勇者の血を継ぐ者

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【204.5話】 シルキー

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「マダム・リリア、朝食のご用意が出来ております。ゆっくりお休みのところ失礼かと存じますがマダム・ダスクアーナがせっかくなのでテーブルにご案内をと申しております。リリア様どうぞご朝食のお席に」
リリアは声を掛けられて鼻にかかるような小さなうなり声とともにノビノビと手足を伸ばした。
リリアが目覚めたのは立派なソファーの上、ブランケットの中、シルキーの執事に声を掛けられて眠そうに起き上がった。
「ふぁーん… もう朝なのね、このソファー寝心地最高!あたしの部屋のベッドより寝やすいんだけど。持って帰りたいくらいだよね。ブランケットまでかけてくれてありがとう」リリアはスッキリとした表情。
装飾されたワインレッドの大きなフカフカソファーに純白で肌触りのよいブランケット、メッチャぐっすり寝れたリリア。
「最近夜は少々冷えるようになったようです。お体に触られるかと存じまして」アンデッドの執事が答える。
「よし!トイレいったら食卓につくよ、あたし、この朝食を楽しみにしていたのよね、うっふっふ」リリアはニコニコとソファーを立つ。
「朝食を楽しみに?と申しますと?」執事が聞き返した。
「あ… いや、何でもないの、独り言、うっふっふ」リリアは適当に誤魔化した。

ここはシルキーの屋敷、昨晩はパーティーに出ていてそのままリリアはソファーで眠り込んでいた。もう招待客は全員帰っている。


シルキー・クリスティン・デ・チャチル 本名:ダスクアーナ それ以外は不明
(シルキー・ザ・トローラー 夜釣りのシルキーとも川辺のシルキーとも呼ばれる)
正確な本名はダスクアーナ、フルネームは教会のファーザーから貰っている
魔族の娘とされる

現在、ルーダ・コートの街の準貴族階級が多く住む地区の屋敷に住んでいる。

頭に羊の角を持つゴートマン種族に似ているが、シルキーの頭には天に向かって生える羊の角がついていたと言う。
恐らく事実なのだろうが教会に引き取られてすぐ角は切り取られてしまったようだ。
シルキーの頭には角の根元しか残っていない。

両親は不明、森の中で産声をあげるシルキーを旅の途中の聖職者に拾われてルーダ・コートの街の教会に引き取られたとされている。魔族の子は角が天にむかって生えていることが多く、母親の命と引き換えにこの世に招かれる事が多い。多くは語られていないがシルキーの場合もそうだったよう。
紺碧壇石と永遠の瞳石を有する立派なマジックワンドとともにファーザーに命を引き継がれたと語られる。
風習、宗教の違う土地なら魔族狩りの対象として即刻命を落としていただろうが、ルーダリアでは魔族も人間種として人権を認められており偏見は根強く残るもののシルキーは幸運にも教会に引き取られた。
本名はダスクアーナとされているが、種族のわかりやすい名前のため、透き通るような肌をもったダスクアーナはファーザーによってシルキーと名付けられた。
一般的に両親から本名を引き継ぐか、マジックワンド等に刻まれた言葉から本名とされる名前をつけるが、シルキーの場合はマジックワンドにそれらしい文字が見当たらず、両親も不明とされている点において確信的に本名が語られているのはかなり謎。

教会で身分を隠しながら大事に育てられたシルキーだが容姿から魔族の子と判断するのは難しい事ではなくかなり偏見の中で苦労して育ってきた。
シルキーは教会ではかなり高い教育を受けて育った。

強力な破壊魔法、幻惑魔法を使い、突然死の呪文も使いこなすと噂され、その反面蘇生、黄泉送り、鎮魂、呼び出し等、魂を扱える力を持っている。
武器を持たせたら接近戦も強く、無欠のファイターと言ってよい。
シルキーが九歳になる頃、教会に押し入った八名の強盗の心臓を弾き飛ばして、一度マジックワンドの所有を封印されている。
稀に見ぬ魔力の持ち主だが、本人曰く「あまり魔法を発揮すると折れた角が痛むの、本気出した事など一度もない」そうだ。

