勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【208話】 シルキーの覚悟

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「いたたた… とんでもない話しよね…」
リリアは何とかシルキーの屋敷の庭に転がり込んだ。
振り返ると隣の家のガーゴイルとガード用ガーゴイルと番犬はリリアが自分のテリトリーを出たことで追うのをやめたようだ。
リリアは散々な目にあいながら人様の家の庭を横切ってきた。
緊急とは言えリリアが他人の敷地に不法侵入をしている側だ。ガードに襲われても文句は言えない。反撃したら器物破損の罪に問われてしまう。
ガードに反撃を加えるわけにもいかず、犬を蹴飛ばしてやる事も出来ず逃げ回りながらシルキー宅の庭先に転がり込んだ。
あっちこっち怪我したがちょっとポーションは取っておきたい。
リリアはとんでもないと思っているが、勝手に庭に入られる側から見たらリリアの不法侵入の方がとんでもない。
リリアが路上を見ると衛兵達が逃げ回りながらもミノタウロスの相手をしている。
シルキーの屋敷の庭先はひっそりとしていた。
リリアが屋敷を見るとガーデンテラスの窓が大きく破壊され、門がなぎ倒されているのが見える。
“やっぱり、シルキーが関係している”
リリアは確信すると屋敷内に駆け込んでいった。


「シルキー!大丈夫?」
リリアが屋敷に駆け込むと庭に向かう大きな一室で執事達に付き添われるシルキーの姿がった。
疲れた様子でソファーに腰かけている。辺りは破壊され散乱している。
「リ、リリアね… 今自己回復をしていたところ、もう大丈夫よ」シルキーが答える。
「シルキー、路上のあの牛、ミノタウロスはシルキーのでしょ?」リリアが問いただす。
「ごめんなさい… 私、両親に会いたくて… 母の魂はサンズ・リバーを渡ってしまって無理だけど、魔族として純血の父は召喚できると思って… 危険は承知していたけど長年研究していて、なんとかなると思って… でも呼び出したら… ごめんなさい…」シルキーが力なく謝る。
「わかった… 何となくわかるよ。リリアはそんな危険を冒そうとは思わないけど、あたしも小さい頃なくした両親に会えるなら会いたいよ… 今はそれどころじゃないよ、犠牲者が出てしまっているの、シルキーの助けが必要よ」リリアはシルキーの手を引く。
「わかってる… 何かあったらリリアなら来てくれると思ってたわ」シルキーは短く答えた。
「あれは本当にシルキーのお父さんなの?」リリアは確かめた。
「… 実はわからないの…」
シルキーはリリアに手を引かれ立ち上がった。
“それなら詳しく知らない方がよいのかも…”リリアは思った。
「とにかくあいつを何とかしてよ!なんとかしないと!」リリアは外に駆け出し始めたがシルキーに強く止められた。
リリアが振り返るとシルキーは儀式の服をはだけさせている。白い肌、芸術的な胸…
「待って!リリア… 召喚されたミノタウロスは野にいるミノタウロスより魔力が強く強敵だわ。恐らく… 大勢でかかっても苦戦するはず。リリアに渡した銀のクサビを心臓に刺せば倒せるけど… リリアも荒れ狂うミノタウロスを見たでしょ?現実的には不可能に近いの。…召喚魔物は召喚主が消滅したら消えてなくなるわ。銀のクサビなら私の心臓を…」シルキーがリリアをまっすぐに見つめて言う。
“ドックン”
リリアの心臓が大きな音を立てた。もらったクサビも何か意味があるとは思っていたが…
「バカ!シルキーの大馬鹿野郎!何がリリアなら、よ!そんなことリリアにできるわけないじゃん!無理だよ!… あたしを利用しないでよ!」リリアは怒る。
「… 私は覚悟できているの。人の世界産み落とされたしまった魔族… お願いリリア、終わりにして」シルキーは胸に手を当てながら目をつぶった。
「… シルキー…」
外では叫び声が聞こえる。
「マダムに代わり我々からもお願い申し上げます、マダム・リリア」
執事達が丁寧に頭を下げる。シルキーの命が尽きる時、彼らも崩れ去っていくことだろう。

「…あたし無理だよ… せっかく良い友達になれたと思ったのに、朝食一緒に食べたかったのに… なんか利用された感じだよ… シルキーの心臓を刺すなんて出来ないよ…」リリアは泣き出した。
「リリアは勇者でもあるんでしょ?勇者が魔人を退治する… 自然な事…」シルキー。
「皆自分の都合の良いときだけリリアを勇者、勇者って… かって過ぎるよ…」
リリアは思う。
確か召喚獣や使い魔が犯した罪は召喚主や主が引責する法律だったはずだ。
召喚主等に悪意が無かった場合、直接罪を犯した者が正気を失っていた証明が出来れば召喚主等も罪に問われない事はある。
ただ、シルキーが召喚したというミノタウロスは衛兵も含め既に複数名を惨殺している。シルキーが魔族という事もあり、罪に問われれば死刑だろう。
いや、どんな顛末だろうとリリアにはシルキーを刺せない。
リリアがシルキーを見る。
シルキーは再び目を開けると微笑みながらリリアを見つめ返した。
“大丈夫、怖がらないで”まるで促すように…
見ると執事達も穏やかに目礼をする。

「… なんで冒険者って皆そんなに潔いのよ! 逆に腹が立ってきたよ! シルキーを手にかけるくらいならリリアが牛に捻りつぶされたほうがましだよ! あいつは強敵だけど無敵や不滅じゃないんでしょ? ならリリアがやってやるわよ!弓があるなら持って来て!」
リリアが言うと執事達が素早く弓と矢筒を持って来てくれた。

リリアは受け取ると弓のしなりと弦を調べた。
“さすが良い弓つかってるのね、矢も十分”

「シルキー、覚悟している場合じゃないよ!悪あがきよ!リリアも死ぬ気でいくから手伝って!」
リリアは叫ぶとグイグイとシルキーの手を引いて壊れた窓から庭に出て行った。
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