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プロローグ
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あの人と初めて会ったのは、校庭の桜の葉が青々と茂り始め、強くなっていく太陽の日差しで汗ばむ季節が近づく春の終わり。
態度がでかいとか、生意気だとか、何かと俺のことが気に食わない部活の先輩方にいわゆる“いびり”を受けている最中だった。
「おい、邪魔なんだけど」
後ろから聞こえてきた苛立ちを帯びた声に驚いて振り向くと、そこにいたのは思わず目を奪われずにはいられないような人だった。
桜のような薄いピンク色の髪の毛に、耳に並ぶたくさんのピアス。でも、その容貌には少しアンバランスなくっきりとした二重の中にある大きな黒い瞳。それは、自由な校風がモットーのこの学校なかでもかなり際立つ出で立ちだ。
その人がもたらした色は、くだらないことを言われ続けて白黒になりつつあった俺の世界に彩を取り戻してくれた。
今でもその衝撃を忘れたことはない。
「ダサいことしてる上に、道を塞ぐとかほんと迷惑でしかないんだけど」
「はぁ? なんだと……!」
突然現れたその人に魅入っている間に、俺に向けられていた悪意はその人へ向かっていこうとしていた。俺は咄嗟に止めに入ろうとするが、それは不要な気遣いだった。
「おい、やめとけ。そいつ瀬良だぞ……」
俺を取り囲むうちの一人が発したその一言で、それまでギラギラとしていた先輩方の戦意はすぐに消失した。俺もその名前を聞いて、この人が誰だったか思い出した。
瀬良 火月。
学年は俺の一つ上の二年生。巷では進学校として名高く、生徒数も少なくないこの鳳沢学園高校の中で、学年の違う俺でも知っているほど有名な名前だ。
それはこの外見のせいでもあるし、中学からずっと学年トップ、全国でも上位の成績を維持していること、さらには自分で立ち上げた部活をたったの一年で全国優勝に導いたことも大きい。個人でも優秀な成績を残しており、学校の広報などによく名前と写真が載っていた。
その瀬良が立ち上げた“eスポーツ部”の部室が、今俺たちがいる体育館の前を通り抜けた先の旧校舎にある。だから、この現場に居合わせたのだろう。
結局、俺を囲んでいた先輩方は、イレギュラーの登場に恐れをなしたのか、体育館の中へと入って行ってしまった。
「すいませんでした」
軽く頭を下げ体育館の中に入ろうとするが、今度は瀬良が道を塞ぎ、なぜがその大きな目で俺をひたすら凝視している。少し戸惑ったような顔をすると、先に瀬良が口を開いた。
「高槻だよね」
「えっ、なんで俺の名前……」
「うちの一年に聞いた」
そういえば同じクラスにeスポーツ部のやつがいた気がする。
「よくここで絡まれてるからな。気にしてたぞ」
なるほど、同じクラスというだけでほとんど話したこともないやつに同情されるほど俺はいびられていたのか。
「そうですか。俺は平気なので、気にするなと伝えてください。でも道は塞がないようにします」
「そうしてくれ。ただでさえお前らでっかいんだから、威圧感すごいんだよ。ってか身長何センチあんの」
「189センチくらいですね」
「俺より20センチ以上でかいのかよ……。まぁその顔とその背じゃ嫌でも目立つわな。でも、出る杭って言うのはどうしたって飛び出るんだからさ、どうせならもっと出てやりゃいいんだよ」
そう言ってニカっと八重歯を見せて笑うその顔に、なぜだか強い風が吹いたかのように胸がざわめく。
「そうだ、今度こっちに遊びに来いよ。気晴らしくらいにはなるだろ」
俺は曖昧に相槌を打つと、ちょうど体育館の中から呼ばれる声がして、瀬良はじゃあ、と手を上げ旧校舎の方へ歩いて行った。
俺はその後姿を見ながら、何かが少し自分の中で動いたような気がした。
態度がでかいとか、生意気だとか、何かと俺のことが気に食わない部活の先輩方にいわゆる“いびり”を受けている最中だった。
「おい、邪魔なんだけど」
後ろから聞こえてきた苛立ちを帯びた声に驚いて振り向くと、そこにいたのは思わず目を奪われずにはいられないような人だった。
桜のような薄いピンク色の髪の毛に、耳に並ぶたくさんのピアス。でも、その容貌には少しアンバランスなくっきりとした二重の中にある大きな黒い瞳。それは、自由な校風がモットーのこの学校なかでもかなり際立つ出で立ちだ。
その人がもたらした色は、くだらないことを言われ続けて白黒になりつつあった俺の世界に彩を取り戻してくれた。
今でもその衝撃を忘れたことはない。
「ダサいことしてる上に、道を塞ぐとかほんと迷惑でしかないんだけど」
「はぁ? なんだと……!」
突然現れたその人に魅入っている間に、俺に向けられていた悪意はその人へ向かっていこうとしていた。俺は咄嗟に止めに入ろうとするが、それは不要な気遣いだった。
「おい、やめとけ。そいつ瀬良だぞ……」
俺を取り囲むうちの一人が発したその一言で、それまでギラギラとしていた先輩方の戦意はすぐに消失した。俺もその名前を聞いて、この人が誰だったか思い出した。
瀬良 火月。
学年は俺の一つ上の二年生。巷では進学校として名高く、生徒数も少なくないこの鳳沢学園高校の中で、学年の違う俺でも知っているほど有名な名前だ。
それはこの外見のせいでもあるし、中学からずっと学年トップ、全国でも上位の成績を維持していること、さらには自分で立ち上げた部活をたったの一年で全国優勝に導いたことも大きい。個人でも優秀な成績を残しており、学校の広報などによく名前と写真が載っていた。
その瀬良が立ち上げた“eスポーツ部”の部室が、今俺たちがいる体育館の前を通り抜けた先の旧校舎にある。だから、この現場に居合わせたのだろう。
結局、俺を囲んでいた先輩方は、イレギュラーの登場に恐れをなしたのか、体育館の中へと入って行ってしまった。
「すいませんでした」
軽く頭を下げ体育館の中に入ろうとするが、今度は瀬良が道を塞ぎ、なぜがその大きな目で俺をひたすら凝視している。少し戸惑ったような顔をすると、先に瀬良が口を開いた。
「高槻だよね」
「えっ、なんで俺の名前……」
「うちの一年に聞いた」
そういえば同じクラスにeスポーツ部のやつがいた気がする。
「よくここで絡まれてるからな。気にしてたぞ」
なるほど、同じクラスというだけでほとんど話したこともないやつに同情されるほど俺はいびられていたのか。
「そうですか。俺は平気なので、気にするなと伝えてください。でも道は塞がないようにします」
「そうしてくれ。ただでさえお前らでっかいんだから、威圧感すごいんだよ。ってか身長何センチあんの」
「189センチくらいですね」
「俺より20センチ以上でかいのかよ……。まぁその顔とその背じゃ嫌でも目立つわな。でも、出る杭って言うのはどうしたって飛び出るんだからさ、どうせならもっと出てやりゃいいんだよ」
そう言ってニカっと八重歯を見せて笑うその顔に、なぜだか強い風が吹いたかのように胸がざわめく。
「そうだ、今度こっちに遊びに来いよ。気晴らしくらいにはなるだろ」
俺は曖昧に相槌を打つと、ちょうど体育館の中から呼ばれる声がして、瀬良はじゃあ、と手を上げ旧校舎の方へ歩いて行った。
俺はその後姿を見ながら、何かが少し自分の中で動いたような気がした。
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