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一歩目.もっと話しがしたいです。
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昨日話をしてから、なぜか頭の中に瀬良がずっといる。だから、もう一度話がしてみたいと思ったんだ。
「緒方、ちょっといいか」
同じクラスでeスポーツ部所属の緒方 雄介。きっとこいつが昨日、瀬良の言っていた“俺のことを気にしていた” やつだ。
緒方と、緒方と話していたやつは俺が話しかけると驚いたような顔をした。まぁ同じクラスになってから一度も話しかけたことがないんだから、当然だ。
「びっくりした。どうしたの?」
「急に悪い。昨日、瀬良先輩と少し話す機会があって、お前が俺のこと気にしてたって聞いたから」
「あぁ、僕も先輩から聞いたよ。部室に行くときに結構頻繁に囲まれてるの見るからさ。ちょっと気になっちゃって」
確かに毎日ある部活の内、週に二、三回は体育館の前で何人かの先輩に囲まれて文句を言われる。あとはなぜか一年の中で俺だけ余分に外周をさせられたり、ウエイトトレーニングの時間が長かったり。あいつらからすれば嫌がらせのつもりなんだろうが、別に大したことではない。でも、他から見ればやっぱり気になるんだろうか。
「とはいっても、僕は瀬良先輩みたいに止められるわけじゃないから、何も言えないんだけど……」
「いいって。時間の無駄だなとは思うけど、本当にあんまり気にしてないんだ。まぁ外部生ってだけでも目つけられても仕方ないし、別に手出されるわけでもないしな」
鳳澤学園は中高一貫の男子校で、高等部のほとんどの生徒が付属の中等部から上がってくる。そういうやつらは内部生、それとは別に高校からこの学校に入った俺みたいなやつは、外部生と呼ばれる。
中学から関係性を築いてきたやつらの中にぽっと入ってくる外部生は、あからさまにいじめられることはなくても、やはり少し距離を置かれたり、上級生から目をつけられたりする。俺が気に入らない先輩方も、そういうことなんだろう。
でも、緒方は俺の言葉に少し困った顔をした。
「高槻は推薦で入ってるんだろ。あの人たちもただのやっかみなんだろうけど、外部生だからとかあんまり気分のいいものではないよ」
確か緒方も内部生だ。こういう風に考えてくれるクラスメイトがいるというのは少し嬉しい。
「お前、いいやつだな」
そう言うと、緒方は少し照れたような顔でメガネを人差し指でくいっと上げた。
「そういえば、瀬良先輩がうちの部活に遊びにおいでって言ってたよ」
「あっそうそう。その話もしたいと思ってさ。それ、本当に行っていいもん?」
「大丈夫だよ。こいつもたまに来てるよ。ね、野田」
緒方の前の席で黙って俺たちの話を聞いていた野田は、急に話を振られて少しあたふたとしている。こいつ、野田って言うんだ。二カ月近く同じクラスにいたけど、俺はほとんど同じクラスのやつらの名前を憶えていない。
「あっあぁ。俺は将棋部だけど、たまに寄らせてもらう。でも、うちの部活は割と緩いから大丈夫だけど、バレー部は毎日部活あるだろ。高槻は行ってる時間なくない?」
「うーん。通常練習が終わった後とかならちょっといけるかなーと思ったんだけど、そっちはいつも何時までいる?」
俺の所属するバレー部はいわゆる全国レベルの強豪で、朝練から始まり、毎日夜遅くまで練習漬け。 学校のルールとして部活は一応夜の七時までって決まっているけど、体育館は九時まで利用できるから、そのまま自主練をして、帰るのはいつも九時を過ぎる。
俺も基本的には毎日自主練で残ってはいるが、強制ではないし、何なら俺をいつも囲んでくる先輩らは結構さっさと帰る。そんなんだから一年の俺にレギュラーを取られるんだ、なんて言わないけど。
「僕はいつも八時には帰るけど、瀬良先輩は結構残ってるよ。家は電気代がかかるからとか言って」
「瀬良先輩って一人暮らしなんだっけ」
