勇者の血を継ぐ者

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【177話】 勇者の血を継がなかった者

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「コトロ… 煤だらけで真っ黒だよ… あ、あたしもか… ニャン、ピョン無事ね… ピエン… えぇ?ピエンも消火手伝ってたの?… 何も…素人なんだから…」
リリアが少し微笑む。コトロがしっかりとホウキを持っている。
「… ブラックはまだ何かしているの?… 治癒中かな?かなり犠牲者出てるのかなぁ…」リリアが心配する。

「………………」
「…ねぇ… ブラックは治癒中でしょ?… それとも怪我でもした?…  …ねぇ… ねぇったら!!」
「……… リリア… …… この村には教会がなく… 今、ブラックは集会所にいます…」コトロが声を絞り出すように言った。
「…… 教会?… 嘘… だって、自分で治癒できるじゃないの! ブラックはオールラウンダーでしょ!万が一にもあり得ないよ!」
「リリア!落ち着いてください!… リリアも結構な怪我ですよ! もう何も変わりません… 今からではもう何も出来ないです!落ち着いて!」
皆でリリアを押さえつける。
「ポーションは?魔法は?… だってあれだけの実力者よ!そんな簡単に… 放してよ!… 嘘よ!絶対にそんな事あるわけないよ!」
「後で会えますから! 今、村の人が綺麗にして近くの教会がある村まで行く準備しています」
「そんなの嘘だよ!だって… そ、そうよ!彼は死亡の際に蘇生を希望するにレ点してたよ!早く!皆早く教会に連れて行くよ! ちょっと!放してって!」
「落ち着いてください!見つかった時には子供を抱えて酷い状態で! もう無理なんです! ………死亡の際に蘇生を希望するのレ点は無かったんです!」
コトロが衝撃の一言を発した。
「嘘だよ!あたし見たよ、ブラックがギルドに来た時に冒険者証にレ点されてたよ!早く教会に連れて行くべきよ! ちょっと放しなさいよ!」
リリアが暴れるのを皆で押さえつける。
「とにかくリリアは落ち着いて!… ブラックはレ点を外したみたいなんですよ… 一度… 先輩が…リリアがあれだけ人のためになれるのは一回の命を大事にできるからだ…とか言っていたことがありまして… それで… たぶんレ点を外して申請しなおしたと思います…」コトロが説明する。
「…… そんなの… リリア聞いてないよ… リリアがレ点していないの自然と調和の神が第一信仰だからだよ… なんで… そんな…  そうだ!そうだよ!とにかく蘇生してもらおう!出来るよ!早く!教会よ!蘇生よ!」
「無理ですよ!!リリアも冒険者ならわかってるでしょ!それは神への冒涜です。神も教会も受け入れません、本人の魂も穢れるだけです…… 本人だって呼び戻されても困ると思います…」
「リリア、ブラックは火事と知って俺と一緒に飛び出して… 村人を救えるだけ救って…そしたら俺が燃えちゃいけないって馬車にしまってくれたんだ。そこから俺は馬車にいたからわからいけど… しばらくしたら厩も駐車場も燃え出して… 馬車にも火が着いて…あっという間に火が回り始めて、荷物も食料も全部火が回り始めて… もうダメかと覚悟したよ。そしたら真っ黒なったブラックが飛び込んできて俺と… リリアがドラゴンに乗った絵を火の車から持ち出してくれて… 俺と絵を避難させたらまた救助活動に戻って行ったよ」ダカットが小さな声で説明してくれた。
「リリアが… 完成を楽しみにしている絵を燃やすわけにはいかいって… 是非完成を見たいって… とっても良い絵だって… 少し焼けて傷になったけどほぼ無事だったよ…」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ、嘘でしょ!皆、嘘だって言ってよおぉぉぉぉぉ!」
ダカットの説明を最後まで聞いていたリリアは大声で泣き始めた…



パウロ・コートから街道を外れ南西に進むとブラキオーネと言う村がある。
村にしては格式の高い名前だ。
時が経ちルーダリア王国も発展しているが、大きな街道からは外れにある村で小さな村だ。
ルーダリアの国境が付近だった時は兵士達が行き交いブラキオーネの村もそれなりだったらしいが、国境が遠のいて後はすっかり寂れている。
かつては登録村だったが基準を下回ってしまっている。まぁ規模は基準を満たしていないがお役人仕事でそのままの状態のようだ。とっても珍しい村。
かつてはウィルと呼ばれていた村もだいぶ前に村人の申請でブラキオーネ村と正式名を変えている。
大そうな名前なので役人が聞き返すと「大火事災害の時に村人の多くを救ってくれた英雄の名前を村に残したい」との答えだったそうだ。
ウィル村等は正式名というより人がそう呼んでいる程度のものなので、申請と同時に正式名はブラキオーネ村とされた。役人としては地方の小さな村の名前なんてどうでもよい事。
村の入り口には英雄ブラキオーネの名前が入った石碑があると言う。



フリート帝国の帝都から北に上がるとシャントンと言う町があり周辺に小さな村が点在している。
その中の村の一つのとある教会の墓地、とある墓石…
そのお墓を立てる経緯には教会に言い伝えがある。

かつてルーダリアから勇者を名乗る女冒険者が来たそうだ。
仲間と数名で旅をしてきて、わずかな情報を頼りに付近の村々を訪ねて回ってやって来たらしい。
女勇者曰く遠い地で没した仲間を祭りに故郷までやって来たというのだ。時間が経ってしまったがようやく連れてこられたという。
女は遺品を出し、事情を説明し墓石に“勇者ブラキオーネ”と刻むように懇願したそうだ。
フリートでは勇者の地位は特別な物で勇者の血筋でもない者にかってに与えられないと当時のファーザーは諭した。ところが…
その女勇者はファーザーが頷くまで引かなかった。
ファーザーはとうとう根負けして、小さな村で帝国に見つかる事もないだろうと小さい文字で入れる条件で墓石を作ったという。

その村には勇者の血筋で無い勇者が両親と共に永眠しているという。

“生を受けし日より~702”
“勇者ブラキオーネ・ロードス・マグレンティ”と刻銘され“先輩より尊敬を込めて”と彫られている。

誰にも見向きもされないお墓が無名な村にあると言う。
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