勇者の血を継ぐ者

エコマスク

文字の大きさ
上 下
312 / 514

【156.5話】 何でも屋リリア ※少し前の話し※

しおりを挟む
「ボウボウ、こんな感じで同じ大きさに切っていけばいいのね」リリアはノコギリを手に大汗を拭いながら顔をあげた。木材の切り出し中。
シーロルの村で護衛兼、大工仕事を手伝い中。
犬耳のポチシローさん一家が冒険者を引退して村の宿屋の近くでパスタ屋を開くことになり買い取った家屋を改装すると言うのだ。
ポチシローさんが大工職人のオーガのゴディバルドさんに改装を依頼。リリアはゴディバルドさんから周囲護衛の依頼を受けた。

「木材の切り出しの護衛と手伝い?仕事になるなら引き受けてもいいけど… リリアより、建築ならパワー系を雇った方が役に立つよ。植物系魔物への攻撃力なら単純に火属性のルーンマスターの方が強いよ」バー・ルーダの風のカウンターでリリアは言う。
「一人護衛に遠距離攻撃が欲しいんだ。力仕事は見習い達がやる。魔法使い?あいつら雇うと高いんだぜ。頼むよ高くは引き受けられない仕事でなんだ。リリア程度でいいんだ」ボウボウが言う。
「… わかった、ボウボウの頼みだし、ポチシローさんの門出だし、リリアに仕事をくれるなら喜んでやるけど… 本当はとりあえず熱湯をぶっかけてから値段を吊り上げたいところ、ボウボウに免じて堪えてあげる」リリアは口を尖らせている。
「わりぃな、ちゃんと面倒みるから」ボウボウ。
ちなみにボウボウはゴディバルドのニックネーム。大工の親方をしているのだが故郷から出てきたオーガや町であぶれているゴブリン達を見習いで雇っている。
ゴブリン語で“大旦那”という意味をボウボウと呼ぶらしいのだ。
使っているゴブリン達が「ボウボウ」と呼ぶので、そのうち皆ゴディバルドをボウボウと呼ぶようになった。

シーロルの村で新たな生活を始めるポチシローさん一家、ボウボウと見習いのオーガ二人、ゴブリン三人が村から買い取った木を伐りだし、小屋の改装。リリアは周囲の護衛…
と、緊急処置用に雇われた治癒魔法使いメリール。
「あら、リリアじゃない。体張って宣伝活動している勇者さんね。どう?儲かってます?」顔を合わせたらメリールが澄まして挨拶してきた。
「… メリール… ご加護がありますように… メリールもこの仕事?… よろしくね…」
リリアとメリールはあまり反りが合わない。
「ねぇ、ボウボウ、おかしいじゃやない。金ないって… 魔法使い雇ってるじゃない… 居住区以外の場所で仕事する場合は治癒術士の雇が必要?…規則?… メリールは安く紹介された?… まぁ、確かにあいつは口ばっかりだけど… 切り出しが終わって材料を村の敷地内に運んだら契約終了?… うーん…わかった… 因みに一日いくら払うの?… ヴぁ!何それ!たったその日数でリリアのトータルより高いじゃない!… 規定?… うぐぐぅ…」
何でリリアは0魔力に産まれたのか、なぜこの道を選んでしまったのだろうか。
「父さん、母さん、リリアに僅かばかりでも魔力をお与えください」リリアは歯噛みする。


「ボウボウ、この大きさでOKね」リリアはノコギリを手に確認。
「おう、その大きさで切っていく。俺は村で小屋の一部を解体してるからゴランとやってくれ」ボウボウは言うと村に戻っていった。