「そうそう。実家でゲームしてると親がうるさいからって出てきちゃったんだって」
「へーーかっこよ」
緒方も野田もこうして話すのは初めてだけど、結構話しやすい。クラスには普通に話すやつもいるけど、外部生だからってちょっと線を引いてたのは俺自身かもしれない。
次の授業が始まるチャイムが鳴まで、なんだかんだ話しが弾んだ。
「じゃーそのうちふらっと行くかも」
「わかった。瀬良先輩にも言っとくよ」
いつ行こうかな、今日早速とか。そんなことばかり考えて、次の授業の話は全然頭に入ってこなかった。
部活の時間になって、俺はいつもの通り更衣室で着替えを済ませて体育館に向かうと、今日も俺が何をしても気に入らない先輩方に体育館前で絡まれる。
「お前さぁ、なんで部室使わねぇの。なに、気とか使ってくれてるわけ」
部員がそこそこいるバレー部では、一年生は基本的に部室を使わない。一年生でもレギュラーであれば部室が使えるらしいけど、そんなことをしたらまたうるさく言われるだろうから、他の一年生に倣っていつも更衣室を使っていた。一応気を使ったつもりだっただけど、無駄なことだったようだ。
心からため息をつきたい衝動に駆られるけど、何とか堪える。でも、顔には出てたらしい。
「なんだよその顔。文句あるなら言ってみろよ」
監督や部長がいるときとか、一人だけのときはこんな絡み方してこないのに、なぜか集団になると強気になる。こういうやつって本当に面倒くさい。
いつもは黙ってやり過ごすけど、ふと昨日の瀬良の言葉が頭を過った。
『出る杭って言うのはどうしったて飛び出るんだからさ、どうせならもっと出てやりゃいいんだよ』
そうだ、文句あるなら言えって言ってるし、どうせ何をしても気に入らないんだから、その通りにしてみればいい。
「部室を使ったら使ったで絶対に文句言いますよね。ってか、俺がどこで着替えようと先輩たちに関係ありますか?」
今まで一度も反抗しなかった俺が突然言い返したせいで、先輩方は明らかにたじろいで見える。何かしら因縁をつけてくるやつは、反論されると弱いって聞いたことがあったけど、本当なんだな。
「おっお前、なんだよその態度!」
負け犬のテンプレみたいなセリフだ。ちょっと笑いそうになるけど、そこはさすがに我慢。
「文句があるなら言えと言われたので、その通りにしただけです。それに、ここに溜まるの邪魔だって昨日言われたばっかりなんで、もう体育館入ってもいいですか」
何も言い返せなくなった先輩方は、今にも俺の胸ぐらにつかみかかってきそうな雰囲気だけど、その前に背後から昨日と同じ声がした。
「そうだぞー、邪魔だって」
振り向くと、そこには瀬良がいた。昨日と全く同じ状況だ。完全に分が悪い先輩方は、チッと舌打ちをして体育館の中にさっさと引っ込んでいった。
「昨日に引き続き、すみません」
俺はまじめに謝ってみるが、瀬良はにやにやと大きな目をまた俺に向けている。
「高槻はキレると怖いタイプな」
「……キレてません。先輩が昨日言っていたことを実行してみただけです」
瀬良は一瞬きょとんとした顔をしたが、自分の言ったことを思い出したのか、声をあげて笑い始めた。
「あははっ。最高だな、お前」
目を細めて笑うその顔に、俺の心臓がドクンと跳ねた。なんだろう、この気持ちは。顔に熱がこもるのを悟られないように、俺は話を挿げ替える。
「あっそうそう、今日、練習終わったあとに時間あったら、少しだけそっちに行ってもいいですか」
「あぁいいよ。俺は九時くらいまでいるから」
顔が自然とにやける。なぜかわからないけど、その日の練習はいつもよりも長く感じた。
体育館の時計が八時を回り、自主練をするバレー部の人数も少なくなってきた頃合いを見て、俺も今日は早めに上がる。
「お疲れさまでした~」
「あれ、今日は早いんだな」
声をかけてきたのは、部長の相原 浩平だ。俺に絡んでくる先輩方とは違い、何かと俺を気にかけてくれている。まぁそれも、やっかみを生む原因の一つになっているんだけど。
「はい、今日はちょっと用事があって」
