勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【161話】 リリア発見される

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リリアは調子を落としていた。
自信を失ったというか、自分のやっている勇者活動に疑念があるというか…
村を転々するように移動中。

ルーダ・コートの街で育ったわけではないとは言え、我が家の様に使っていたギルドに戻らなくなったらリフレッシュする場所もない。
「リリア、とにかく一度ルーダの風に戻ろうぜ。リリアモデルの鎧も置きっぱなしだろ。あれが処分されるのはもったいない。せめて取りに行こう」ブラックとダカットが何とかギルドに足が向くように持ち掛ける。
「……鎧はいいよ… ってかあれは捨てないでしょ。部屋を空けても取っておくと思うからそのうち取りに行ったらいいよ」リリアは振り返りもせずに歩いて行く。

「なら一度村に帰ったらどうだ?」ダカットが言う。
「… 村は正反対の方向でしょ。いちようダカットを故郷に帰す旅だから…」リリアは振り返りもせずに歩いて行く。
しかし、リリアも自分で何とか不調の波から出る努力はしているようだ。
「ここからならパウロ・コートの街が近いよ。オフェリアに会うよ!」
リリア達はパウロ・コートの街に数日滞在した。

「わぁ!リリア、来てくれたの?忙しいけど私は城外の仕事はあまりやらないからね。 … 相変わらず勇者やってるのね… そうなの?… もう辞めなよ… 生活ならウチのギルド移ってきたら?倉庫番と畑守の仕事なら紹介するわよ」
同じ勇者の子孫だがオフェリアはだいぶ保守的だ。
数日滞在して少しリリアも元気になったようだ。低リスク、低収入派のオフェリアは番人やガード的な長時間夜勤の仕事をする傾向にある。
忙しそうでもあるので数日滞在後に出発。


リリア達は村人の馬車に乗って移動中。
徒歩移動していたリリアだったが、途中から村人の馬車に乗っけてもらったのだ。
「あれ?勇者のお嬢ちゃんじゃないか? ちょうど帰るところだから乗っていきなよ」
馬車から声をかけられたリリア。
勇者活動していて最近は少し顔を覚えられた。国ではエア勇者だが、村人にはそれなりに感謝される活動をしているようだ。
「ケルベルさんね!… うん、せっかくだし… 乗っけてもらうわ」
リリア達は馬車に乗せてもらう。


「…… z… zz…」
馬車に揺られながらリリアはダカットを抱えて居眠り中。
さっきまで愛想よくおしゃべりしていたが会話が止まったらうつらうつらと居眠りしだした。まぁ、護衛仕事として契約しているわけでもないので特に問題は無い。

リリアはふと目を覚ましたようだ。
「お!リリア、起きたか?」ダカットが声をかけた。
ちょうど道の向こうから対向車が来ている。気配に気がついたのか?
「… むぅ…」
ダカットは胸に挟まれながら顔を見上げているとリリアは少し寝ぼけているように目をしばしばしながら道を見ている。鼻筋の通った理想的な顔立ちだ。眠そうな目つきがゾクゾクする。
「……!」
しばしばとしていたリリアの目に突然力が入った。前方を凝視している。
ダカットが見ると対向車の馬車が近くまで来ている。荷馬車というより軍用車に近い馬車で小隊やそこそこの規模の冒険者ギルドに使われていても良い程度の馬車だ。
馬車にバナーがかけてありはためいている。
“ルーダリア王国の家紋ではないな?どこかのギルドのロゴだな… 大きなギルドだな…”
ダカットが馬車とリリアを交互に見ている。リリアは瞬きもせずじぃっと対向車を見ている。

