勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【160.5話】 女神リリア ※159.5話の続き※

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「後ろ?屋根の上? わかってるわよ! 矢を出来るだけセーブしたいの!… いちいちうるさいわよ!小姑みたいに、ホウキの分際で… 黙ってて!」
全身クモの巣を張り付けたポニーテールの女が大きな独り言を言いながら弓を射ている。
「うっす!先輩、重傷者は背負ったっす。ポーションの力で回復中を確認っす。準備OKっす」
これまたクモの巣だらけの偉丈夫がクロードを背負って戸口に立つ。

「… み、み、皆、行くぞ!逃げ遅れたら本当にクモの餌だ!立て!立つんだ!」
我に返ったアーサーはテスロットとアンジェリカの引っ張り立たせた。
二人ともあっけに取られているが立ち上がると目に幾分か力が入ったようだ。

「皆さん、自分は怪我人を担いで攻撃は出来ないっす。これを飲んでとにかく走るっす」
デカい男は素早く、アイテム袋から紫の小瓶をアーサー達に渡してくれた。気力と体力を同時に回復するポーション。少しは元気が出るだろう。三人は反射的にビンを開けると一気に口に流し込んだ。
「まだよ!まだ出ないで!……… 今!GOよ!ダッシュ!」
表で弓を射ている女からGOサインが出た。全員夢中になって廃屋を飛び出す。

アーサーは廃屋を飛び出して、女を追い越す一瞬に見たその女性の姿を一生忘れることは無いと思った。
ポニーテールを流し、振り返りざまに射る女性の表情…
今まで壁画で見てきたいかなる女神より気高く、美しく、愛らしく目の奥に焼き付いた。
何故かホウキを背負っていた…
「神よ!リリアにご加護を!」
矢と共に放たれた声が心をくすぐった。
その後は夢中になって走った。
そこから先の記憶はほとんどない…


アーサーが次に記憶が戻ったのは村外れだった。
村のシェリフと冒険者達が大勢集まっていた。自分は毛布にくるまって、ホットミルク酒のカップを手にしている。震えが止まらず、カップのミルクに鼻水が垂れていた。
クロードも毛布にくるまっているが治癒術士が傍で回復を行っている。顔色が良くなった、もう大丈夫。
テスロットも草の上で呆然としている。失禁しているようだ…それがどうした…
“… 俺もか…”
アーサーも自分の下半身が踵までぐっしょりとしている事に気が付いた。
それがどうした…
「うひゃ、うひゃひゃひゃひゃ… クモよ!こぉぉんなにいっぱいクモ、私見たのよ目がいっぱいあったのよぉ~クモだらけぇうひゃひゃひゃひゃ…」
アンジェリカはすっかり取り乱している。失禁して目を回し、白目を剥いて鼻水と涎をまき散らし緩み切った表情で舌をべろべろさせながら笑っている。
ウチの“新人実力派美人ルーンマスター”の影は無い。
ショックによる一過性の錯乱だ、何も問題無い…
アンジェは周りの冒険者に取り押さえられて、気力のポーションと幻想薬を口に押し込まれ、スリープの呪文で眠らされていた。

ギルドの先輩冒険者もウロウロしている。こちらに来て非を叱る者、生還を喜ぶ者、様々…

“あれは…”
アーサーは騒がしい一団が近づいて来るのに気が付いた。
数名が騒ぎながら移動している。
ポニーテールのレンジャーとデカい奴。
「よくやった、全員無事だぞ」「あんたコトロのところの娘でしょ?何考えてるの!」「飛び込んで行って、命知らずめ!」「救出できたな、よかったぜ」
賛否両論の渦が移動していて、ポニーテールは抱えられるような手を引かれるような体で移動している。
「とにかく… お風呂入りたいよ、髪の毛がベタベタなの。目にクモの巣が入って痛いよ… 体中ネトネト。賞賛なら今夜乾杯しながらゆっくり遠慮なく聞くから…気が済むまでたっぷりリリアちゃんを褒めたたえたらいいわよ… それよりお風呂よお風呂」
騒がしい一団は村の方に去っていった。
両目が紫に腫れあがっていた。美人が台無しだ…


宿屋の夜
アーサーが宿の食堂に顔を出すと20名近い冒険者で食堂は既に盛り上がっていた。
アーサー達は行動表など提出していなかったが、ホーンドパイソンを倒しに行く会話を聞いていた村人が心配してシェリフと村にいた冒険者に相談したそうだ。
捜索の人集めがされる中「かなり困っているはずよ」とポニーテールと剣盾の冒険者が先行して捜索してくれたそうだ。
宿屋は満室、アーサー達は四人で一部屋をシェアして休んでいた。
クロード、テスロットとアンジェはさすがに食堂に顔を出す気力がない。
アーサーもフラフラだが、是非もう一度自分の女神に会いたいと無理して部屋から出てきた。
食堂を見渡したが女神様はまだいないようだ。
「アーサー、見習いなんだから無茶するな!」「命があってよかったな、辞めるなよ」
アーサーが適当にテーブルに着くと仲間から笑い声がかかる。


アーサーが発泡酒を飲んでいると食堂がふいに沸いた。
「来たぁ!リリアだ!」「ルーダリアの勇者様だ!」「巨乳ビッチ勇者!」「へっぽこ勇者、いい加減にしろ!」「リリア!さっさと王子様と結婚して引退しなよ」
野次と賛辞の混ざったやんやの歓声!皆笑顔。
口笛、野次、食器が飛ぶ。
“あれがルーダリアの公認勇者?勇者リリアだったのか”
アーサーが見ていると「うふふ、どうもどうも」とニコニコ手を振っている。
「ヘボ勇者!ヘボ勇者!」合唱。

勇者リリアはカウンターにこっち向かいに座ってデッカイ奴と知り合いとおしゃべりしながら発泡酒と鶏肉の揚げ物を食べている。
カウンターにもたれて肘をつく姿、ローブのふくらみから巨乳の胸元が見える。
何故かホウキを肌身離さず持ち歩いているようだ。

「ルーダ・コートの街、冒険者ギルド“愛国者”所属のアーチボルト、アーサーです。今日は大変ご迷惑をおかけしました、今後助けていただいた命を大切にします」
アーサーはようやく挨拶に立った。ただの挨拶ではない、女神様にお目通りなのだ、なかなか席を立てなかった。
「アーサーね!あたしルーダ・コートの街、冒険者ギルド“ルーダの風”所属のリリアよ。実はこう見えてもルーダリア王国公認の勇者なの。あなた冒険者一年目だってね、リリアも冒険者も勇者も一年目。まぁ、王国の扱いが悪くって勇者は辞めようかと思う事いっぱいあるけどね、うっふっふっふ。お礼?… 大丈夫よ!あたし公認勇者だから国民の安全と財産を保護するのが仕事なの」

勇者リリアは快活に答えるとアーサーを見て微笑んだ。
ぽってりした艶のある唇の間から綺麗な歯が並んでいた。
鼻筋、顎のラインから鎖骨、豊かな胸元まで全てが理想の女神以上の存在。
アーサーは思わず目に焼き付ける様に見つめる。

「なに?」
女神は見返しながら笑いかけてくれる。
包帯に覆われているが両目は紫に腫れいるのが分かった。
包帯に隙間を作って覗かせる瞳は潤んで輝いていてアーサーをゾクゾクさせた。
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