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Side Story1.敦也side ~始まりの日~
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新しい春が来て、俺は鳳沢学園高校に入学し、高校生になった。
俺がここに来た理由。それは、憧れの人が作ったeスポーツ部に入るため。
そのために、親を説得して中三の夏から必死に勉強して、約束だった奨学生枠で入学した。
新しい友達もできて、念願だったeスポーツ部にも入部して、高校生活はいいスタートが切れたと思う。
今日も部活を終えて、緑の葉っぱが茂り始めた桜の木の間を自転車で走り抜ける。ところが、学校と家のちょうど中間地点辺りで、スマホを持っていないことに気が付いた。
部室に置いてきたかな……。
少しだけ悩んで、自転車を学校の方角へ向け直した。
俺が学校を出たのは八時前。
だからきっと今は八時少し過ぎたくらい。きっと部長の緒方さんはまだいるはずだ。
そう思って、自電車のペダルをグッと踏み込んだ。
eスポーツ部の部室は体育館を通り抜けた先にある旧校舎の一階、視聴覚室だ。
まだ明かりのついている体育館を通り過ぎると、視聴覚室にうすぼんやりと明かりが灯っているのが見えた。
その様子に俺は少し違和感を覚えながら旧校舎に入り、視聴覚室のドアに手を掛ける。ところが、開く前に中から何やら話す声が聞こえ、その手を止めた。
「ゴムしないなら、シないって言ってるだろ」
「いいだろ、別に妊娠するわけでもないし」
「そういう問題じゃないって」
「遊んでる割りには変なところにこだわるんだな」
「そう思うんならもう帰って。別に僕はあんたじゃなくてもいいから」
言い争うような二人の男の声。一人は聞き覚えがない声だが、もう一人の声には聞き覚えがある。
俺はすっと体が冷えていくのがわかった。
そして、そのまま視聴覚室のドアを勢いよく開けた。
「えっ?!」
部屋の中にいたのは、部長である緒方と、見知らぬ男。二人は驚いた顔でこちらを見た。
俺はそんな二人に、あえてにっこりと笑って見せる。
「お取込み中、すいませんね。スマホ忘れちゃって」
俺の顔を見た緒方はハァとため息をつき、もう一人の男は舌打ちをして部屋を出て行った。
俺はそんな二人を無視して、部活中に座っていた椅子を覗き込むと、床に落ちているスマホを見つけた。
「スマホ、あった?」
はだけていた服を整えた緒方は何事もなかったように話しかけてきたが、ふと教室の中を見回して俺はさっきの違和感の正体に気が付いた。
「ありました。邪魔しちゃったみたいですいませんね。カーテンなんて閉めて、もしかしていつもここであぁいうことしてるんですか」
俺はわざと意地わるげな笑顔を作って、緒方を見据えた。
さっき外から見た時の違和感。それは、いつもは開けられたままになっているカーテンが閉まっていたせいだった。外から中で何をしているか見えないようにしてた、ってわけか。
「はぁ…やっぱり聞こえてたか。でも、僕が誰と何してようと敦也には関係ないだろ」
緒方は俺から目線を逸らしながら、横に長い机の端に腰を掛けた。
「そうだね、別にあんたが誰と何をしてようが俺には関係ないし、どうでもいいよ。でも、もし今ここに来たのが俺じゃなくて、大事になってたらどうするつもりだったんだよ。eスポーツ部は瀬良さんが作った大切な場所だ。害が及ぶようなことはするな」
俺は作り笑いをやめ、緒方をギロッとにらみつけた。
瀬良は、この部の創設者で、去年までの部長。
そして、俺の憧れの人で、俺の兄貴の恋人。
eスポーツ部は、あの人の隣にはいられない俺が、“弟”としてじゃなく、唯一対等でいられる大切な場所だ。それを奪うようなことは絶対に許さない。
