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【207.5話】 ちびっこ勇者と魔王リリア ※街中に牛が出る前の話し※
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「ちょうど良い季節になったよねぇ」
リリアとラビはルーダ・コートの街の城外でシートを広げノンビリとお手製ランチを食べている。ピクニック気分。
「気持ち良いピョン、最高ピョン」大きな麦わら帽子のラビが答える。
今日は月一で開かれる青空教室の日。各冒険者ギルドから持ち回りでボランティアが子供達に武技や魔法を教える日。
ルーダの風から当番を一名出す日だ。ルーダの風は実質リリアしか冒険者活動していないのでリリア一択、たまにコトロがバード技術を教えに出るが基本的に郊外での活動はリリアの守備範囲。
「リリたんが教える日ピョン?外で過ごすならラビも見学がてら出るピョン」とラビが言うので季節も良くなったし青空教室前に丘までやってきて手作り弁当を食べて過ごす事にしたのだ。
ラビはタマゴサラダとビスケットを食べている。
リリアはホットドッグ。
「ラビは野菜中心だよね、健康的で偉いよね」リリアが言う。
「リリたんが野菜を食べなさすぎピョン、隙あらば肉料理ピョン」
「村は貧しくてポテトとネギとよくわからない葉っぱばっかりなだったんだよ。お肉は貴重品で街に来て働くようになったらお肉をお腹いっぱい食べるのが幸せになったんだよね」リリアが笑う。
「ラビはポテトとネギで十分ピョン」
「今度ウッソ村に連れて行ってあげるから一生そこでポテトとネギ食べて過ごしたらいいわよ。三日で飽きると思うけどね」
「ローズさんからウッソ村の人は変わり者ばかりって聞いたピョン」ラビは苦笑いする。
青く高くなった空に秋独特の小さな雲が浮かぶ。
シートを敷いて座っていると地面近くは少し蒸し暑さが残るが抜けていく風が心地よい。丘からみると畑は作物がギュウギュウ詰め状態で実り、整備された通りを荷馬車が行き交う。
「お!あれ生徒じゃないかな?」
リリアが言うのでラビが見ると門から路を横切って丘のほうに歩いて来る数名の子供達が見えた。
「もうそろそろクラスが始まるピョン?」ラビがリリアに聞く。
「まだだよ、早めに来て遊んでるんだよ」リリアはホットドッグを食べ終わるとティーを飲んでいる。
子供達は丘まで上がってきた。
「リリア先生、こんにちは」女の子達は行儀が良い。
「はいはぁぃ、今日もあなた達に神のご加護がありますように」
リリアは寝そべって挨拶を返している。マナーは見習えない…
ラビは苦笑いしながらリリアを見ている。
「リリたんは先生って呼ばれているピョン?」ラビが聞く。
「まぁ、ここでは皆何とか先生って呼ばれるよ」リリア。
「講師資格持ってるピョン?」
「いや、持ってないけど… 何て言うか… こんな時教える側を先生って呼んだりするんだよね」リリアは寝っ転がっている。
「あ!今日はリリアだ」「リリアかよ、弓しか教えられないじゃん」「俺、今日は魔法のクラスに参加だな」
男の子の挨拶はこんなもんだ。
「あんたら全員魔王に心臓取られちゃえ」リリアの挨拶も対応している。
「リリアのばーか!」「ヘボ勇者ぁ」「リリアこそ肥溜めに落ちちまえ」
どっちもどっちだ…
「… リリたん大人気ないピョン」ラビが苦笑い。
「生意気だよね、教育がなってないよ。親の顔が見てみたいよ。あんまり生意気だからこの前授業のふりして投げ飛ばしてやったわよ。リリア先生は人間の基礎から教え込むのよ。常識から教育よ」リリアは寝そべってビスケットをかじっている。
教室が開かれるにはまだ時間がる。そろそろ他の冒険者達も来る頃ではないか?
