勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【222話】 虎頭団のアジト

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馬車周辺はそこいらで混乱している。
リリアがビケット達の安全を確認していると、どうやらビケット達は撤退できたようだ。
もっとも賊はビケット達等どうでもよい。物品を戦利出来ればわざわざリスクを背負って対人する必要はゼロなのだ。相手が逃げるのであれば追う必要はない。

ビケット達が手際よく森に逃げ込むと馬車には賊が殺到する。
恐らく馬車の荷物に手を付けているのは一番権力を持っている一団なのだろうが、周囲にはおこぼれを狙って色んな連中が様子をうかがい、小競り合いを起こしている。
そこに他の冒険者ギルドの者、巡視兵も加わり混乱している。

リリア達は注意深く、追跡する者を狙って身を潜めている。
荷物は予め大きく持ち運びに不便な物にしてある。中には木箱に鉄クズが詰めてあるだけのダミー等、手にしたら簡単に移動できない物ばかり。
荷物を手にした者から森の中に戻り始めているが、少しでも孤立し隙をみせた者は他の盗賊団に襲われドロップした荷物を廻り強奪戦になっている。
リリアが見ていても、もうすでにどの集団がどのグループに所属している一団か全く見分けがつかない。付近で荷物を手に斜面を上がって来た数名に目をつけていたがその者達も別グループと戦闘になっている。
「人間は人間同士でこれだけ殺し合うんだから、信じられねぇよ」ダーゴが言う。
「…ゴブリン同士に争いは無いの?」リリアが聞き返す。
これだけ混乱しているので、山の中の茂みに膝を抱えて屈み込んでいる一少女と一ゴブリンに気がつく者はいないだろう、リリアもだいぶ冷静になっている。
「よくこれだけ殺し合えると言っているんだよ。争いって言うか喧嘩くらいはある、集落間の争いもなくはないよ。だけどほんの喧嘩程度さ。冷静に考えて見ろよ、森の中の調和を乱さなければ、どこがどこより得するとかないよ、そうだろ?必要以上の物を求めて同じ種族で殺し合いするなんて人間ぐらいじゃないのか?」ダーゴが言う。
「… 人間が一番恐ろしい… か」リリアが呟く。
「たまげた… ゴブリンって俺達より賢いんじゃいか?」ダカットも呟く。


リリア達は“虎頭団”のアジト付近に身を潜めた。
アジトが見張れる崖の一画まで入り込むことに成功した。
リリア達が目をつけたグループを追跡すると斜面沿いに少し奥に上がり、そこからさらに進むとちょっとした渓谷状の窪地に入っていった。
切り立った崖の様な斜面から滝と言う程立派ではないが小川からの落水があり、滝つぼの様になっている。そこに建物を立てキャンプしている。
賊の出没が多く、山中を知る機会がなかったがこのような地形になっているとは…
水が使えて便利な上、沢の入り口を見張れば侵入者を撃退できる、地形的にも要害となっていて潜伏するには適した場所のようだ。
リリア達は奪取した荷物を抱えて戻る賊を慎重に追跡してきた。
荷物を持った者達は運ぶことに気を取られていて追跡は容易だったが、その一団を狙おうとするグループからリリア達が発見されないようにするのには神経を使った。
一団が沢に下りてアジトに戻るのを確認してリリア達は慎重に見張りに適した場所に移動し、腰を落ち着けたところ。大物取りと混乱で見張りがかなり疎かになっていたおかげでリリア達もここまで潜り込めた。
ビケットの計画は今のところ的中している。

リリアが観察すると滝壺沿いに小屋が二つ建ててあり、大小のテントが五つ見えた。何やら洞窟の様な穴もあり、格子がされている。
「たぶん大きな窃盗団だよね」リリアが呟く。
水が豊かで地形にも恵まれ潜伏には絶好の場所であろう。こんな良い場所を手に入れるには権力がなければ無理だ。小屋やテントの様子をみると二十名くらいが住んでいてもおかしくない規模。力を持つ一団である可能性は高い。
現在、2,3人程度しかみかけないがほとんどは戦利に出かけているのだろう。
「ようやく“虎頭団”のアジトを見つけてやったわね」リリアが言う。
「虎頭団?それがこいつらの名前か?」ダーゴとダカットが聞き返す。
「さっきリリアが勝手に名前つけたの。沢の入り口に切り落としたサーベルタイガーの頭が飾ってあったの見たでしょ?あれがこいつらのアジトを標す印よ。俺達は虎も殺すぞって、近寄ったらこうなるよってことよ」リリアが言う。
「それで虎頭団か… なるほど」ダーゴが呟く。
「リリアちゃんってばこう見えてもネーミングセンスあるのよねぇ」冗談だろうが淡々としている。
「センス?そのまんまじゃないか…」ダカットが呟く。

リリア達が観察していると、断続的に戦利品を数名の人間がアジトに運び込んではまた出ていく。
その運び込まれた荷物を二名程で倉庫に運び込んでいる。指示を出している者がいるのでそいつは偉い立場のようだ。
「あれが賞金首かな?違うかな?違うみたいだよね」リリアが呟く。
「ここは全体が見やすいけど顔までははっきり見えないな」ダカット。
「まだまだ全部を把握しないといけないし、数日はここにいる覚悟の長期戦だよ。それにここは便利過ぎて見張りも回ってくるはずだよ」リリアが言う。
「オイラもそう思うよ」ダーゴが頷く。
「だよね?… この騒ぎが落ち着く前に… あそこの崖の途中に踊り場みたいになってるよね?ちょっと茂みがあって… ダーゴならあそこに下りれるでしょ?二人であそこにカモフラージュを作って潜もう。たぶん大丈夫だよ。巡回だってこんな崖の際まで来て、ましてあんな場所を覗き見ないよ。よっぽど景色を見たい新人さんでもなければダラダラっと異常がないか見て回って終わりよ」リリアは結構確信があるような口ぶりだ。
「そういうのかな…」ダカットが呟く。
「とにかくリリアとダーゴで人と荷物の確認よ。特にターゲットの魔法をかけた荷物が運び込まれたか注意してね。ダカットは背後の警戒だからね」リリアが言う。
「皆はどうなった?無事かな?」ダカット。
「… こうなったら無事を祈るしかないよね。きっと大丈夫だよ。全員特に選ばれたメンバーだからね」リリア。
「… リリアは頼れるときと頼れない時の差がすごいな」ダカットが妙に感心した声をだす。
「あ、余計なおしゃべりしたら使えないホウキは滝壺に投げ込んで帰るから」リリアが言う。
ダーゴがそれを聞いて笑っている。


眼下では断続して賊が戦利品を運び込んできている。
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