緒方は怒った様子の俺に少し驚いていたようだが、そのうちフッと口の片側を上げて笑った。
「なんだ、敦也も僕と同じってことか」
「俺は遊びまくったりしてないけど」
「ははっそうじゃなくて。瀬良先輩に心を奪われちゃったもの同士。そんで、絶対に自分のものにはならないことをわかってるのも一緒、違う?」
瀬良と緒方は中等部の時から付き合いがあって、eスポーツ部に最初に入部した人だと瀬良から聞いていた。
大切な後輩でとても信頼している、と瀬良は言っていた。
俺も、瀬良がそんな風に言うのなら、信頼のおける“いい人”なのだろうと思っていたし、実際、部活で接していた時は、その印象に間違いはなかった。
優等生然とした、理性的で理知的な先輩。そう思っていた。
それなのに、今目の前にいるその人は、さっき部活で話した時とは、声も、表情もそのすべてが違う人のように思える。
俺は大きくため息をついて、なぜか楽し気ににこにこと笑う緒方の前に座った。
「話挿げ替えないでよ。とにかく、ここに連れ込んで遊ぶのやめてください」
「う~ん、でもさぁここ人来ないし、ちょうどいいんだよね。家に呼ぶのとか嫌だし、外とか、ラブホとかも無理だろ? 補導されたらもっと大変だもんね。ここはダメだって言うなら、ちゃんと代替案を提案してよ」
変わらず楽しげに話す緒方に、俺は思わずイラっとする。
「なんで俺が考えないといけないんだよ。あんたの事情なんて俺には関係ない」
「冷たいな。あっそうだ、それなら敦也が相手してよ」
「は?」
突然の緒方の提案に、俺は思わず間の抜けた声が出た。
眉をひそめた俺に、緒方は変わらずにこにこと楽しげな顔を向けている。
この人は、本当に俺の知っている緒方と同一自分物なのか、もしかして宇宙人じゃないのかとまで思えてきた。
「ここに連れ込まれるのが嫌なんだろ? でも、ここ以上にいい場所はないし、僕はセックスがしたい。なら、ここで敦也が相手してくれれば万事解決だ」
全然解決していないし、どう考えてもそういう問題ではないことはわかっているだろうから、この人はきっと俺をからかっているのだろう。
ずっとふざけたような態度の緒方に、俺のイライラはピークに達しそうだった。
「でもまぁ無理か。かわいい弟くんにはそんなことできっこないよね」
緒方の『弟』という言葉に、俺の中の何かがプツンと切れた。
「わかった」
そう言って俺はおもむろに緒方を机に押し倒した。
上から見下ろした緒方は、驚いて色素の薄い瞳をまん丸にして眼鏡越しに俺を見ていた。
「相手してやるよ。さすがに男とはやったことないけど、要領は一緒でしょ? まぁその前に勃つかどうかわかんないけど、そのへんは頑張ってくれるんだよね、センパイ」
俺は緒方の眼鏡を取り、そのまま唇にキスをした。
視聴覚室に荒い息づかいと、お互いの繊細なところがこすれ合う、ぬめりを帯びた音が響くなか、緒方は俺のシャツの袖をぎゅっと握りながら、息も絶え絶えにかすれた声を上げていた。
「あっ、まって……! あつや、あぁっ……!」
緒方は俺の“もの”を口で勃たさせるところまでは余裕のある様子を見せていた。
でも、それを緒方の中に挿れ、俺が良いところを探しながら少しずつじわじわと攻めた立てると、気づいたときには体を震わせ、その瞳には涙が浮かんでいた。
「あれ、今イった? もしかして出さずにイっちゃったの? すげぇ、男でもそんなことできるんだ」
「し、しらない…っ、こんな風に、なったことないっ! んぁあっ!」
俺ははだけたシャツの隙間からツンと上を向く乳首を指でギュッとつまみながら、打ち付けた腰で緒方の奥をグリグリと押す。
緒方はすでに何度か吐き出した精液でドロドロになった体をよじらせ、涙の混ざる声を上げた。
