勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【238.5話】 緊急招集の午後 ※(中編)※

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リリア、コトロ、ネーコとリザードマンのヒノドンは朝焼けの村を馬車で出発。
パーティーを作った冒険者達が割り当ての目標地点に向かって続々と村を出る。
徒歩の者、地点が遠く馬車で出る者、長い影を引きながら山野に散っていく。
リリア達も馬車で出発、リリアは車上から上空捜索部隊を見上げる。
ある者は魔法のホウキで、ある者はカーペットで、ある物は使い魔と共に地面を蹴って一斉に離陸していく。
爽快な眺み… と言いたいが雰囲気はそれどころではない。皆、緊張した面持ちで村を離れる。


早朝は全員未明から食堂に集合した。
既に食堂は各ギルドのメンバーでスペースを融通しないといけない混雑状態。
ギルド・ゴーントレットのマスター、ルフトハンスが地図を指しながら、消息不明になった予測地点、昨日までの成果をブリーフィングし、素早く班にわけて夜明けと共に作戦開始された。
夜通し、街と村を往復して娘の両親を迎えに行ったハンスは疲れが見えていた。
ソウル使い、レクイエミストが消息不明のメンバー達の魂を探したが良い知らせは無かったようだ。
「全員、村から離れた場所にいると思う。魂を捕まえられなかったことは希望があるというサインでもある…」呟くように告げていた。

コトロは戦力にならないラビを村に残る支援活動班に置き、リリアと六感の働くネーコは探索班に入れ、加えてヒノドンもパーティーに入った。
周辺地図をグリッドに分けて担当が決まり、各自出発していく。
リリア達のパーティーは道沿いにだいぶ次の村まで進んだ場所が担当となった。
朝日を受けながら、地上から、空から、メンバー達が散っていく。


「っむぐ… ぅふ…」
リリアは強烈な異臭に思わず、嗚咽する。
リリア達が崖から転落している馬車を発見したのは昼近くになってだった。
魔物等に襲われたと仮定して、道から外れた平野部等を捜索したが何も手掛かりはない。リリア達は担当場所まで進め、道沿いに捜索を開始。
「全員に継ぐ、ベルベットから報告があった。ションの魂をキャッチしたらしい。どこか崖の下のようだ」イヤリングから通信が入ってきた。
「ションのやつ… 先に逝ってしまったのか…」ヒノドンが呟いた。
「… 馬車…道沿い… 崖… じゃぁ、もう少し先だと思うよ」リリアも力なく答える。
ソウル使い達のコーリングで魂と会話出来たのであれば… そういうことなのであろう…
「ベルベットから報告。レナードの魂もキャッチしたって…」
「報告、オリビアが森の精達から話を聞いたって。大きな魔物に襲われて馬が崖から転落したって…」
魔法使い、精霊使い、ソウル使い達がスキルをフル活用して居場所を探る。

「あれ馬車の一部だと思うよ…」
土地勘のあるリリアが最初の発見者となった。
通信されてくる情報から目途をつけ、馬車を止めて崖から下を覗いて歩いていると崖下に車輪等の残骸を見つけた。リリアが指を差す。
「恐らく…だ… コトロ、現在地を報告しろ。俺とリリアで崖を下りて見てくる」ヒノドンが指示を出す。
かなり急ながけだったかが、リリアは安全ロープをつけ、ヒノドンはリザードマンのスキルを使ってスルスルと崖を下りていく。


リリアは馬車に近づいて思わずのけぞった。かなりの異臭。
「ヒノ、この匂い…」リリアが言う。
「あぁ… どうやら、迎えに来れたようだ…」ヒノドンが答える。
リリア達が近づくと、馬の死体がすぐに目に入ってきた、消息不明になった三車両のうちの二台のようだ。
異臭がし、ハエが雲のように沸いている。
馬の死体は腐乱している上に、酷く損壊している。恐らく狼等に食べられたのだろう。肉の残った部分は緑に液状化している。
馬車は岩場で打ち付けられたせいか、見るも無残な姿になっている。
一見しただけでは見分けがつかないが、車輪の数を合わせると馬車二台分のようだ。もう一台はどこに…

ヒノドンが瓦礫の手前で立ち止まった。
「魂になっていたのはション、レナード、フラワーとティレルだったか…」ヒノドンが慎重に斧を手にリリアに聞く。
「… そ、そうだよ… それとマトック…」リリアは歯を食いしばって答える。
口を開けたら胃の中をリバースしそうだ。
「… そうか… それ以外は魂になってないのか… リリア、弓を構えとけ… 立ち上がってくる者には容赦するな…」ヒノドンが言う。
「そ、それって…」リリアが聞き返す。
「コトロ、連中が見つかった。二台見つけた、崖の下だ。もう一台がいないがこの付近だろう。全員集めろ」
ヒノドンが通信すると、コトロが全員に発見地点を伝えている。
「二日以上経っている。魂が腐れたやつがいてもおかしくないだろ… リリア、出来るだろう…」ヒノドン。
「や、やったことないけど… リリアだってゾンビになってまで彷徨いたくないよ」

ヒノドンはリリアの言葉を背中に、ゆっくりと馬車に接近していく。
リリアはいつでも射れるようにバックアップに入った。
強烈な異臭で失神しそうだ。いや、むしろ失神している間に誰かが何とかしてくれたらどれだけありがたいだろうか。
「父さん、母さん、リリアに真の勇気を… 神よ…全ての者達に栄光と安らぎを…」リリアは小さく呟く。
「ションがいた、草むらだ。デギンズ…か…こと切れている… リリア…いったん下がるぞ…」
ヒノドンは横転して崩れた馬車に一度接近したが、報告しながら足早に戻ってきた。
「馬車は捜索しないの?」リリアが不思議がる。
「… あぁ、場所は知らせたし、間もなく皆集合してくる…ちょっと待つべきだろう。少し離れて待機てようぜ」ヒノドンは言う
「… そ、そう… よ、良くわからないけど… あ、あたし…」
リリアは弓をしまって少し小走りをすると勢いよく胃の中の物をぶちまけはじめた。

空にはぽつぽつと魔法のホウキ部隊の影が現れ始めた。
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