「俺が勇者エジンだ」「俺、剣士ロフト」「じゃ、俺賢者グラディアス」
子供達が集まってくると勇者ごっこが始まる。
この大陸では約100年前に世界を救ったとされる勇者エジンが勇者の定番。勇者のど真ん中をいく。
勇者エジンと名がつけば書物の売れ行きは約束される。関連書物、歴史考察物も売れ行き安泰、最近では“逆説・勇者エジンと仲間達(勇者エジンは本当に魔王を倒せたか)”等の逆説物が巷で静かな大ブームとなっている。
まぁ、それはとにかく、男の子が集まって勇者ごっことなると誰もが勇者エジンになりたがる。当然誰がエジンかでもめる。結構な確率で喧嘩勃発。勇者エジンと仲間たちのお陰で子供達の友情に亀裂が生じる。
「俺がエジン!」
「ずるいぞ!この前もおまえだっただろ、今度は俺だ」
「おまえはゾンビだ」
「魔物なら俺はウェアウルフがいい!」
「私、風使い少女ウテナやる」
「魔王とガーゴイル・ロード役は誰がやんだよ!」
まず役決めがごっこの大半を占める。役がようやく決まった頃に時間いっぱいになって終了することも珍しくはない。
たいていは喧嘩に発展する。もともと青空授業に参加する子達は武勇を誇りたい子だ。穏健、平和主義者とは言い難い。
「俺が勇者だ」「俺がエジンだ!」「勇者エジンより、魔法使いオレグの方が強い」「そんなのあるかよ!」
喧嘩に発展しだした。やんやの応援、止めに入る子供、騒ぎになっている。
「… リリたん、なんか… あれ止めなくて良いピョン?」ラビが子供達をみて心配している。
「えぇ?… あんなもんだよ。子供同士の喧嘩で死んだ子はいないよ。怪我だったらサリーが来たら治せるし、あたしもポーションは持ってるよ。子供だったら一本もあれば十分だよ」リリアはあまり気にしていないようだ。
「冒険者は皆大雑把ピョン」苦笑いのラビ。
子供達は大騒ぎしている。
武器を持っているとは言え、子供達の喧嘩で死人は出ないだろうが…
ラビはちょっとハラハラして見ている。
リリアは「ちょっと膝枕してよ」とラビに膝枕されながら寝っ転がっている。
子供達の騒ぎがいよいよ激化してきた。
“やれやれ”リリアはそんな調子で立ち上がって子供達に寄っていった。
「勇者ごっこなら別に勇者エジン一択じゃないでしょ。仲良く分担しなさいよ。実際全てチームワークなのよ」リリアは注意している。
「勇者と言ったらエジンだろ!」反論される。
「勇者だったらもっといるじゃない。勇者リリアやったらいいわよ」
「勇者リリア?聞いたことねぇよ」
「ジェフ、リリアは自分の事言ってんだぜ、リリアは勇者でも弓じゃねえかよ」
「はは!おまえなんか何にもできねぇじゃん、勇者リリアなんかだれもならねぇよ」
「魔法できない勇者は勇者じゃないって父ちゃん言ってたぜ」
子供達の喧嘩は収まり、一転、結束が生まれ友情が再び芽生え始めたようだ。
経過はどうだか知らんが、結果は凄いリリアのヒューマンマネージメント能力。
「… よし!勇者ごっこリリアも入るの!リリアは魔王役ね!さぁ、勇者達皆で魔王リリアにかかってこい!」
リリアはニコニコと子供達の輪に入っていった。
ラビが見ているとリリアは全力で子供達を片っ端からぶん投げ飛ばし始めた
リリアとラビはルーダ・コートの街の城外でシートを広げノンビリとお手製ランチを食べている。ピクニック気分。
「気持ち良いピョン、最高ピョン」大きな麦わら帽子のラビが答える。
今日は月一で開かれる青空教室の日。各冒険者ギルドから持ち回りでボランティアが子供達に武技や魔法を教える日。
ルーダの風から当番を一名出す日だ。ルーダの風は実質リリアしか冒険者活動していないのでリリア一択、たまにコトロがバード技術を教えに出るが基本的に郊外での活動はリリアの守備範囲。
「リリたんが教える日ピョン?外で過ごすならラビも見学がてら出るピョン」とラビが言うので季節も良くなったし青空教室前に丘までやってきて手作り弁当を食べて過ごす事にしたのだ。
ラビはタマゴサラダとビスケットを食べている。
リリアはホットドッグ。
「ラビは野菜中心だよね、健康的で偉いよね」リリアが言う。
「リリたんが野菜を食べなさすぎピョン、隙あらば肉料理ピョン」
「村は貧しくてポテトとネギとよくわからない葉っぱばっかりなだったんだよ。お肉は貴重品で街に来て働くようになったらお肉をお腹いっぱい食べるのが幸せになったんだよね」リリアが笑う。
「ラビはポテトとネギで十分ピョン」
「今度ウッソ村に連れて行ってあげるから一生そこでポテトとネギ食べて過ごしたらいいわよ。三日で飽きると思うけどね」
「ローズさんからウッソ村の人は変わり者ばかりって聞いたピョン」ラビは苦笑いする。
青く高くなった空に秋独特の小さな雲が浮かぶ。
シートを敷いて座っていると地面近くは少し蒸し暑さが残るが抜けていく風が心地よい。丘からみると畑は作物がギュウギュウ詰め状態で実り、整備された通りを荷馬車が行き交う。
「お!あれ生徒じゃないかな?」
リリアが言うのでラビが見ると門から路を横切って丘のほうに歩いて来る数名の子供達が見えた。
「もうそろそろクラスが始まるピョン?」ラビがリリアに聞く。
「まだだよ、早めに来て遊んでるんだよ」リリアはホットドッグを食べ終わるとティーを飲んでいる。
子供達は丘まで上がってきた。
「リリア先生、こんにちは」女の子達は行儀が良い。
「はいはぁぃ、今日もあなた達に神のご加護がありますように」
リリアは寝そべって挨拶を返している。マナーは見習えない…
ラビは苦笑いしながらリリアを見ている。
「リリたんは先生って呼ばれているピョン?」ラビが聞く。
「まぁ、ここでは皆何とか先生って呼ばれるよ」リリア。
「講師資格持ってるピョン?」
「いや、持ってないけど… 何て言うか… こんな時教える側を先生って呼んだりするんだよね」リリアは寝っ転がっている。
「あ!今日はリリアだ」「リリアかよ、弓しか教えられないじゃん」「俺、今日は魔法のクラスに参加だな」
男の子の挨拶はこんなもんだ。
「あんたら全員魔王に心臓取られちゃえ」リリアの挨拶も対応している。
「リリアのばーか!」「ヘボ勇者ぁ」「リリアこそ肥溜めに落ちちまえ」
どっちもどっちだ…
「… リリたん大人気ないピョン」ラビが苦笑い。
「生意気だよね、教育がなってないよ。親の顔が見てみたいよ。あんまり生意気だからこの前授業のふりして投げ飛ばしてやったわよ。リリア先生は人間の基礎から教え込むのよ。常識から教育よ」リリアは寝そべってビスケットをかじっている。
教室が開かれるにはまだ時間がる。そろそろ他の冒険者達も来る頃ではないか?