「やっ! いまイッたばっか……っ! むりだってぇ」
「もうギブアップ? 俺まだ一回もイってないんだけど。そっちから言い出したくせに、先にへばらないでよ」
俺は緒方の体を裏返し、今度は後ろからガンガンと腰を打ち付ける。自分でもこんな風に激しく責め立てるような性癖があるなんて知らなかった。
それから、男の中がこんなにも気持ちがいいって言うことも。
まだ何とか余裕そうなふりをして堪えているけど、少しでも気を抜いたらアッという間にイッてしまいそうだ。
「あぅ、あっあつや、ホントにもうムリっ……あるけなくなからぁ」
「あっそういうもんなの? じゃーそろそろおしまいにしようかな。時間もあれだし、帰れなくなると困るし」
教室の中にある時計をチラリと見ると、すでに九時を回っていた。
旧校舎の利用は一応九時までと決まっているから、遅くなると教師が見回りに来てしまうかもしれない。
俺もそろそろ限界だし、終わりにするのはいいけど、せっかくここまでしたんだから言質だけはちゃんと取っておかないと、そう思って俺は律動を緩めた。
「でもその前に、ちゃんと約束してよ?」
「んあぁ、はぁ…、や、やくそく? ひうぅっ」
俺は緒方の一番奥に俺の物を押し付けたまま動くのをやめ、その耳元にわざと唇をかすらせながら囁いた。
「もう、ここには誰も連れ込まないって」
緒方は俺の声に体をびくつかせ、その衝撃で俺が入り込んでいる中もキュウキュウとすぼまった。
「あっあぁ、やくそく、んあっ、するからぁっっ」
その必死な声に、俺はなぜか欲望が満たされたような気がした。
ゴクリとつばを呑み込み、目の前で息を荒げながらぐったりとうつ伏せになっている緒方の背をゆっくりと撫でた。それにまた緒方はビクビクと体を震わせる。
「うん、約束したからね。じゃあ、あとはおれがイくまであともうちょっとがんばって」
「う、うそ、むりっ、あっあぁっ!」
俺は何回か緒方に腰を打ち付け、中で果てた。
正直、こんなにも気持ちがいいセックスは初めてだった。
これはきっとヤバイやつ。はまっちゃいそう。
緒方の中から出て体を離すと、緒方はそのまま床に崩れ落ちるようにペタッと座り込んだ。
「聞いてた話と違うぅ……」
「なにが?」
俺は自分の服を整え、机の脚にもたれながらぐったりと座り込む緒方の前に屈み、持っていたタオルで体を拭う。
ちょっとやりすぎたかな、とも思ったけど、俺はまだまだ全然できるしな。男同士の“挿れられる方”はやっぱり大変なんだろうか。そんなことを思いながら、緒方のシャツのボタンを閉めた。
「瀬良先輩が敦也は“かわいい弟だ”って言ってたのに、セックスの仕方が全然かわいくない」
「あははっ、そりゃ瀬良さんから見たら俺は“弟”でしかないけど、緒方さんの前でまで“かわいい弟”する必要ないからね」
瀬良の話をしたら、ふとさっき緒方が言っていたことを思い出した。
緒方が俺のこと『同じだ』と言っていた話。
「そういえば、緒方さんは瀬良さんが好きだったの?」
そう問いかけると、緒方はまだだるそうにズボンに足を通しながら、俺の方に顔だけ向けて不機嫌そうな声で答えた。
「好きだけど、別にどうこうしたいと思ったことはないよ」
「なんで?」
俺は出会った時からもう瀬良は“兄貴の恋人”で、瀬良の隣にいるのは俺じゃないってわかってた。でも、緒方は違う。兄貴よりも先に出会ってるし、親しさで言えば緒方の方が上だったはずだ。それなのに、「好きだ」という自覚がありながら、何の行動も起こさなかったことに少しだけ疑問を覚えた。
「簡単な話だよ。瀬良先輩と俺とじゃセックスできない。ポジションが同じだからね」
俺はその答えに、絵に描いたように顔を固まらせる
ポジション……? つまり、二人とも“挿れられる方”だから、無理ってこと……?
