勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【197話】 ナト村のクラスター

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「なんか色んな意味ですごいね…」
ナト村周辺の見回りを終えて戻ってきたペコとアリスは集落の様子を見て一言。

リリア達は集落に到着してから3日程経った。宣告の日まであと6日、デュラハン見物人が結構集落に詰め掛けている。
デュラハンを一目見ようと集まってきた暇な人、デュラハンを撃退して名をあげようとする者、ギルドの宣伝にしようとする者、先輩に言われて腕試しに来た者、情報紙の人、全員合わせると集落に住み人の数を完全に凌駕している。
物語に出てくるような閑散とし、寂し気で悲し気な雰囲気等微塵もない。饅頭が売られ、限定販売品が並び、出店が並んで飲み食いできる、完全にデュラハンフェスティバルとなって、見物人が今か今かと待っている。
「日に日に人が増えているけど当日はもっとすごいんだろうね」
集落の入り口にある“元祖デュラハン出没の村”と書かれた用弾幕をくぐりながらペコとアリスが頷きあう。


「リリアは… 何かやってるんだけど…」
ペコがリリアをみつけると、リリアは屋台の前でメイド服を着て呼び込みをしている。
「返答次第は少し痛い思いをさせましょう」アリスは微笑む。

「お!ペコ、アリス、見回り終了?異常無しでしょ? え?あたし?うん、ネロネコさんに頼まれてデュラハン饅頭を売ってるの。色々お店が真似してるけど、ネロネコさん饅頭が元祖で伝統の味を守り続けてるんだって。 …何が?…あたしが? 何かね、売り子が可愛いと饅頭が売れるからリリアにやってくれって、正直かわいい子で釣って売るのがポイントで味は買った後の話し、二の次三の次で良いって、言われてみればそうだよね、買ってもらえないと味どころじゃないよね。しかしネロネコさん見る目あるよね、リリアに目を付けるなんて、うっふっふ」リリアはメイド服をヒラヒラさせながらちょっとドヤ顔している。
「言葉の端々までツッコミどころだらけで物も言えないわ…」ペコが呆れる。
「リリア、非番と言っても待機するのも仕事の一つよ、その恰好で緊急出動できると思う?真面目に仕事しないなら私たちも帰るわよ」アリスが微笑む。
「えぇ… わかったよネロネコさんに断って来るよ」リリア。


デュラハンの宣告の日まで残り三日
観光客が増え、石を投げたら住民より野次馬に当たる状態。
「デュラハンが予告なんかするからこんな事になるんだよねぇ… 次からさっと来てパッ帰ったらいいよ」ペコが何とも言えない表情。
「情報の力ね… リリア、大勢いるからって気を抜いちゃだめよ」アリス。
「大丈夫だよ、今からだってデュラハンと戦えるって… それより午後の対戦はギルド・ゴーントレットのレネードだよ、そっちの方が問題だよ」リリアは心配している。
もやはデュラハンは問題ではないようだ…

数日前から午後に武闘会が数試合組まれていた。
我こそはデュラハンを撃退すると名乗り出る冒険者とギルドが増えすぎたのだ。
ダノン家の安全は保障されているが、誰がデュラハンを撃退するかで権利争いと喧嘩が始まった。
デュラハンを撃退する者達によるデュラハンを撃退する権利を巡ってデュラハンを撃退する者同士を撃退しなければならない奇妙奇天烈な展開に発展しだした。
全員でデュラハンを相手にしたのでは一瞬でデュラハンを撃退してしまうであろう。
ダノン家の安全を保障しデュラハンにお帰り願うのであるから、そうあるべきなのだが「俺達があいつを倒した」という称号を手に入れるには活動内容をシンプルに保たなければならない。当然「俺がやる」と主張しあうこととなる。
そこでデュラハン出現の日までデュラハン挑戦権をかけて総当たりで試合をしようとなったのだ。
簡単な決闘ルールが決められ、試合が組まれ、午後から数戦行われる。
これがイベントとしては大当たりしている。試合の時間になると集落外れは人だかりができ、賭け事が成立して大盛況。
デュラハンの出現の日は前後にずれがあり、娯楽の無い田舎でかなり時間を持て余す観光者にとってまたとない余興。試合はかなりの盛り上がりを見せている。

