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「相変わらずうるせぇ野郎だろうなあ、黙ってりゃ可愛がってやるのに…お前、いい尻してるし」

「キャンッ!や、やめてください!僕は会長様一筋なんです!変な目で見ないでください!」

加賀美が尻を片手で揉みしだくと由良来は体をくねらせながら顔を真っ赤にして喚いている。

エロじじいか…

いやいやそんなことより、新入生歓迎会のことだ。

この学園に入ってから早2年、一度も大きなミスをせず帝冠学園の生徒会長として順風満帆な人生を歩んでいたっていうのにっ…あぁ、なんたる失態だ!

これも全部あの転校生のせいだ、あいつのせいで周期も忘れていたし、こんな大事な新入生歓迎会のことも忘れてしまっていた
いやいや、でもそんなことこいつの前では何の言い訳にもならない。

どうしよう、デタラメなことを言えばこいつには絶対にばれる。でも何も言わずに乗り切れるわけないし…!

「…で、どうすんだ?一人でやりきるってか?」


「……だよ…」


「あ?なんだって?」





「役員たちを生徒会に連れ戻すんだよ!」


「……は?」


口をあんぐりと開ける加賀美に、さっき矢野から渡された書類を机に叩きつけた。

「みろ!これは矢野が作った書類だ、ここにあいつのサインがある。お前は知らねえだろうがな、役員たちは着々と生徒会に戻りつつある。勿論、お、れ、の!手腕のおかげでな!副会長の件も、と、当然、策はある!つまり、お前が何か言ってくる必要はねぇって訳だ」





「……」

加賀美は机に叩きつけられた書類を手に取り、無言で紙をめくり、じとりとこちらを伺う。


「…苦し紛れにも聞こえるが、まあ、確かにこのサインは矢野の字だ…つうか、お前やっぱリコールはしないんだな」

片眉を上げ、持っていた書類を投げて加賀美はゆっくり立ち上がる。

「当たり前だ。そんなことしないし、お前らにもさせない…前にもいっただろうが」

加賀美を見上げる形で睨みつける。座っていると加賀美の図体のデカさがより強い威圧感となって俺にのしかかってくる。

「はっ、じゃあ副会長の件はお前に一任するわ…何か策があるみたいだしなあ?さすが、エリート血筋のアルファ様だな」

くっそ!口から出まかせがこんなことになるなんてっ…!

でも、その出まかせのお陰で加賀美はどうやら納得はした様子で、さっきまでの張り詰めていた空気を緩めた。

こいつの醸し出す威圧感は同じアルファですら震え上がるほどのものなので早々にソレが無くなっただけでも有難い

俺は深く息を吐いて早鐘を打つ心臓をなんとか落ち着かせる。


「……、?まだ、何かあんのか…?」




目の前で未だ仁王立ちのまま動く様子のない加賀美の視線がちらついて、俺は落ち着かない気持ちで尋ねる。

「…お前……」


そう言って言葉を中途半端に切ってまた思案したような様子を見せる加賀美に眉を寄せる。

な、なんだ、これ以上言及されたらボロが出るぞ…!

「なんだよ…まだ文句があんの、か……っ!?」

突然、ぐんっと体が浮いた衝撃に俺は目を白黒させて固まってしまった。



な、なんで、目の前に加賀美の顔が…?


「んー、…やっぱお前なんか…におうな」

「なっ…!…はっ…!?」


体が浮いた衝撃は加賀美が俺のネクタイごと引っ張り上げたからのようで、俺は突然のことに何も出来ず口をパクパクとさせて言葉にならない声を発していた。

「…香水…?いやちげぇなあ…前のときもこっから…甘い?…」

俺の首筋に顔を寄せ明らかに匂いを嗅いでいる加賀美に俺は落ち着きかけた心拍数が高まるのを感じた。

ま、まずいっ…!こいつ何のつもりだ!

「な、っ…!き、き、きめぇんだよっ!さっさと離せ!」


「あ、暴れんなよ別にお前相手にどうこうする気ねぇよ、ただ前んときからずっとお前からいい匂いがすると思ってよ…んー、なんだこの匂い」

俺が必死にやつの手から抜けようと肩を全力で押し返しても、もがいても加賀美の体はビクともしない。こいつバケモンか!

俺がオメガだとは思ってもいない様子に少しは安堵するがそれでもこの状態はいささかまずい。


「石鹸だろ!早く離せ!」

「ぁあ?お前石鹸で体洗ってんのか、古風だな」

「そんなのどうでもいいだろ!!」

「良くねぇよ、気になんなぁ石鹸なのか?これ」

か、神様仏様助けて下さいっ!なんでこいつこんなしつこいの!?あと力強すぎだろ!
ギリギリと掴まれた襟元の手がどんどん首を絞めていく。

し、死ぬ!

「お、おいっ!首締まって…!」

「暴れんなって」

「っ…!」

奴の声が耳元にダイレクトに響いて思わず体が固まる。

ち、近い近いっ!早く離れてくれ!頼む!

「んー、この辺りかぁ?」

「んっ」

バッ!

急いで手で口を塞いだが時すでに遅し。

あれだけ騒がしかった辺りが静まるのを感じた。


な、何だ今の声!うわ、うわうわうわうわ
 
「…どけっ!!」


しかし、今のおかげか加賀美の腕が緩んだそのすきに手を突っぱねて距離を取る。

身体中が熱くなっているのがわかる、あとちょっと泣きそう。


最悪だ、悪夢だ、これは現実じゃない。


俺は目の前の書類を握りしめて、首を押さえ、

「死ねっ!!!」


走った、そう捨て台詞を吐いて。


「か、会長様!!!」


それも全力疾走



くそ、くそう!俺が、この俺があんな気持ち悪い声を出した上に、あんな負け犬のような捨て台詞を吐くなんて!

なんの罪もないオムライスには謝ろう、すまん、食べたかった。情けない俺を許してくれ!




廊下を全力疾走する俺の姿に周りの生徒たちは口をぽかんと開けて見ている。


でもそんなことを気にする余裕が今の俺には無かった。

加賀美の口元が一瞬、ほんのわずか、耳の裏に触れたとき体の奥底からゾクゾクと何かが駆け巡った。

「うわあああ!!!!やめろやめろ!!!」

フラッシュバックしたものをかき消すように、叫ぶ。

首元を腕で擦りながら俺は感じたことのない体の反応にハテナマークだらけの頭で行く宛のない道を走り続けた。
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