別にどっちでもやろうと思えばできる気がするけど……そういうものでもないのか?
未知の世界に俺の思考は全くついてこなかった。
「ハハッ、面白い顔! まぁそう言う理由もなくはないけど、そもそも瀬良先輩とはそういうことをしたいと思ったことがないんだよね。そういう次元じゃないんだよ、あの人は」
「あぁそれは何かわかるかも。ってかそろそろ帰らないと。立てます?」
「立てないよ! もう、こんなになったの初めてだよ……」
これまでしっかりと付けていた『優等生』の仮面はどこへやったのか、さっきからもう取り繕う様子もなく、拗ねたように不満を口にする緒方がなんだかかわいらしく見えて、俺は思わず吹き出してしまった。
「……なんで笑ってんの。性格わるっ」
「緒方さんかわいいなと思って」
「はっ?」
あからさまに嫌そうな顔をする緒方の腕を引き、俺はその唇にキスをした。
それに驚いた緒方の顔がまたかわいくて、俺の口角が自然と上がっていく。
「でも、よかったでしょ? 俺とのセックス」
緒方の顔を覗き込みながら少しいたずらっぽく言うと、緒方は見る見るうちにその顔を赤くして、俺の顔を両手で押し返した。
俺はその掌を掴んでぺろりと舐めて、また緒方に笑顔を向けた。
「ちゃんと約束守ってよ、センパイ。そしたら、いつでも相手してあげる」
そう言うと、緒方は真っ赤な顔でわなわなと唇を震わせて、俺の肩に力のこもっていないパンチをした。
ホントかわいいな、この人。
高校生活の楽しみがまた一つ増えたかも、と思いながらその顔を見つめた。
こうして俺たちの名前のない関係は始まった。
俺がここに来た理由。それは、憧れの人が作ったeスポーツ部に入るため。
そのために、親を説得して中三の夏から必死に勉強して、約束だった奨学生枠で入学した。
新しい友達もできて、念願だったeスポーツ部にも入部して、高校生活はいいスタートが切れたと思う。
今日も部活を終えて、緑の葉っぱが茂り始めた桜の木の間を自転車で走り抜ける。ところが、学校と家のちょうど中間地点辺りで、スマホを持っていないことに気が付いた。
部室に置いてきたかな……。
少しだけ悩んで、自転車を学校の方角へ向け直した。
俺が学校を出たのは八時前。
だからきっと今は八時少し過ぎたくらい。きっと部長の緒方さんはまだいるはずだ。
そう思って、自電車のペダルをグッと踏み込んだ。
eスポーツ部の部室は体育館を通り抜けた先にある旧校舎の一階、視聴覚室だ。
まだ明かりのついている体育館を通り過ぎると、視聴覚室にうすぼんやりと明かりが灯っているのが見えた。
その様子に俺は少し違和感を覚えながら旧校舎に入り、視聴覚室のドアに手を掛ける。ところが、開く前に中から何やら話す声が聞こえ、その手を止めた。
「ゴムしないなら、シないって言ってるだろ」
「いいだろ、別に妊娠するわけでもないし」
「そういう問題じゃないって」
「遊んでる割りには変なところにこだわるんだな」
「そう思うんならもう帰って。別に僕はあんたじゃなくてもいいから」
言い争うような二人の男の声。一人は聞き覚えがない声だが、もう一人の声には聞き覚えがある。
俺はすっと体が冷えていくのがわかった。
そして、そのまま視聴覚室のドアを勢いよく開けた。
「えっ?!」
部屋の中にいたのは、部長である緒方と、見知らぬ男。二人は驚いた顔でこちらを見た。
俺はそんな二人に、あえてにっこりと笑って見せる。
「お取込み中、すいませんね。スマホ忘れちゃって」
俺の顔を見た緒方はハァとため息をつき、もう一人の男は舌打ちをして部屋を出て行った。