「はぁ?デュラハンの撃退権を賭けて試合をするの?リリアは出ないよ、だって誰がやっても一緒でしょ、あたしやらない」
リリアは試合を辞退していたがペコ達に「代表者を決めて戦うんだって… やらない?…何バカな事言ってるの?リリアの仕事でしょ?私たちが出るはおかしでしょ」ペコとアリス。
ごもっとも…
結局「勇者様に是非参加していただかないと、大会の顔ですから!」と利益にあずかりたい周囲の声と「おぅ、やっぱり代表として勇者リリアだろう」とペコ、アリスより勝率を見込める対戦者達に上手い事丸め込まれリリアが試合することになった。

で、リリアは今日まで四戦して一勝三敗…
何とも言えないショッパイ成績。
勇者リリアとして最初は人気があったものの初戦をあっさり落とし連敗中も酷い試合内容。
今ではすっかりオッズが201倍と大穴となってしまった。
因みに一勝は対戦相手が魔物退治で試合時間に間に合わず不戦勝。
「不得意の接近戦ってこともあるし仕方ないよね」ペコ
「もともとデュラハンと戦うこと自体に消極的だったし」アリス。
しかし、リリア本人は試合に負けるとかなり悔しそうにしている。やるとなったら本気のようだ。良い事なのだが…
「本気出してあの試合内容かよ… 散々だな」ダカットが呟く。
「勇者としてこういう試合は慎むべきなのですが…」ディル。
「ディルいたんだったね」一同

この日、リリアはレネードに負けて連敗脱出ならず。オッズは512倍まで下がる。
「もう自力での挑戦権は無くなったよ。私たちいったい何しに来たんだろうね」ペコが呟く。
悔し泣きしがら試合から戻ってきたリリアにアリスが「技術が無いなら頭を使って戦いなさい、今日は治癒抜きよ」伝えている。
「いったいどうなってるんだ、このクエスト」ダカットが呟く。


この日の夕方
いつのまにやらどこからか発生した「デュラハン撃退を目的とする商工会」を名乗る組織からに冒険者一同は集められた。当然リリアも集合。
「デュラハン退治は勇者リリア殿に一任する」と“デュラハン撃退を目的とする商工会会長”から告げられた。
理由は“勇者vsデュラハン”とブランドで攻めるのが一番人を呼べるからだそうだ。
当然冒険者達からは不満の声が上がり大荒れのミーティングとなった。
「ふじゃけんじゃねぇぞ!おまえらが勝手に決めるな!」
良く考えれば大会で勝った者が挑戦権を得る発想自体も「何の権利があって?」って話なのだが…
当然デュラハン挑戦権獲得総当たり武闘会のトップを快走していた“繋がれていない犬達“は猛反発。
猛反発に賛同して反発する者、武闘会自体が正当な物ではないと反発する者、反発はさておきとにかく反発する者、この気に会長に取りいって有利に立とうと反発者に反発する者、大混乱している。
「あたし別に挑戦権とか要らないよ!やりたい人がやったらいいじゃない!ダノン家が危ない時だけ戦うから戦いたい人勝手にやってよ!」
リリアはかなり独自目線で反発路線をいく。

デュラハンが来る前にデュラハン退治側で何事が起きているのかわからず不安になる集落の人とダノン家。

「なんじゃこれ、アホの集団感染になると嫌だからちょっと離れようよ」
ペコとアリスは冷静。

「あたし、一勝四敗だよ!オッズが500倍以上なんだよ!デュラハンと戦うには相応しくないよ!リリアは嫌だよ!」
勇者リリアはいかに自分が弱者であるか声高らかに、凛として主張している。


「アホのクラスター発生だね…」ペコが夕日の中呟く
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