「そうか、気を付けて帰れよ」
相原に礼をして、俺は急ぐ気持ちを自分ではぐらかすように歩いて体育館を出る。本当は駆け出してしまいたい。
瀬良のいるeスポーツ部の部室は、体育館の隣にある旧校舎の一階、視聴覚室だ。体育館からまだ明かりがついているのが見えると、なぜか鼓動が早くなる。
だから何なんだ、これは。
視聴覚室に近づくと、早くなった鼓動は、今度は大きな音を立てている。試合前よりも震える手で視聴覚室のドアを開けると、奥にピンク色の頭が見えた。モニターに映るゲームに集中しているのか、こちらにはまだ気が付いていない。
教室の中を見回すが、他の部員はみんなもう帰ったようで、瀬良しかいなかった。
二人っきり……って何を考えているんだ俺は……。
自分の気持ちが昨日からいまいち理解できない。教室の入り口で何かわからないものと葛藤していると、一ゲーム終えた瀬良がこちらに気が付いた。
「おう、来たな! ちょうどよかった、これ一緒にやろ」
そう手招きをする瀬良に、このわけのわからない気持ちを悟られまいと、必死で平常心を装う。
「俺ゲームほとんどしないんで、下手だと思いますよ」
家にゲーム機はあるが、部活漬けの毎日だから手に取るのは本当にごくまれで、全国優勝を果たしちゃうような瀬良の相手が務まるとはとても思えない。
「大丈夫、一緒にやりたいだけだからさ」
何ともない一言だったのに、なぜか嬉しくなる。
瀬良の横に座り、震える手でコントローラーを持つと、瀬良がゲームについていろいろ教えてくれたが、全然頭に入ってこない。楽しそうに話す瀬良の顔ばかりが印象に残った。
それでも、持て余し気味だった気持ちは、久しぶりにやったゲームに必死になっていると自然と落ち着きを取り戻し、気が付いたら時計は九時を回ろうとしていた。
「そろそろ帰るか」
瀬良の言葉に少し寂しい気持ちがした。楽しい時間はあっという間だ。
「バレー部は明日も練習あんの?」
「はい、明日は午後からですね」
バレー部は毎日練習があるけど、土日は他の部活との兼ね合いで、始まる時間がその時々によってまちまちだ。
「いいよなー、うちは学校休みだと部室使えないんだよ。新校舎だったら使えるのになぁ」
eスポーツ部は瀬良が高校一年生の時に立ち上げた部活だから、学校内ではいわば“新参者”で、新校舎には使える場所がなく、この旧校舎の視聴覚室に収まった。他にも旧校舎を部室にしている文化部はあるけど、旧校舎は普段使用していない校舎だから、休みの日は開けてもらえないらしい。
「あの、また来てもいいですか」
「なんだよ、改まって。別にいつ来てもいいよ」
八重歯がのぞく瀬良の笑顔に、また胸が高鳴る。
だから、なんなんだこれ。治まっていたはずのわけのわからない気持ちが、またうるさいほど脈を打ち始める。
外はもう真っ暗だから、熱がこもった顔を見られなくて済んでよかった。
「あれ、高槻? まだいたの」
とりとめもない話を二人でしながら、校門に向かって歩いていたら、急に後ろから呼び止められた。
「あっ相原さん、今帰りですか」
相原は俺と同じように一年生からレギュラーを張り、バレー部の全国大会出場に貢献している絶対的エースだ。その活躍と、いわゆる“イケメン”と言われる見た目も相まって、他校の女子が応援に来るほど人気がある。部員からはもちろん、先生からの人望も厚くて、俺もこの人は信用していた。
「あぁ、部誌書いてたら遅くなってさ」
そういうと、相原は俺の横にいた瀬良にちらっと視線を向ける。先ほどまでにこやかに俺と話していた瀬良の表情が何やら険しくなっているように見えた。
「えっと、火月、久しぶり。お前ら知り合いだったのか」
相原は瀬良を下の名前で呼んだ。親しいのかな、と思ったが、瀬良は目線を合わせず、機嫌の悪い顔をしているように見えるから、よくわからない。
「えぇまぁ。そちらこそ、仲いいんですか?」
気になった俺は素直に素直に尋ねてみると、同時に全く逆の答えが返ってきた。
「あぁ、幼馴染なんだ」
「よくない」