俺はそんな二人を無視して、部活中に座っていた椅子を覗き込むと、床に落ちているスマホを見つけた。
「スマホ、あった?」
はだけていた服を整えた緒方は何事もなかったように話しかけてきたが、ふと教室の中を見回して俺はさっきの違和感の正体に気が付いた。
「ありました。邪魔しちゃったみたいですいませんね。カーテンなんて閉めて、もしかしていつもここであぁいうことしてるんですか」
俺はわざと意地わるげな笑顔を作って、緒方を見据えた。
さっき外から見た時の違和感。それは、いつもは開けられたままになっているカーテンが閉まっていたせいだった。外から中で何をしているか見えないようにしてた、ってわけか。
「はぁ…やっぱり聞こえてたか。でも、僕が誰と何してようと敦也には関係ないだろ」
緒方は俺から目線を逸らしながら、横に長い机の端に腰を掛けた。
「そうだね、別にあんたが誰と何をしてようが俺には関係ないし、どうでもいいよ。でも、もし今ここに来たのが俺じゃなくて、大事になってたらどうするつもりだったんだよ。eスポーツ部は瀬良さんが作った大切な場所だ。害が及ぶようなことはするな」
俺は作り笑いをやめ、緒方をギロッとにらみつけた。
瀬良は、この部の創設者で、去年までの部長。
そして、俺の憧れの人で、俺の兄貴の恋人。
eスポーツ部は、あの人の隣にはいられない俺が、“弟”としてじゃなく、唯一対等でいられる大切な場所だ。それを奪うようなことは絶対に許さない。
緒方は怒った様子の俺に少し驚いていたようだが、そのうちフッと口の片側を上げて笑った。
「なんだ、敦也も僕と同じってことか」
「俺は遊びまくったりしてないけど」
「ははっそうじゃなくて。瀬良先輩に心を奪われちゃったもの同士。そんで、絶対に自分のものにはならないことをわかってるのも一緒、違う?」
瀬良と緒方は中等部の時から付き合いがあって、eスポーツ部に最初に入部した人だと瀬良から聞いていた。
大切な後輩でとても信頼している、と瀬良は言っていた。
俺も、瀬良がそんな風に言うのなら、信頼のおける“いい人”なのだろうと思っていたし、実際、部活で接していた時は、その印象に間違いはなかった。
優等生然とした、理性的で理知的な先輩。そう思っていた。
それなのに、今目の前にいるその人は、さっき部活で話した時とは、声も、表情もそのすべてが違う人のように思える。
俺は大きくため息をついて、なぜか楽し気ににこにこと笑う緒方の前に座った。
「話挿げ替えないでよ。とにかく、ここに連れ込んで遊ぶのやめてください」
「う~ん、でもさぁここ人来ないし、ちょうどいいんだよね。家に呼ぶのとか嫌だし、外とか、ラブホとかも無理だろ? 補導されたらもっと大変だもんね。ここはダメだって言うなら、ちゃんと代替案を提案してよ」
変わらず楽しげに話す緒方に、俺は思わずイラっとする。
「なんで俺が考えないといけないんだよ。あんたの事情なんて俺には関係ない」
「冷たいな。あっそうだ、それなら敦也が相手してよ」
「は?」
突然の緒方の提案に、俺は思わず間の抜けた声が出た。
眉をひそめた俺に、緒方は変わらずにこにこと楽しげな顔を向けている。
この人は、本当に俺の知っている緒方と同一自分物なのか、もしかして宇宙人じゃないのかとまで思えてきた。
「ここに連れ込まれるのが嫌なんだろ? でも、ここ以上にいい場所はないし、僕はセックスがしたい。なら、ここで敦也が相手してくれれば万事解決だ」
全然解決していないし、どう考えてもそういう問題ではないことはわかっているだろうから、この人はきっと俺をからかっているのだろう。
