勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【178話】 リリアとギルド・アーマー&ローブ

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「ゴードンとバレンシア?確かアーマー&ローブの見習いさんだったよね。ギルドがリリアを呼んでる?手伝って欲しい?」
用水路の周辺でスライムが湧いているというので掃除仕事をして帰ってきたリリア。
バー・ルーダの風に戻ると若い冒険者の男女がお使いでリリアを待っていた。
ギルド・アーマー&ローブと言ったら物理、魔法の手練れを有しペコとアリスが所属する大きな冒険者ギルドだ。
こう言っては失礼だが、リリア等を頼らなくとも事件を解決できるメンバーは十分いるはず…
「珍しいですね。ペコがリリアを頼る案を出したようですよ… 頼られるのは良いことです。行ってあげてください」コトロが言う。


ブラックの葬礼を行った後のリリア。
ショックで数日寝込んでいた。これは仕方がないことだ。精神的なものもあるだろうし葬礼が終わり一気に緊張感が緩んだ事もあるだろう。コトロも誰も何も言わなかった。
しかし、リリアは少し成長したのか自覚ができたのか、数日すると調子を落としていながらも自ら少しづつ活動再開を始めた。
「部屋でじっとしているより何かした方が元気がでるよ」とリリア言いながら、街中の仕事を引き受け、ネーコやラビを誘って遊びに出ていた。
「はぁ?何楽な仕事ばっかりやってるのよ!もっと外に出るわよ」たまにペコとアリスがやってきて強制的に仕事に参加させていたが、今回はあまり粗治療を必要としないようだった。
リリアは気分転換に遊びに出て、そこそこ仕事して、たまにペコ達に付き合わされていた。
「えぇ?朝、城門前に集合しないとリリアの足がトードの足になっちゃうの?」
たまにアリスに契約のスクロールに署名させられそうになりながらもなんだかんだ一緒に出掛けていた。確かに魔物を夢中で倒したりすることによりリリアも調子を上げてきている様だった。


そんなある日、アーマー&ローブの見習いがリリアを迎えに来た。
「今、アーマー&ローブってギルドを上げて大物取りしてるんじゃなかった?ウルグタルスを倒しに出ているとか聞いたけど… まぁ、リリアちゃんの力が必用なら行くわよ。国民の命と財産を守るのがリリアの務め、行くわよ!… えぇ?今から出るの?いきなり過ぎない?急ぎ?馬車で迎えに来たから乗ってくれ?… ちょっと待ってね支度してくる。それってあの立派な軍用車みたいな馬車に乗れるの?すぐ支度するから!… あぁ、あれは出せないから荷馬車で来たの… ぼちぼち支度するから待ってなさいよ…」
こうしてリリアはペコ達の手伝いに出かけた。


さて、大急ぎで現場入りしたリリア。
「新人さん、剣はまぁまぁね、魔法もいいけど弓も覚えないとね。リリア先輩がいつでも弓を教えてあげる」
リリアはそんな事を言いながら馬車から下りてきた。

ここは場所的にはリリアがフリート帝都に勇者のルーツを知る旅に出たダニヤ王国国境付近。そのもっと辺鄙な荒れ地が広がった場所。
リリアが馬車を下りると大小のテントが張ってあり、アーマー&ローブのメンバーがウロウロしている。軍隊の様に機能的に設営されていて、人もキビキビとしている。事件の緊張感のせいだけではないようだ。
小雨上がりの天気、リリアは大きなテントの中に迎え入れられた。ギルド幹部とペコ、アリスがいる。
「皆様に神のご加護がありますように、勇者リリアちゃんがわざわざやって来ました」
リリアがニコニコと挨拶したが誰も笑わない。ピリピリしている。
「ニャン子、ピョン子、キャンプと言ったらカレーよね」ってな雰囲気のギルド・ルーダの風とは大違い。
「… あぁ… えー… ゴードン達から話はだいたい聞いたけど、もう一度説明をお願いしますね…」