相変わらず目線を合わせようとしない瀬良と、瀬良の答えに複雑そうな顔をした相原を見て、二人の間に何かあったのだろうと察しはつくが、なんとなく面白くはない。
どう反応していいのか困っていると、瀬良は背を向けて歩き始めてしまった。俺は思わず瀬良を追いかける。
「瀬良さん、ちょっと待って……」
俺が声をかけると、瀬良は止まり、くるっと相原のほうを向いた。
「お前さ、高槻が部活のとき体育館の外で三年に絡まれてるの知ってんの」
「えっ?!」
驚いたような相原の反応に、瀬良は大きくため息をついて、頭をかく。
「やっぱりな。どうせまた自分が好きなように構うだけで、肝心なところは見てないんだろ。部長だったら部の雰囲気悪いことくらい気づけ」
瀬良は一方的にそう言い放つと、また俺たちに背を向け一人校門を出て行った。
部活の先輩方は、いつも部長である相原がいないタイミングでしか絡んでこない。俺も別に言いつけたりしてないし、他の部員も同じだろう。だから、おそらく相原は俺の状況を知らない。
でもそんなことより、さっきの瀬良の言葉で気になったのはそこじゃない。
『どうせまた』
つまり、前に相原は瀬良の気に障るようなことをしたのだ。それで仲がこじれているのか……そちらばかり気になって、相原が何やら矢継ぎ早に質問をしてきたが、全然耳に入ってこなかった。
「緒方、ちょっといいか」
同じクラスでeスポーツ部所属の緒方 雄介。きっとこいつが昨日、瀬良の言っていた“俺のことを気にしていた” やつだ。
緒方と、緒方と話していたやつは俺が話しかけると驚いたような顔をした。まぁ同じクラスになってから一度も話しかけたことがないんだから、当然だ。
「びっくりした。どうしたの?」
「急に悪い。昨日、瀬良先輩と少し話す機会があって、お前が俺のこと気にしてたって聞いたから」
「あぁ、僕も先輩から聞いたよ。部室に行くときに結構頻繁に囲まれてるの見るからさ。ちょっと気になっちゃって」
確かに毎日ある部活の内、週に二、三回は体育館の前で何人かの先輩に囲まれて文句を言われる。あとはなぜか一年の中で俺だけ余分に外周をさせられたり、ウエイトトレーニングの時間が長かったり。あいつらからすれば嫌がらせのつもりなんだろうが、別に大したことではない。でも、他から見ればやっぱり気になるんだろうか。
「とはいっても、僕は瀬良先輩みたいに止められるわけじゃないから、何も言えないんだけど……」
「いいって。時間の無駄だなとは思うけど、本当にあんまり気にしてないんだ。まぁ外部生ってだけでも目つけられても仕方ないし、別に手出されるわけでもないしな」
鳳澤学園は中高一貫の男子校で、高等部のほとんどの生徒が付属の中等部から上がってくる。そういうやつらは内部生、それとは別に高校からこの学校に入った俺みたいなやつは、外部生と呼ばれる。
中学から関係性を築いてきたやつらの中にぽっと入ってくる外部生は、あからさまにいじめられることはなくても、やはり少し距離を置かれたり、上級生から目をつけられたりする。俺が気に入らない先輩方も、そういうことなんだろう。
でも、緒方は俺の言葉に少し困った顔をした。
「高槻は推薦で入ってるんだろ。あの人たちもただのやっかみなんだろうけど、外部生だからとかあんまり気分のいいものではないよ」
確か緒方も内部生だ。こういう風に考えてくれるクラスメイトがいるというのは少し嬉しい。
「お前、いいやつだな」
そう言うと、緒方は少し照れたような顔でメガネを人差し指でくいっと上げた。
「そういえば、瀬良先輩がうちの部活に遊びにおいでって言ってたよ」
「あっそうそう。その話もしたいと思ってさ。それ、本当に行っていいもん?」
「大丈夫だよ。こいつもたまに来てるよ。ね、野田」
緒方の前の席で黙って俺たちの話を聞いていた野田は、急に話を振られて少しあたふたとしている。こいつ、野田って言うんだ。二カ月近く同じクラスにいたけど、俺はほとんど同じクラスのやつらの名前を憶えていない。
