腹が満たされていないだろうから、明日食事しよう。」
だが、来る日も来る日も、『腹が満たされない感覚』はやって来ない。そのうち、人々はある『欲』が満たされない事に気が付く。
『旨い物が食べたい』
一度味を占めた欲は、止まるところを知らない。人々は、『食事』を求めた。もう『カプセル』での栄養補給なんて要らない。ただ、『旨い物』を求め、さまよう。
そして。
__________
クリスタルとルーグが次の別世界に着いた頃、とある話が流れてきた。
「あの世界、人が何でも食うようになったらしいぞ。」
「前は錠剤だけで生活出来てたのに、なんで今更?」
「どうやら、『旨い物が食べたい』と言ってるそうだ。そのためには、文字通り『何でも』食うらしい。」
「野蛮ねぇ。どうしたのかしら?」
バーで一杯引っかけてる二人に、そんな会話が聞こえてくる。
「結局、あの世界はダメだったか。」
「生きていくためには、あの段階では俺達は『食事を取らないといけなかった』。それに出来る範囲で食料の生産を説き、最後は『空腹感』を無くして『食事をしなくても生きる事が出来る』ようにした。それでこの結果なら、どうしようもない。」
クリスタルはウォッカをロックで、ルーグはジントニックを飲む。
「『世界管理』としては、これはセーフなのか?『世界の存続が大前提』で任務を行うのに、生き物が食べつくされて、今は飢えた人間しかいないだろ?」
ルーグがそう言い、店員を呼んで注文をする。その横でクリスタルがグラスの縁を指でなぞる。
「必ずしも世界の存続に『人間は含まれる訳ではない』。『どれだけの魂・魔力が世界にあるか』が大事だ。あの世界には食べ物にはならないものの、まだ命が沢山生きている。人間が滅んだ後で、また再生されるから問題ない。」
グラスのウォッカを空け、クリスタルも注文を頼む。店員が下がる。
「それ故に世界の存続は守られるからいい、という訳だな。俺も世界が今後どうなるかを『記録で見た』が、遅かれ早かれ他所の誰かが『食事』を教えていたのがわかった。」
「お前のその能力、便利だよな。『世界が本来どういった流れで始まり、終わるか』がわかるヤツ。」
「『記録』の検索はめちゃくちゃ大変だがな。まぁ、それは慣れだな。『お前の眼と一緒で』。」
「だな。これは慣れだからな。」
そうこう話していると、店に業者が来る。笑顔で対応に出る店主。
「毎度ご贔屓に、『肉のトン屋』です! ご注文をお届けしましたので、サインをお願いします!」
「こちらこそ、毎回ありがとうございます! お宅のお肉が一番安心して提供できますので、助かります。」
「そう言って頂き、こちらも嬉しいです! 今後も安心安全なお肉を生産してお届けします!」
「お願いします! うちも頑張りますので、お互い頑張りましょう!」
互いを認め信頼し、商売をしている者同士の会話だ。先の世界では聞けなかった会話だ。話をぼんやりと聞いているうちに、注文の品が来る。ポークステーキにとラブサンド、ブドウ酒が2つ。焼けた肉の香りが強く漂う。
「お前、またパンかよ! 毎度毎度パンばっかり食いやがって!」
「お前だってまた肉じゃん!」
「だって肉は旨いもん!」
「パンだって旨いだろうが!」
そう言い合いつつ、二人は食事をする。
「「今日も飯が旨い。」」
「ここに居たか! 異世界の旅のお二人さん!!」
やってきたのは、かつて二人が『食事』を教えた中年男性。二人を見て男性は慌てた様子で駆け寄る。
「お前達! 食料が無いんだ! どうしたらいいんだァ!?」
「やっぱりこうなったか。」
「散々俺達は食料の生産元に忠告しましたよ。『このままじゃ食料が無くなるから増やせ』って。それに、貴方にも『食料には限りがある』とアドバイスをしました。」
クリスタルは呆れ、ルーグは自分たちの行動を説明をする。だが、男性はそれでも口調を強めて責め立てる。
「だが食料は増やせてないだろ!? 責任取れッ!!」
クリスタルは何処か呆れつつ、それでも責任を感じたのだろう。『依頼』の提案をする。
「俺達は『食事を広めた者』として出来る範囲の事はした。これ以降の問題は『食糧問題を解決して欲しい旨』を、俺達に『依頼』してくれ。それで『食糧問題』はどうにかしてやろう。」
ぶっきらぼうに言うクリスタル。その横で冷たい眼で男性を見るルーグ。忠告をしても聞き流し、自分たちの責任の範疇の事をしても無視し、それでも尚自分達を責め立てる男性に二人は呆れていた。それに男性は気づく様子も無く、自分の要望を叶えたくて仕方がないらしい。
「『依頼』? それでこの問題を解決できるのか? それならさっさとやってくれ!!」
「じゃあこの『依頼書』にサインを。今回は俺達の責任もあるから対価は無いが、『依頼』後は自分たちでどうにかしてくれ。」
「わかった! じゃあ書かせてもらうか。」