説明は以下
ウルグタルス(通称ヤギのウルグス)という人物がかつてアーマー&ローブに所属していた。
「アーマー&ローブのウルグスでしょ?聞いたことあるよ、結構な実力者だったんでしょ?」リリア。
ギルドでも実力トップ、研究熱心な貴族出身のルーンマスターだったようだ。治癒、破壊魔法等より、幻影や精神操作等の難しい分野に熱心で、一人で一系統の魔法を研究するより必要に応じて他人の実力を自分自身に発揮できる魔法の研究に夢中だったらしい。
成果も上がっていた。ウルグスは魔法により他人の剣技、魔術等を実際にコピーして実演してみせた。
ある時ウルグスは「もう少し効率的に成果をあげる方法を試したい」と二週間程旅に出た。
旅から戻って来たウルグスは確かに能力の向上を果たしていた。何故かヤギの皮を頭からかぶるようになっていた。一部の黒魔術士のそれに近い姿。
その後、ウルグスの言動は日に日に常軌を逸したものとなり、ある日ギルメンと街人を殺傷してどこかに逃げ去ったという人物。

これはリリアが冒険者になる数年前の話しだ。
有名な事件でちょこちょこ噂を耳にしている。「ヤギのウルグスをどこそこで見た」「何々はヤギのウルグスの仕業だ」等と事件があると度々耳にする名前。
身を隠して魔法の研究を続けては研究材料と実験のために猟奇的な事件を繰り返し、どうやら北の荒れ地のどこかに身を潜めているという噂から「荒れ地の魔男」とも呼ばれている。
アーマー&ローブのメンバーは「仲間の始末は自分たちの手で」を合言葉に事件を追い続けていた。
「ウルグスの居場所を突き止めた。今度こそ追い詰めるわ。ギルドの汚名を晴らす時よ」とペコとアリスが出かける前にルーダの風に来て話していたのが十日程前だっただろうか?
ついに荒れ地でウルグスの隠れ家を発見したペコ達はギルド総出で決着をつけに出動したが、ウルグスの魔力の前に犠牲者を出し膠着状態になっている。

リリアはその説明を「ウムウム」と頻りにコクコク頷きながら聞いていた。
ダカットがリリアを見るといつになく冷静に見て取れる。
「ヤギのウルグスって荒れ地の魔女とも言われている人だよね?… え?男ね? 荒れ地の魔女は発言的にまずい?有名な物語がある?… そっか、どうりで名前が男っぽいと思ってたよ。 その… 荒れ地の魔…男… マオトコ? え? マオトコじゃないの? マオトコは荒れ地にはいない?町や村で人妻の家にエンカウントするのがマオトコ? マダンって言うのね… だいたいマジョと呼ぶんだから音読みに決まっている?… 何なの!リリアの最終学歴がウッソ村自然と調和の教会だからってバカにするの! アーマー&ローブは人を遥か彼方の地に呼び出しておいてバカにしてるのか! 今はリリアが質問しようとしるのよ!黙って聞きなさいよ!」リリアは気色ばんでいる。
「あのアホビッチ勇者、私が呼び出したんじゃなければ炙り倒したい」ペコが歯噛みをする。
「今回はリリアに頼るのは確かよ。呼び出したのは事実だし、リリアにも一理あるわ。ペコ我慢よ」アリスが微笑む。

「その辺りまではゴードン達から聞いたよ。 それで…リリアにウルグスの退治を手伝って欲しいの?… ふーん… なんでリリアが…」
リリアは少し首を傾げながらテントに居並ぶ幹部連中の顔をマジマジ見ている。
ダカットは最近リリアに連れられるようになったのでわからないが、幹部連中はどいつも実力者のオーラーを出している。聞いたことある名前、見たことある顔、フルアーマーの男、魔導士、精霊術師、ダカットまで魔力が伝わってくる。
失礼な話だが連中に欠けていてリリアが補える実力があるとは思えない。
ダカットは不思議に思っている…

ダカットがリリアを見るとさすがにリリアでも疑問に思っているようだ。しかし、ウムっと頷くとリリアは納得の表情になった。
「わかったわ!もちろん手伝う。国民の命と財産を守るのがリリアの仕事なの。国民と国の安全を害する事を排除するのも勇者の務めよ!皆、泥船に乗った気でいて!」

そして口をキュっとして何か決心をした表情でリリアは続けた…
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