勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【196.5話】 リリアは気にしない

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ザシャナトバレー周囲にあるデュラハンの物とされるお墓。
お墓は小高い山にあり周辺は谷、狭間のようは地形になっている。窪地には池、沼、小川が多く、山を越えてくる湿った空地が冷やされて停滞するので霧が濃くかかっている事が多い。

リリア達はナト村に向かう道中、デュラハンのお墓に立ち寄った。

「ここからだと一帯が見渡せるね。あれがデュラハンの洋館ね?綺麗なところだよね」
リリアはお墓に花束を添えながら感想を述べる。
「もう昼もとっくに過ぎたから眺めが良いけど、朝は霧が立ち込めて山の中腹より下は見えないと思うよ」ペコが答える。
「小さな村と集落が点在しているみたいね。今回は数年ぶりにデュラハンが出るんだって。色んな村に出るけどナト村にでるのは… 最後に出たのは相当前のようよ」アリスが言う。
「未だに謎の多い魔物ですね。お墓があるのでアンデッドの様ですが、消滅しても再び形作られるので妖精類などのスピリッツのようでもあり… 霧の山中を騎乗している事も多いようです。今回は特に村から国に相談が寄せられたので国王の名の下でリリアに依頼されました」ディル。
「… 何が国王の名の下よ、顔も見せなかったじゃない…」リリア。
「王も忙しいのですよ」ディル。
「… 相変わらず相手にされてないんだね」ペコとアリス。

「で、リリアはさっきから何をしてるの?」ペコが眉を寄せてリリアに聞く。
リリアはT字状の物体を手にドスンドスンと墓地前で整地をしている。
「え?ちょっとでも出てき難いように地面を固めちゃうの!墓地から復活できなければ戦う必要ないでしょ」リリアは地面をドスドスしている。
「はぁ?あなた何を調査して来たの?ここはデュラハンのお墓とされているけど、スポーンポイントは洋館の庭、本人のお墓、血吸いの花、子泣き廃村周辺、霧の谷霊園、根腐りの大樹といくつもあるんだよ。以前は板を張ってみたり… とにかくリリアが思いつくような対策は散々してきてけど、出現自体を止めるのは不可能だよ。そんな事やっても何の意味も無いよ」ペコが呆れきっている。
「えぇ?… そうだったの?… 戦わずして勝つが今回のコンセプトだったんだけど… 実はお参りというかこのために来たんだけど…」リリアは残念がっている。

「…………」一同


とりえあず墓参りを終えてリリア達はナト村にイン。一年宣告の日の10日前にやってきた。
デュラハンは一年宣告をするのだが一週間前後のずれがある、けっこう気まぐれ。それに対応するためにリリア達は10日前に現地入り。

「あれ?え? なんか…こんな感じなの?なんか… もっと…こう… ボヤっとした霧の中で薄暗いような、笑い声も通らないような雰囲気の中、住民がブルブル震え、予告された家族がメソメソして… 手を広げた枯れ木でカラスがいっぱい止まってるようなのを想像したけど… 何か全然違う…」
ディルハンに一年宣告された村に着いたリリア達、想像していたのとは村の雰囲気が全然違う。
十件余りの軒が並ぶ村人の表情にはあまり悲痛さはない。もちろん宣告を受けた家族は深刻ではあるが「まぁ、何とかなるかな?」とどこか他人事っぽい。

「勇者リリアです。国王の命によりこの村に災いをなすディルハンを撃退しに来ました」
リリアが村人の一人に挨拶をする。小さい村なので村長などはいないようだ。
「あぁ、これはこれは勇者様ですか!お待ちしておりました。間もなくディルハンの一年宣告の日なので少々取り込んでいます」村人が明るく答える。
見ると村には“ナト村にようこそ!”、”ディルハン来る“、”ディルハン・フェスティバル“等幕が出され、明らかに村人以外がうろついている。
数年ぶりにデュラハンが出没するので村は見物人が集まり始め、村人はそれらを相手に商売を始めているようだ。すっかりお祭り気分。