「あっあぁ。俺は将棋部だけど、たまに寄らせてもらう。でも、うちの部活は割と緩いから大丈夫だけど、バレー部は毎日部活あるだろ。高槻は行ってる時間なくない?」
「うーん。通常練習が終わった後とかならちょっといけるかなーと思ったんだけど、そっちはいつも何時までいる?」
俺の所属するバレー部はいわゆる全国レベルの強豪で、朝練から始まり、毎日夜遅くまで練習漬け。 学校のルールとして部活は一応夜の七時までって決まっているけど、体育館は九時まで利用できるから、そのまま自主練をして、帰るのはいつも九時を過ぎる。
俺も基本的には毎日自主練で残ってはいるが、強制ではないし、何なら俺をいつも囲んでくる先輩らは結構さっさと帰る。そんなんだから一年の俺にレギュラーを取られるんだ、なんて言わないけど。
「僕はいつも八時には帰るけど、瀬良先輩は結構残ってるよ。家は電気代がかかるからとか言って」
「瀬良先輩って一人暮らしなんだっけ」
「そうそう。実家でゲームしてると親がうるさいからって出てきちゃったんだって」
「へーーかっこよ」
緒方も野田もこうして話すのは初めてだけど、結構話しやすい。クラスには普通に話すやつもいるけど、外部生だからってちょっと線を引いてたのは俺自身かもしれない。
次の授業が始まるチャイムが鳴まで、なんだかんだ話しが弾んだ。
「じゃーそのうちふらっと行くかも」
「わかった。瀬良先輩にも言っとくよ」
いつ行こうかな、今日早速とか。そんなことばかり考えて、次の授業の話は全然頭に入ってこなかった。
部活の時間になって、俺はいつもの通り更衣室で着替えを済ませて体育館に向かうと、今日も俺が何をしても気に入らない先輩方に体育館前で絡まれる。
「お前さぁ、なんで部室使わねぇの。なに、気とか使ってくれてるわけ」
部員がそこそこいるバレー部では、一年生は基本的に部室を使わない。一年生でもレギュラーであれば部室が使えるらしいけど、そんなことをしたらまたうるさく言われるだろうから、他の一年生に倣っていつも更衣室を使っていた。一応気を使ったつもりだっただけど、無駄なことだったようだ。
心からため息をつきたい衝動に駆られるけど、何とか堪える。でも、顔には出てたらしい。
「なんだよその顔。文句あるなら言ってみろよ」
監督や部長がいるときとか、一人だけのときはこんな絡み方してこないのに、なぜか集団になると強気になる。こういうやつって本当に面倒くさい。
いつもは黙ってやり過ごすけど、ふと昨日の瀬良の言葉が頭を過った。
『出る杭って言うのはどうしったて飛び出るんだからさ、どうせならもっと出てやりゃいいんだよ』
そうだ、文句あるなら言えって言ってるし、どうせ何をしても気に入らないんだから、その通りにしてみればいい。
「部室を使ったら使ったで絶対に文句言いますよね。ってか、俺がどこで着替えようと先輩たちに関係ありますか?」
今まで一度も反抗しなかった俺が突然言い返したせいで、先輩方は明らかにたじろいで見える。何かしら因縁をつけてくるやつは、反論されると弱いって聞いたことがあったけど、本当なんだな。
「おっお前、なんだよその態度!」
負け犬のテンプレみたいなセリフだ。ちょっと笑いそうになるけど、そこはさすがに我慢。
「文句があるなら言えと言われたので、その通りにしただけです。それに、ここに溜まるの邪魔だって昨日言われたばっかりなんで、もう体育館入ってもいいですか」
何も言い返せなくなった先輩方は、今にも俺の胸ぐらにつかみかかってきそうな雰囲気だけど、その前に背後から昨日と同じ声がした。
「そうだぞー、邪魔だって」
振り向くと、そこには瀬良がいた。昨日と全く同じ状況だ。完全に分が悪い先輩方は、チッと舌打ちをして体育館の中にさっさと引っ込んでいった。
「昨日に引き続き、すみません」
俺はまじめに謝ってみるが、瀬良はにやにやと大きな目をまた俺に向けている。
「高槻はキレると怖いタイプな」
「……キレてません。先輩が昨日言っていたことを実行してみただけです」
瀬良は一瞬きょとんとした顔をしたが、自分の言ったことを思い出したのか、声をあげて笑い始めた。