ずっとふざけたような態度の緒方に、俺のイライラはピークに達しそうだった。
「でもまぁ無理か。かわいい弟くんにはそんなことできっこないよね」
緒方の『弟』という言葉に、俺の中の何かがプツンと切れた。
「わかった」
そう言って俺はおもむろに緒方を机に押し倒した。
上から見下ろした緒方は、驚いて色素の薄い瞳をまん丸にして眼鏡越しに俺を見ていた。
「相手してやるよ。さすがに男とはやったことないけど、要領は一緒でしょ? まぁその前に勃つかどうかわかんないけど、そのへんは頑張ってくれるんだよね、センパイ」
俺は緒方の眼鏡を取り、そのまま唇にキスをした。
視聴覚室に荒い息づかいと、お互いの繊細なところがこすれ合う、ぬめりを帯びた音が響くなか、緒方は俺のシャツの袖をぎゅっと握りながら、息も絶え絶えにかすれた声を上げていた。
「あっ、まって……! あつや、あぁっ……!」
緒方は俺の“もの”を口で勃たさせるところまでは余裕のある様子を見せていた。
でも、それを緒方の中に挿れ、俺が良いところを探しながら少しずつじわじわと攻めた立てると、気づいたときには体を震わせ、その瞳には涙が浮かんでいた。
「あれ、今イった? もしかして出さずにイっちゃったの? すげぇ、男でもそんなことできるんだ」
「し、しらない…っ、こんな風に、なったことないっ! んぁあっ!」
俺ははだけたシャツの隙間からツンと上を向く乳首を指でギュッとつまみながら、打ち付けた腰で緒方の奥をグリグリと押す。
緒方はすでに何度か吐き出した精液でドロドロになった体をよじらせ、涙の混ざる声を上げた。
「やっ! いまイッたばっか……っ! むりだってぇ」
「もうギブアップ? 俺まだ一回もイってないんだけど。そっちから言い出したくせに、先にへばらないでよ」
俺は緒方の体を裏返し、今度は後ろからガンガンと腰を打ち付ける。自分でもこんな風に激しく責め立てるような性癖があるなんて知らなかった。
それから、男の中がこんなにも気持ちがいいって言うことも。
まだ何とか余裕そうなふりをして堪えているけど、少しでも気を抜いたらアッという間にイッてしまいそうだ。
「あぅ、あっあつや、ホントにもうムリっ……あるけなくなからぁ」
「あっそういうもんなの? じゃーそろそろおしまいにしようかな。時間もあれだし、帰れなくなると困るし」
教室の中にある時計をチラリと見ると、すでに九時を回っていた。
旧校舎の利用は一応九時までと決まっているから、遅くなると教師が見回りに来てしまうかもしれない。
俺もそろそろ限界だし、終わりにするのはいいけど、せっかくここまでしたんだから言質だけはちゃんと取っておかないと、そう思って俺は律動を緩めた。
「でもその前に、ちゃんと約束してよ?」
「んあぁ、はぁ…、や、やくそく? ひうぅっ」
俺は緒方の一番奥に俺の物を押し付けたまま動くのをやめ、その耳元にわざと唇をかすらせながら囁いた。
「もう、ここには誰も連れ込まないって」
緒方は俺の声に体をびくつかせ、その衝撃で俺が入り込んでいる中もキュウキュウとすぼまった。
「あっあぁ、やくそく、んあっ、するからぁっっ」
その必死な声に、俺はなぜか欲望が満たされたような気がした。
ゴクリとつばを呑み込み、目の前で息を荒げながらぐったりとうつ伏せになっている緒方の背をゆっくりと撫でた。それにまた緒方はビクビクと体を震わせる。
「うん、約束したからね。じゃあ、あとはおれがイくまであともうちょっとがんばって」
「う、うそ、むりっ、あっあぁっ!」
俺は何回か緒方に腰を打ち付け、中で果てた。