男性は急ぎペンで名前を書く。それをルーグは受け取り確認し、「確かに。」とその契約書の写しを渡す。
「じゃあこれから作業に取り掛かる。暫くすれば、食糧問題は解決する。」
「本当だな? また俺は『食事』が出来るんだな?」
「そう契約しましたので。では自分たちは作業に取り掛かるので、これで。」
足早に男性と別れ、二人は誰もいない場所で依頼解決について相談する。
「さて、問題の解決だが、お前の案はあるか?」
「あるさ。だって『食料問題の解決』が『彼らの対価』だ。お前が考える事って、俺が考える事と似てるからな。違うところはちゃんと話すけどよ。」
「お前がそういう奴だから、側近にしてるんだがな。お前以外、俺に誰も意見言わないからな。さて、『世界の法則』を弄ってやるか。」
クリスタルは魔法式をメモに書きだす。『食糧問題の解決策』を、魔法式にしたためる。出来上がった魔法を発動させれば、『依頼完了』である。
そして、この世界の『食糧問題』は解決された。
__________
朝、人々は目が覚める。だが、最近感じていた感覚が無い。
「何も食事してないのに、お腹が『満たされている』。」
「いつもなら『腹が満たされていない』はずなのに、何故か『満たされている』。」
人々は混乱する。『腹が満たされていない感覚』がない事に。
「今日は食事はしなくてもいいな。」
「明日は腹が満たされていないだろうから、明日食事しよう。」
だが、来る日も来る日も、『腹が満たされない感覚』はやって来ない。そのうち、人々はある『欲』が満たされない事に気が付く。
『旨い物が食べたい』
一度味を占めた欲は、止まるところを知らない。人々は、『食事』を求めた。もう『カプセル』での栄養補給なんて要らない。ただ、『旨い物』を求め、さまよう。
そして。
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クリスタルとルーグが次の別世界に着いた頃、とある話が流れてきた。
「あの世界、人が何でも食うようになったらしいぞ。」
「前は錠剤だけで生活出来てたのに、なんで今更?」
「どうやら、『旨い物が食べたい』と言ってるそうだ。そのためには、文字通り『何でも』食うらしい。」
「野蛮ねぇ。どうしたのかしら?」
バーで一杯引っかけてる二人に、そんな会話が聞こえてくる。
「結局、あの世界はダメだったか。」
「生きていくためには、あの段階では俺達は『食事を取らないといけなかった』。それに出来る範囲で食料の生産を説き、最後は『空腹感』を無くして『食事をしなくても生きる事が出来る』ようにした。それでこの結果なら、どうしようもない。」
クリスタルはウォッカをロックで、ルーグはジントニックを飲む。
「『世界管理』としては、これはセーフなのか?『世界の存続が大前提』で任務を行うのに、生き物が食べつくされて、今は飢えた人間しかいないだろ?」
ルーグがそう言い、店員を呼んで注文をする。その横でクリスタルがグラスの縁を指でなぞる。
「必ずしも世界の存続に『人間は含まれる訳ではない』。『どれだけの魂・魔力が世界にあるか』が大事だ。あの世界には食べ物にはならないものの、まだ命が沢山生きている。人間が滅んだ後で、また再生されるから問題ない。」
グラスのウォッカを空け、クリスタルも注文を頼む。店員が下がる。
「それ故に世界の存続は守られるからいい、という訳だな。俺も世界が今後どうなるかを『記録で見た』が、遅かれ早かれ他所の誰かが『食事』を教えていたのがわかった。」
「お前のその能力、便利だよな。『世界が本来どういった流れで始まり、終わるか』がわかるヤツ。」
「『記録』の検索はめちゃくちゃ大変だがな。まぁ、それは慣れだな。『お前の眼と一緒で』。」
「だな。これは慣れだからな。」
そうこう話していると、店に業者が来る。笑顔で対応に出る店主。
「毎度ご贔屓に、『肉のトン屋』です! ご注文をお届けしましたので、サインをお願いします!」
「こちらこそ、毎回ありがとうございます! お宅のお肉が一番安心して提供できますので、助かります。」
「そう言って頂き、こちらも嬉しいです! 今後も安心安全なお肉を生産してお届けします!」
「お願いします! うちも頑張りますので、お互い頑張りましょう!」
互いを認め信頼し、商売をしている者同士の会話だ。先の世界では聞けなかった会話だ。話をぼんやりと聞いているうちに、注文の品が来る。ポークステーキにとラブサンド、ブドウ酒が2つ。焼けた肉の香りが強く漂う。
「お前、またパンかよ! 毎度毎度パンばっかり食いやがって!」
「お前だってまた肉じゃん!」
「だって肉は旨いもん!」
「パンだって旨いだろうが!」
そう言い合いつつ、二人は食事をする。
「「今日も飯が旨い。」」
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