「あははっ。最高だな、お前」
目を細めて笑うその顔に、俺の心臓がドクンと跳ねた。なんだろう、この気持ちは。顔に熱がこもるのを悟られないように、俺は話を挿げ替える。
「あっそうそう、今日、練習終わったあとに時間あったら、少しだけそっちに行ってもいいですか」
「あぁいいよ。俺は九時くらいまでいるから」
顔が自然とにやける。なぜかわからないけど、その日の練習はいつもよりも長く感じた。
体育館の時計が八時を回り、自主練をするバレー部の人数も少なくなってきた頃合いを見て、俺も今日は早めに上がる。
「お疲れさまでした~」
「あれ、今日は早いんだな」
声をかけてきたのは、部長の相原 浩平だ。俺に絡んでくる先輩方とは違い、何かと俺を気にかけてくれている。まぁそれも、やっかみを生む原因の一つになっているんだけど。
「はい、今日はちょっと用事があって」
「そうか、気を付けて帰れよ」
相原に礼をして、俺は急ぐ気持ちを自分ではぐらかすように歩いて体育館を出る。本当は駆け出してしまいたい。
瀬良のいるeスポーツ部の部室は、体育館の隣にある旧校舎の一階、視聴覚室だ。体育館からまだ明かりがついているのが見えると、なぜか鼓動が早くなる。
だから何なんだ、これは。
視聴覚室に近づくと、早くなった鼓動は、今度は大きな音を立てている。試合前よりも震える手で視聴覚室のドアを開けると、奥にピンク色の頭が見えた。モニターに映るゲームに集中しているのか、こちらにはまだ気が付いていない。
教室の中を見回すが、他の部員はみんなもう帰ったようで、瀬良しかいなかった。
二人っきり……って何を考えているんだ俺は……。
自分の気持ちが昨日からいまいち理解できない。教室の入り口で何かわからないものと葛藤していると、一ゲーム終えた瀬良がこちらに気が付いた。
「おう、来たな! ちょうどよかった、これ一緒にやろ」
そう手招きをする瀬良に、このわけのわからない気持ちを悟られまいと、必死で平常心を装う。
「俺ゲームほとんどしないんで、下手だと思いますよ」
家にゲーム機はあるが、部活漬けの毎日だから手に取るのは本当にごくまれで、全国優勝を果たしちゃうような瀬良の相手が務まるとはとても思えない。
「大丈夫、一緒にやりたいだけだからさ」
何ともない一言だったのに、なぜか嬉しくなる。
瀬良の横に座り、震える手でコントローラーを持つと、瀬良がゲームについていろいろ教えてくれたが、全然頭に入ってこない。楽しそうに話す瀬良の顔ばかりが印象に残った。
それでも、持て余し気味だった気持ちは、久しぶりにやったゲームに必死になっていると自然と落ち着きを取り戻し、気が付いたら時計は九時を回ろうとしていた。
「そろそろ帰るか」
瀬良の言葉に少し寂しい気持ちがした。楽しい時間はあっという間だ。
「バレー部は明日も練習あんの?」
「はい、明日は午後からですね」
バレー部は毎日練習があるけど、土日は他の部活との兼ね合いで、始まる時間がその時々によってまちまちだ。
「いいよなー、うちは学校休みだと部室使えないんだよ。新校舎だったら使えるのになぁ」
eスポーツ部は瀬良が高校一年生の時に立ち上げた部活だから、学校内ではいわば“新参者”で、新校舎には使える場所がなく、この旧校舎の視聴覚室に収まった。他にも旧校舎を部室にしている文化部はあるけど、旧校舎は普段使用していない校舎だから、休みの日は開けてもらえないらしい。
「あの、また来てもいいですか」
「なんだよ、改まって。別にいつ来てもいいよ」
八重歯がのぞく瀬良の笑顔に、また胸が高鳴る。
だから、なんなんだこれ。治まっていたはずのわけのわからない気持ちが、またうるさいほど脈を打ち始める。
外はもう真っ暗だから、熱がこもった顔を見られなくて済んでよかった。
「あれ、高槻? まだいたの」
とりとめもない話を二人でしながら、校門に向かって歩いていたら、急に後ろから呼び止められた。
「あっ相原さん、今帰りですか」