「俺が勇者エジンだ」「俺、剣士ロフト」「じゃ、俺賢者グラディアス」
子供達が集まってくると勇者ごっこが始まる。
この大陸では約100年前に世界を救ったとされる勇者エジンが勇者の定番。勇者のど真ん中をいく。
勇者エジンと名がつけば書物の売れ行きは約束される。関連書物、歴史考察物も売れ行き安泰、最近では“逆説・勇者エジンと仲間達(勇者エジンは本当に魔王を倒せたか)”等の逆説物が巷で静かな大ブームとなっている。
まぁ、それはとにかく、男の子が集まって勇者ごっことなると誰もが勇者エジンになりたがる。当然誰がエジンかでもめる。結構な確率で喧嘩勃発。勇者エジンと仲間たちのお陰で子供達の友情に亀裂が生じる。
「俺がエジン!」
「ずるいぞ!この前もおまえだっただろ、今度は俺だ」
「おまえはゾンビだ」
「魔物なら俺はウェアウルフがいい!」
「私、風使い少女ウテナやる」
「魔王とガーゴイル・ロード役は誰がやんだよ!」
まず役決めがごっこの大半を占める。役がようやく決まった頃に時間いっぱいになって終了することも珍しくはない。
たいていは喧嘩に発展する。もともと青空授業に参加する子達は武勇を誇りたい子だ。穏健、平和主義者とは言い難い。
「俺が勇者だ」「俺がエジンだ!」「勇者エジンより、魔法使いオレグの方が強い」「そんなのあるかよ!」
喧嘩に発展しだした。やんやの応援、止めに入る子供、騒ぎになっている。
「… リリたん、なんか… あれ止めなくて良いピョン?」ラビが子供達をみて心配している。
「えぇ?… あんなもんだよ。子供同士の喧嘩で死んだ子はいないよ。怪我だったらサリーが来たら治せるし、あたしもポーションは持ってるよ。子供だったら一本もあれば十分だよ」リリアはあまり気にしていないようだ。
「冒険者は皆大雑把ピョン」苦笑いのラビ。
子供達は大騒ぎしている。
武器を持っているとは言え、子供達の喧嘩で死人は出ないだろうが…
ラビはちょっとハラハラして見ている。
リリアは「ちょっと膝枕してよ」とラビに膝枕されながら寝っ転がっている。
子供達の騒ぎがいよいよ激化してきた。
“やれやれ”リリアはそんな調子で立ち上がって子供達に寄っていった。
「勇者ごっこなら別に勇者エジン一択じゃないでしょ。仲良く分担しなさいよ。実際全てチームワークなのよ」リリアは注意している。
「勇者と言ったらエジンだろ!」反論される。
「勇者だったらもっといるじゃない。勇者リリアやったらいいわよ」
「勇者リリア?聞いたことねぇよ」
「ジェフ、リリアは自分の事言ってんだぜ、リリアは勇者でも弓じゃねえかよ」
「はは!おまえなんか何にもできねぇじゃん、勇者リリアなんかだれもならねぇよ」
「魔法できない勇者は勇者じゃないって父ちゃん言ってたぜ」
子供達の喧嘩は収まり、一転、結束が生まれ友情が再び芽生え始めたようだ。
経過はどうだか知らんが、結果は凄いリリアのヒューマンマネージメント能力。
「… よし!勇者ごっこリリアも入るの!リリアは魔王役ね!さぁ、勇者達皆で魔王リリアにかかってこい!」
リリアはニコニコと子供達の輪に入っていった。
ラビが見ているとリリアは全力で子供達を片っ端からぶん投げ飛ばし始めた
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