正直、こんなにも気持ちがいいセックスは初めてだった。
これはきっとヤバイやつ。はまっちゃいそう。
緒方の中から出て体を離すと、緒方はそのまま床に崩れ落ちるようにペタッと座り込んだ。
「聞いてた話と違うぅ……」
「なにが?」
俺は自分の服を整え、机の脚にもたれながらぐったりと座り込む緒方の前に屈み、持っていたタオルで体を拭う。
ちょっとやりすぎたかな、とも思ったけど、俺はまだまだ全然できるしな。男同士の“挿れられる方”はやっぱり大変なんだろうか。そんなことを思いながら、緒方のシャツのボタンを閉めた。
「瀬良先輩が敦也は“かわいい弟だ”って言ってたのに、セックスの仕方が全然かわいくない」
「あははっ、そりゃ瀬良さんから見たら俺は“弟”でしかないけど、緒方さんの前でまで“かわいい弟”する必要ないからね」
瀬良の話をしたら、ふとさっき緒方が言っていたことを思い出した。
緒方が俺のこと『同じだ』と言っていた話。
「そういえば、緒方さんは瀬良さんが好きだったの?」
そう問いかけると、緒方はまだだるそうにズボンに足を通しながら、俺の方に顔だけ向けて不機嫌そうな声で答えた。
「好きだけど、別にどうこうしたいと思ったことはないよ」
「なんで?」
俺は出会った時からもう瀬良は“兄貴の恋人”で、瀬良の隣にいるのは俺じゃないってわかってた。でも、緒方は違う。兄貴よりも先に出会ってるし、親しさで言えば緒方の方が上だったはずだ。それなのに、「好きだ」という自覚がありながら、何の行動も起こさなかったことに少しだけ疑問を覚えた。
「簡単な話だよ。瀬良先輩と俺とじゃセックスできない。ポジションが同じだからね」
俺はその答えに、絵に描いたように顔を固まらせる
ポジション……? つまり、二人とも“挿れられる方”だから、無理ってこと……?
別にどっちでもやろうと思えばできる気がするけど……そういうものでもないのか?
未知の世界に俺の思考は全くついてこなかった。
「ハハッ、面白い顔! まぁそう言う理由もなくはないけど、そもそも瀬良先輩とはそういうことをしたいと思ったことがないんだよね。そういう次元じゃないんだよ、あの人は」
「あぁそれは何かわかるかも。ってかそろそろ帰らないと。立てます?」
「立てないよ! もう、こんなになったの初めてだよ……」
これまでしっかりと付けていた『優等生』の仮面はどこへやったのか、さっきからもう取り繕う様子もなく、拗ねたように不満を口にする緒方がなんだかかわいらしく見えて、俺は思わず吹き出してしまった。
「……なんで笑ってんの。性格わるっ」
「緒方さんかわいいなと思って」
「はっ?」
あからさまに嫌そうな顔をする緒方の腕を引き、俺はその唇にキスをした。
それに驚いた緒方の顔がまたかわいくて、俺の口角が自然と上がっていく。
「でも、よかったでしょ? 俺とのセックス」
緒方の顔を覗き込みながら少しいたずらっぽく言うと、緒方は見る見るうちにその顔を赤くして、俺の顔を両手で押し返した。
俺はその掌を掴んでぺろりと舐めて、また緒方に笑顔を向けた。
「ちゃんと約束守ってよ、センパイ。そしたら、いつでも相手してあげる」
そう言うと、緒方は真っ赤な顔でわなわなと唇を震わせて、俺の肩に力のこもっていないパンチをした。
ホントかわいいな、この人。
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こうして俺たちの名前のない関係は始まった。
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