相原は俺と同じように一年生からレギュラーを張り、バレー部の全国大会出場に貢献している絶対的エースだ。その活躍と、いわゆる“イケメン”と言われる見た目も相まって、他校の女子が応援に来るほど人気がある。部員からはもちろん、先生からの人望も厚くて、俺もこの人は信用していた。
「あぁ、部誌書いてたら遅くなってさ」
そういうと、相原は俺の横にいた瀬良にちらっと視線を向ける。先ほどまでにこやかに俺と話していた瀬良の表情が何やら険しくなっているように見えた。
「えっと、火月、久しぶり。お前ら知り合いだったのか」
相原は瀬良を下の名前で呼んだ。親しいのかな、と思ったが、瀬良は目線を合わせず、機嫌の悪い顔をしているように見えるから、よくわからない。
「えぇまぁ。そちらこそ、仲いいんですか?」
気になった俺は素直に素直に尋ねてみると、同時に全く逆の答えが返ってきた。
「あぁ、幼馴染なんだ」
「よくない」
相変わらず目線を合わせようとしない瀬良と、瀬良の答えに複雑そうな顔をした相原を見て、二人の間に何かあったのだろうと察しはつくが、なんとなく面白くはない。
どう反応していいのか困っていると、瀬良は背を向けて歩き始めてしまった。俺は思わず瀬良を追いかける。
「瀬良さん、ちょっと待って……」
俺が声をかけると、瀬良は止まり、くるっと相原のほうを向いた。
「お前さ、高槻が部活のとき体育館の外で三年に絡まれてるの知ってんの」
「えっ?!」
驚いたような相原の反応に、瀬良は大きくため息をついて、頭をかく。
「やっぱりな。どうせまた自分が好きなように構うだけで、肝心なところは見てないんだろ。部長だったら部の雰囲気悪いことくらい気づけ」
瀬良は一方的にそう言い放つと、また俺たちに背を向け一人校門を出て行った。
部活の先輩方は、いつも部長である相原がいないタイミングでしか絡んでこない。俺も別に言いつけたりしてないし、他の部員も同じだろう。だから、おそらく相原は俺の状況を知らない。
でもそんなことより、さっきの瀬良の言葉で気になったのはそこじゃない。
『どうせまた』
つまり、前に相原は瀬良の気に障るようなことをしたのだ。それで仲がこじれているのか……そちらばかり気になって、相原が何やら矢継ぎ早に質問をしてきたが、全然耳に入ってこなかった。
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軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。
そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。
王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。
仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。
仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。
瑞々しい、均整の取れた体。
絹のような栗色の髪に、白い肌。
美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。
第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。
そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。
「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」
不思議と、勇気が湧いてくる。
「長い、お名前。まるで、呪文みたい」
その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。
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