勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【204話】 シルキーのパーティー

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「皆、リリア戻りました!皆様に今日も神のご加護がありますように」
バー・ルーダの風のドアベルがリンリンと爽やかな音を立てた。
荷物を背負ってリリアがバーに戻ってきた。
リリアは斧と大きな包みを抱えている。
「や、コトロ」「皆様に神の祝福を」
続いてペコとアリスもバーに入る。
「お帰りなさい」
お昼を少し過ぎた時間帯、コトロ、ラビが三人を迎える。
「お昼にお店開けるようにしたの?ギルドの借金もだいぶ減っているんでしょ?何もそこまでがんばらなくても…」リリアが笑う。
「収穫祭が迫って、商人と旅行者が増えているのです。夜の食材でランチを開けたらお客さんが結構入って来ているのですよ」コトロがカウンター越しに答えた。
店内には数名のお客、それに混ざり冒険者ギルド“光陰“に所属するユイナもいる。
「ネーコはお休み?」ネーコが手伝っていないのでリリアが質問する。
「収穫祭が終わるまでランチを開ける予定ですが、ウチは夜が長いのでランチタイムはネーコとラビ、交代で手伝ってもらう事にしているんですよ」コトロが答える。
「ふーん… なるほどねぇ… まぁ、とにかくリリア達三人分のランチをお願いするわよ、お腹ペコペコなんだよね。あたし荷物を部屋に運ぶからペコ達は座ったら良いよ」リリア。
「ペコ達は先にギルドに戻って報告しなくてよいのですか?」コトロ。
「ここに寄り道する程度大丈夫よ。新人には許されないけどね。それにコトロがランチを作るならこっちを食べない手はないでしょ」
ペコとアリスがカウンターに座る。
「リリたん、その不気味な斧は何ピョン?また変なの拾ってきたピョン?」さっきから気になっていましたとばかりにラビが質問してきた。
「これ?これは今回の戦利品よ。デュラハンの宣告の斧。重いばっかりで大した事ないの。うっふっふ。そこで換金しようと思ったけど武器として大した値段じゃないんだって。コレクターズアイテムとしてオークションいかけた方が良いって言われて持って帰ってきたの。ギャレーナイフとして使ってもいいよ?」リリアが笑う。
「そんな大きなの… 料理に使いませんよ。だいたい首跳ねる斧ですよね。強盗の武器になりかねないからちゃんと部屋で管理してください」コトロが眉を顰める。

「それとね… 皆に見て欲しいの」
リリアは斧を置くと抱えていた大きな包みを開け始めた。
開ける時間ももどかしいと言った様子で包みを破いていく。厳重な油紙の下から絵がでてきた。
「ジャジャーン! リリアちゃんの油絵完成!ピエンに完成させてもらったの!ど?素敵でしょ?タイトルはドラゴンに乗る勇者!」
お客も含め一同が振り返った。
「おぉー、これは見事ですね、とても良い記念作品です。後でゆっくり見せてもらいますよ」
「すごいピョン!ラビたちも丁寧に描かれていて感動したピョン、ピエンさんさすがピョン」
「ほー、これは見事な絵だ」
その場の一同が感心する。
「帰り道ずうっとこれだよ、もう目をつぶってコピー品が描ける」ペコは苦笑いしている。
「とりあえず絵はここに置くから、あたし荷物を置いてくるね」
リリアはバーのテーブルに絵を置くと自分の部屋に荷物を持って上がっていった。


リリアが再びバーに下りると丸パンに卵料理とティーが用意してあった。美味しそう。
ペコ、アリスとユイナはカウンターに並び今回の仕事の話をしながら大笑いしている。もちろんリリアの失敗話しで盛り上がっている。
「ちょっと、何であたしの話しばっかりなのよ、ペコとアリスだって落馬したでしょ」
リリアは隣に座ってパンをかじりながら口を挟んだが全然気にしていないようだ。しきりに絵を眺めてはニヤニヤしている。
「リリア、あの絵はここに飾るのですか?」コトロが聞いてきた。
「んー… とりあえず故郷に持ち帰って父さんと母さんに見せて報告するつもりだよ。で、持ち帰ってきてここに飾るか… リリアの部屋に飾るか…」リリアがティーに口をつけながら答える。
「ウッソ村まで持って帰ってまた戻って来るのですか?気持ちはわかりますけど傷つけますし、太陽に当てるだけでも傷みます。油絵は繊細ですよ」コトロが注意する。
「… うーん… そうだよね… せっかくの作品だものね…」リリア。
「もう一枚ピエンに描いていただいて手持ちと故郷用にしていただくとか…」コトロ。
「忙しい中描いてもらったし、もう一枚となるとなかなか… ね… コピペ魔法で完全複製できるでしょ?」リリアは声をあげた。
「あぁ… 自分の絵ですし法律上は問題ないですけど、結構高い値段したと思いますよ」コトロは少し考えてから答える。
「平気へいき!高いったって家が建つほどじゃないでしょ?リリアちゃんこう見えても稼いでるのよ、コピペ魔法ってギルドの受け付けの子でもできるでしょ… えぇ?一枚の書類とレベルが違う?それに高い複製精度が要求される?… そうかぁ…けちりたくはないなぁ… 明日、リアルゴールドの人にでも相談してみるよ」リリアが食事をしながら答えている。

リリアは“ドラゴンに乗る勇者”を眺める。記念の作品、そしてブラックを思い出す。
街中は収穫祭に加え最近の好景気で明らかにバー・ルーダの風の前でも人通りが多くなっている。
リリアの首には母からのペンダントとブラックのプレートが下がっている。
時の流れを感じざるを得ない。勇者になってから全てがあっという間なような、一瞬一瞬が長いような…


「リリア!リリア!リリアって!」
「え?あ?ごめん!」
ペコに強く袖を引かれてリリアは我に返った。
「何ぼーっとしてるの、今夜シルキーの屋敷でパーティーがあるって、リリアも行くわよ。どうせ何にも予定はないんでしょ」ペコがリリアを見て言う。
「あぁ… シルキーのパーティー、行く行く!」リリアは明るく答えた。
見るとユイナは席を立つところ。
「リリア達は仕事でいなかったから知らなかったのね、今夜シルキーの屋敷でパーティーがあるから、時間があったら夜ね。コトロまたね」ユイナは大きなヒスイを宿したスタッフを手にバーから出ていくところ。

「今夜はシルキーのパーティーなら… あたししっかり昼寝しておくよ!」
リリアは決意に溢れた表情。
「よし… 私たちも帰って報告して少し休まないと。コトロ、ご馳走様!リリア、夕方迎えにくるからね、お疲れ様でした」
ペコとアリスも帰っていった。リリアも手を振る。

「よしっと!お腹いっぱいだし、昼寝には最高の天気だし、あたしも部屋で寝てるからね。コトロ、あんまり働くと倒れるわよ、その前にオーバーワークさせるブラックギルドとしてリリアちゃんが逮捕よ」リリアも笑って席を立つ。
「もうランチタイム過ぎたら夜まで休憩に入りますよ」コトロが言う。
ラビもドアにクローズサインを出している。

「リリア、9Gです。ランチ代三人分9Gなり」
「えぇ?お金取る気?」リリアが驚いて振り返る。
「むしろタダだと思っている事に驚きですよ。コトロ達?… 自然に帰ったので… とにかくリリアが払っておいてそっちはそっちでやってください」
コトロが伝票をヒラヒラさせている。
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