リリアは弓と剣で周囲の警戒なのだが、安全であれば大工仕事もお手伝い。
特に特徴の無い、弓が凄い女性冒険者リリア。危険が無いからといってボーっとしていたら次から仕事を失う。何でもこなすのだ。
「リリア、そこの木□◎%#$▼、重ねて□◎%#$▼だ。ちがう□◎%#だ」
オーガの故郷から出てきたばかりのゴランが強い訛りで指示するがリリアにはちょっと理解不能。
「ちがう!ちがう!リリアちがう!」
手伝わなくてもよいのだが、手伝わないと仕事に呼ばれなくなる。手伝う以上はちゃんとやらされる。怒られながら仕事するリリア。
「だって、ボウボウはこうって言ってたよ。違うの?どっちなの?」怒られながら仕事する。
「へー、リリアはオーガ語わかるのね、すごいねぇ」
メリールはマジックワンドを肩にかけ切り株でのんびり読書する。

「ちょっとそこを押えて… こんどはこっち… 違う… こっちに来て、違うったら… ここを切るんだからこっちを持ってって」
ゴラン達がいない時はリリアがゴブリンと直接コミュニケーションを取るのだが、ゴブリン語とオーガ語少しわかる見習いゴブリンだ。教育も受けていないし何をするにしても要領を得ない。
「そんなになんでもするの?リリア、仕事に困ってるのねぇ」メリールは本を読んでいる。
ぶちのめしてやりたがリリアはがまん。

「あ!え! それおかしくない?印と違うよ!そんな風じゃないでしょ!」
リリアが目を離していたらゴブリン達がなんだか違う事をしている。リリアは慌てて止めに入るが、ゴブリン達はこれでいいのだと言わんばかりに作業している。

で、ゴランが戻ってきてゴブリン達に怒鳴り散らしている。説明とやってる作業違うよねぇ…言わんこっちゃない…
と思っていたら怒られながらゴブリン達がリリアを指さして何か言っている。
リリアもゴランにメッチャ怒鳴られた。
何が何やらだ… ゴブリン共めリリアのせいにしやがって…
「オーガに怒鳴りつけられる人間って初めて見た」メリールはニヤニヤ。

切り出した材料を村に運搬。
さすがに馬車が用意された。まぁ、当然だ!運べるかこんなもん!
しかし、馬車に材料を積み込まないといけない。
「重ぉい!とんでもない!背骨が折れる!… ちょっと何もしてないならメリールだって少しは手伝いなさいよ」とうとうリリアは怒鳴りつけた。
「はぁ?私の仕事は治癒とプロテクションよ。それは物理系の人間がやればいい仕事でしょ。ってかそんな事しか出来ない人向けの仕事でしょ」
いちいち腹立たしが、怒っている場合ではない。

村に運んだ材料の加工をする。
明日の朝からもう一度森に入って指定した木を伐りだす予定だが、今日は日没まで小屋の作業をするようだ。
「村の中なら明日まで私の出番なしね。適当にブラブラしているから用があったら呼んでね」メリールはその辺で魔法の練習したり本読みをしている。
リリアは時々休憩しながら作業のお手伝い。

「おぎゅ!… … ぃぃぎぃ… ぎぃぃぃ…」
リリアは変な、声にならないような声を上げてのたうち回っている。ゴランがハンマーでリリアの手をぶっ叩いたのだ!悶絶級の激痛。
「おい、すまん、リリア大丈夫か! 今あの術士を呼ぶぞ」ゴディバルドさすがに慌てる。
「…… ぅぐぅ… いいの… 呼ばなくていいから… ポーションあるから… 手が… ぅぅ…」リリアがのたうち回る。
「折れてないか? ポーションで治るだろうが… 治癒頼めばいいだろう…」
「… いいの!ほっといて… あの女には絶対頼まないから… ベルトポーチにポーションあるから…」リリアが呻く…

「… そうか…  俺の高級ポーションあるから飲んでおけ」
ボウボウがリリアを抱えてポーションを飲ます。
「どうだ、治ってきたか」
ボウボウに聞かれてリリアはコクコクと頷いた。
「…… まぁ、あいつは明日の切り出しが終われば帰るからな… リリアは少し休んでおけ、ゴランには注意しておく」
ボウボウは呟くと仕事に戻っていった。
しおりを挟む

処理中です...