「最近、退治がお祭り騒ぎになっているって聞いていたけど本当だね」ペコが何とも言えない表情をしている。
「宣言して来るわけだから… わざわざ人の興味をくすぐっているようなものですからね」アリスも少々困惑気味。
「深刻そのものの雰囲気よりはましですが… 現状はこのような感じなのですね… ところでリリア…」
一同がリリアを振り返る…

「ねぇねぇ!デュラハン饅頭が売ってるよ!何でお土産って饅頭なんだろうねぇ。焼きたてが出来たって!リリアが皆にご馳走するよ、デュラハン饅頭食べてみようよ! こっちはデュラハンって書いた木彫り、デュラハンの宣告の斧のレプリカだって!デュラハン1/16フィギュア(首の脱着可能)だって。すごいね!皆商魂たくましいね。ルーダリアの未来は安心だね」
リリアはお土産屋で嬉々としてアイテムを眺めている。

「… あんた何やってんの? とにかく宣告を受けている家族に会うわよ…」
デュラハン以上に奇行が目立つ公認勇者に飽きれる一同…
「依頼をされたのはダノン家、登録された村ではないので詳細は不明ですが、父、母、娘と祖父の四人暮らしのご家庭のようです」ディルが集落になる一戸を指す。

で、宣告を受けた家にリリア達は訪ねてみた。
「こんにちは、皆様に神のご加護がありますよう… えぇ?…なんであんた達がいるのよ」
リリア達がダノン家を訪ねるとギルド“繋がれていない犬達”のメンバーが3名がダノン一家を匿っている。
「おう!へぼ勇者来たのか!何しに来た!今回は俺達ドッグスがダノン家を保護する。弓だけのへぼはとっとと帰りやがれ!」
オークのオルベレンが鼻息荒い。
「ちょっと、こっちは国王の命令よ、あんた達こそ出ていきなさいよ。これは王国の命令に対する明白な違反よ」ペコも負けてはいない。
「何が違反だ!チビ魔法使い、おまえには用はねぇぞ。へぼ弓勇者に言ってんだ!引っ込んでろ!!」
ドッグスのメンバーが威嚇するが連中もペコ、アリスコンビと直接対決は可能なら避けたいようだ。リリアにけしかける、一触即発のムードになってきた。
デュラハン退治の前にリリアのドッグス退治が始まりかねない…
いや、退治するならまだしも、リリアではドッグスに退治されかねない…
ダカットが心配してリリアを見ると案外澄ましている。

「よし!任せた!ってか、任せるけどダノンさんに危険が無いように見てる。デュラハンは好きにしたらいいよ。皆、宿はないから馬車で野営の準備しようよ。夕ご飯は厚切りベーコンのポテトサラダを作るよ」リリアはニッコリ微笑むとさっさと家を出てしまった。


「ちょっと、リリア!いいのあんな連中にのさばらせて。リリアが王様から引き受けたクエストでしょ。なんで引き下がってきたの?」ペコは明らかに不満。
「リリア、ビビらなくてもあの連中なら私とペコで料理可能よ」アリスは微笑んでいる。
リリアは馬車に戻るとキャンプの準備に入った。
「いいじゃない、あいつらやりたいなら勝手にやったいいよ。あたしの仕事はダノンさんの安全を守ることだよ。デュラハンが撃退されてダノンさんに何の危害も及ばないなら別に痛い思いしたくないじゃない。でしょ? ディル、ダノンさんが無事ならそれで良いんでしょ?」リリアはドッグスの事等全然意に介していないようだ。
「まぁ、ダノンさんの無事が約束されるならデュラハンを誰が倒すか自体は大して問題ではないですが…」ディルが答える。
「ね?あたしの仕事は国民の命と財産を守ることなんだよね。あいつらにやってもらったらそれでいいよ、それよりあたしポテサラ作るからアリスにお肉料理、ペコにご飯を炊く準備して欲しいんだよね」

「……」一同は顔を見合わせる

馬車の側を子供達がトンボを追いかけて駆け抜けていった。
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