「やっぱり!! やばい!!」
リリアは小さく叫ぶとダカットを放り出し弓と剣を握って馬車から飛び降りてダッシュしだした。猛ダッシュ!
馬車を飛び降りると今来た道を鬼のように逆走しだした。
「先輩!どうしたんすか!」「お、おい!リリア!」ブラックとダカットが驚く。
「やっぱりリリアだ!リリアを見つけた! アリス!リリアよ!」
「ペコ!逃がしちゃだめよ!追いましょう!」
「ぅリリアぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~!待ちやがれ!~~~~~!逃げんな~~~!」
「ペコ、ファイアーボール叩きこんじゃいましょう!私が治癒する!遠慮なくやっちゃって!足止めよ!」
声がするのでダカットが見ると魔法使いとプリースと女性がやはり向こうの馬車から飛び降りて来てダッシュをかましだした。
「なんでペコとアリスがいるの!なんで追っかけてくるの!」
リリアは叫びながら逃げ惑っている。
「リリア~~~~!待て~~~~!散々心配かけて~~!」
魔法使いが追いかけながらファイアーボールで攻撃を開始しだした。
「ペコ!やっちゃって!範囲を絞るから!なぎ倒して!」
プリーストがプロテクト魔法を応用してリリアの足止めを手伝う。
「いやぁ!何よ!あたし何もしてないじゃないの! 痛い! ちょ、やめて~」
リリアはプロテクトにぶち当たり、ファイアーボールに飛ばされながら逃げようとする。
「何が!何もしてないの!だ!散々迷惑かけて!やましい事がないなら逃げるなぁぁ!」
「ペコ!死ななければ治癒するから、かましちゃいなさい!」
皆、思い思いの事を口走りながら野原を駆け回っている。
「ブラック!リリアが襲われてるぞ!」ダカットが呼びかける。
「うっす、あれはペコ姉とアリス姉さんっすね、行きましょう。ケルベルさん、ちょっと待っててください」
「し、知り合いなのかよ?どうなってんだ」
ブラックはホウキを手に馬車を飛び降りた。リリア達を追いかけ始める。

「何で追いかけてくるのおおおぉおぉ!ほっといてぇぇぇ!」
「リリアぁぁぁぁ!待てったら待てええぇぇぇ!」
見ているとリリアもかなり巧みに野原を逃げ回るが、シールドマジックにぶつかり躓き、ファイアウォールに阻まれ、ファイアーボールにぶっ飛ばされだんだん、差を詰められる。
「ペコ、そろそろとどめを刺すわよ!せーの…」

「ぽぴゅ!!」
リリアはとうとうシールドと高速ファイアーボールにサンドイッチされ、空気が抜けるような妙な声を上げて打ちのめされた。
ブラックとダカットが追いつくとリリアはひっくり返っているところを念入りにシールドで押さえつけられ丁寧に焙られている。
「痛い!熱い!やめて!胸がつぶれる!お尻ギュウギュウ!痛い!」リリアはもがいている。
「散々心配させておいて、大人しくしなさいよ!一度ルーダの風に帰るよ、見つけたら連れ戻すようにコトロに頼まれてるんだから」ペコはリリアにバーンタッチ。
「熱いってば!あたし、もうギルドには戻らない、決めたの!あっついってぇぇ!あたし村に帰ろうと思う! 痛い!熱い!」
「アリス聞いた?リリアは村に帰るんだってさ」ペコがアリスを振り返る。
「そうね、今フォースシールドの圧を強めたわ… 痛い?でしょうね、もう結構な圧力ですものね。肋骨折れるくらいならすぐに治癒できるから安心よ」アリスはニコニコしている。
「本当に痛いんだってぇ!わかった!わかったから逃げないから!… コトロ?前向きに検討するか… 痛い!! わかった!ギルド帰る!帰る!」


リリアはようやく解放された。
「は、早く治癒して… 火傷している… あっちこっち痛い…」リリアは地べたで目を回している。
「全く… リリア絡みは全部大事だよね、結構皆で探し回ったんだから」ペコが怒っている。
「リリアお疲れ様。色々あって大変だったでしょうけど心配したし、きちんとギルドに戻って謝るべきよ。そしてまた勇者活動するなり決めたら良いでしょ」アリスが優しく諭す。
「… わかったから… 全身あざだらけなんだけど… 髪の毛ちょっとチリチリなんだけど…」リリアはよじれた芋虫のようになっている。
「わかったなら治癒するわ。その前に契約のスクロールにサインしてね。リリアは素早いから私達でも捕まえるのに苦労するのよ。リリアは… ギルド・ルーダの風に… 戻ることを誓い… 契約を破棄したる時は… お尻から豚の尻尾が生えます… っと」
アリスは契約のスクロールに書き込むとひっくり返っているリリアにスクロールとペンを渡す。
「… あたし、豚の尻尾が生えるの?」リリアが読んで聞き返す。
「逃げださなければ生えないわよ」アリスはニコニコしている。
「… これ必要?」リリア。
「サインしないと、治癒しできなわ。さっさとサインした方が身のためよ」アリスはニコニコしている。

「女冒険者って怖いなぁ…」
「そっすね…」
ブラックとダカットはちょっと離れて見守る。
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