賢く勉強もでき魔力も相当だったが、生まれのせいで王国の学校には入学できず、王宮務めも出来なかった。
一六歳で冒険者ギルドに所属したが二年程で引退。
今では彷徨う魂を送る仕事を教会から請け負ったり、リクエストがあれば命を落とした兵士や冒険者の魂を呼び出して残された人と引き合わせる仕事をしている。

シルキーは年に数回不定期でパーティーを開いている。
現在あまり人前に出る事のない彼女にとっては唯一の社交のようだ。
大きく告知される事はなく聞き伝えた友人、知人を中心に二十~三十人前後の人が集まって食事、お酒と音楽を落ち着いて楽しむ立食スタイルとなっている。

リリアはシルキーのパーティーに出るのは今回が三回目。
最初にパーティーに出てシルキーに会うまでリリアはシルキーがトラウマを抱えたような人物を想像していたが、明るく控えめな笑顔が魅力的な女性であった。
「リリアね?背が高くてキュートな人ね、初めまして、楽しく過ごしていってね」
これがシルキーからリリアへの挨拶だった。
リリアは久々オークやオーガ女性以外で自分より背の高い女性に出会った。
一般的に魔力が強い種族は小柄だったり細身だが、シルキーは背が高くがっちり体系だった。
“やっぱり魔族なんだ”とリリアはちらっと思った。
シルキーはパーティー中、特にスピーチもなにもしない。輪の中心にもいなような人柄。ガーゴイルのガード、アンデッド、ゴーレムの執事が出迎える中、お客同士がかってに食事を始め、気がつくとシルキーが登場し、数刻皆と会話をして、いつの間にか会場から去っているのである。
リリアも最初はシルキーと挨拶程度の間柄だった。


「お!リリア、ちゃんと街に溶け込む恰好してるじゃん、出会い目的?」
夕刻アリスと一緒にリリアを迎えに来たペコがニヤニヤする。
リリアは街娘が着るようなロングのローブに白いグローブ姿。
「せっかく買ってあるからこういう服装もしないとね。ペコ達は良いわよね、魔法衣ってそのまま正装だものね」リリアはテレ笑いしている。
「お店が休みなら行きたかったですが… リリアは早く良い人見つけて勇者を引退してください」
「リリたん、そんな白いグローブしたらカレー飛ばして汚すニャン」
「リリたん、女性らしいピョン、ラビもそのうちパーティー行きたいピョン」
皆リリアの恰好を見てニヤニヤ見送る。
「勘違いしないでよね、あたし戦う恰好で行くのが嫌なだけだからね」
リリアは口を尖らせ少々照れながら出かけて行く。
弓は持っていないがホウキを手にしている。ちょっと変な恰好のお嬢さん。


で、リリア達はパーティーで楽しく過ごした。
豪華なダイニングルームで美味しい食事、風味の良いお酒、落ち着いた演奏、冒険者酒場のどんちゃん騒ぎと違った大人なパーティーが味わえる。
教会や商人関係の人も結構いるようだった。
屈強な冒険者達もここに招待されたら大人しく過ごしている。面倒を起こそうものならガーゴイルとゴーレムにつまみ出されかねない。それ以前にシルキーのパーティーをぶち壊そうなどもっての外。

「リリア大丈夫か?」
リリアは周囲に声を掛けられた。
リリアは焼き立てステーキと葡萄酒のグラスを手に目をしばしばさせている。
「お酒飲んだら… 眠くて眠くて… 瞼が床に落ちそうだよ」リリアはお疲れのようだ。
「私たち今日デュラハン退治から戻ってきたんだよ、リリアはちゃんとあの後休んだの?」ペコが聞く。
「夕方まで寝てたけど… お酒飲んだら…眠くなっちゃったよ…」リリアはしっかりとお肉を手に眠そう。
「まぁ、私もまだ疲れが抜けてないし、今日は無理しない方がいいよ、リリア」ペコ。
「うん… これ食べて、鹿肉のシチューを食べたらちょっと休憩してるよ」
リリアは眠そうに輪を離れていった。

次にペコがリリアを見たのは隅のソファーに横になって爆睡する姿。
ブランケットがかけられており、ブーツを脱いでリリアは熟睡中。
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