勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【145話】 ヒュードー洞窟とリリア

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リリア達はルーダリア領を主張する西の国境近く、やや北よりの山中に居る。
ルーダリアが自国を主張するマップでいう左端の場所。これより南、海側に下がると紛争地帯に入る。ハシェックが送られた戦場。
そのハシェックはしばらくリリアに手紙が届かなくなったので、リリアが「戦地の女兵士か街娘と仲良くなったんじゃないの?」と笑いながら言っていたが、ローゼンさんに特に調べて貰ったら「… ある作戦の後、未帰還と記録されている」と説明された。リリアは一時かなり落ち込んでいた。

とにかく、リリア達は国境を超えるのに紛争地帯を避けて辺鄙な山中を横切る予定。
現在はヒュードー洞窟と呼ばれる洞窟の入り口で…
リリアはビビってだだをこねていた…

ヒュードーは風の向き、強さと条件が揃うと入り口に低く風鳴りがする。故にヒュードー洞窟。
この洞窟を抜ければ険しい山岳地帯を超えることなく、楽にショートカット出来る。
それなりの長さはあるが、山岳を抜ける事と比べればかなり楽なはずである。

リリア達はこのヒュードーを抜ける予定でやって来た。
「松明良し!準備良し!レッツゴー!」とヒュードーに入ったリリアだったが…
「ごめん、あたしだめだ、ここだめ、やめよ!迂回しよ… ダメダメ…」
入り口でビビッて出て来てごねている。
リリア達が洞窟に入ると、少し広くなった“儀式の間“があり、生贄台がある。魔法によるギミックになっていて動物の死体を位置に乗せるか、魔法石を置くとギミックが発動し、洞窟に設置されたランプが点灯するのだ。
が、旅人が安全に通り抜けられる時間、ランプを点けておくには高価な魔法石がいる。当然魔力を使ったらただの石になる。動物なら、道を良く知っている人で牡鹿一頭は用意したい、初めてならグリズリーを一頭は最低必要と村人が言っていた。

「洞窟って本当に真っ暗じゃない!これ無理じゃない?」
リリアは入っていきなりビビる。
「当たり前だよ。明るいと思っていたのか?」ダカットが言う。
「いや… 暗いとは思っていたけど… こんなに暗いの?」リリア。
リリアは大ネズミを射て生贄台に置いてみた。
「ッボ!」っと一瞬ランプが点き道が照らされたが本当に一瞬で大ネズミは骨になって終わり。
「大ネズミでこんだけ?これ無理だよ、無茶だよ、無謀だよ!」
リリアは洞窟から出てしまった。

で、ダダをこねるなう

「ね!止めよう、迂回しよう!あんなに暗い中で魔物に襲われたら地獄だよ。ランプが切れて、松明も燃え尽きたら出られなくなっちゃうよ、発狂するよ。だいたい入り口からして動物の骨がいっぱい転がって、コウモリがたくさんで… あれ、明らかに大魔クモや大蛇が巣くっていた跡だよね。コトロが言ってたけど、真っ暗闇で襲われて殺される断末魔は地獄だって… 他を通ろう、やっぱり人間、明るい太陽の元で暮らすべきよ」
リリアはもう、洞窟には戻らない決心だ。
「… だから散々俺達が止めたじゃないか。そしたらリリアがギミックがあるから、念のため松明も持って行ったら大丈夫だって… なぁ、さっきまで洞窟抜けるのが冒険っぽい、始めてだから通りたい、冒険者は洞窟でミミックと戦いながらアイテムゲットして旅行するものだ!って凄い鼻息だったじゃないか!なぁ、ブラック」ダカットが不満の声をあげる。
「… そうっすね… でも、まぁ、現場を見てダメと納得することで後悔もなく…」ブラックが言う。
「おいおい、先輩後輩もいいけど、少し甘すぎないか?俺、いつも黙った聞いていたけど、ちょっとリリアに甘すぎだよ、絶対否定しないじゃないか!遊びで行く場所じゃないから、大変でも道路を通ろうって散々アドバイスしたのをリリアが、あたし勇者だから大丈夫よ、皆だって滅多に通らないとこ行ってみたいでしょ?チャンスじゃない!って大そうな事いうからだぜ…」ダカット、さすがリリアが肌身離さずいるだけあって結構リリアの口真似がうまい。
「来て、見て、納得の結果なら仕方ないっす。うーん… でも、今からだと安全策は今朝出て来た集落にもどるか、山岳を超えるなら野宿になるっすかねぇ」ブラック。
「謝ってるじゃない、想像をぶっちぎって暗かったのよ。真っ暗過ぎて明るかったリリアの心まで真っ暗になったのよ」リリアがホウキに反論する。
「意味がわからん、洞窟だから暗いに決まってる。俺もブラックも言っただろ。リリアの想像以上に暗くて危険だって。ブラックだって、道が無いなら通るのも仕方ないっすけど、わざわざ選んで通る場所じゃないっすって散々止めたろ?それをリリアが、あたし勇者よ!先輩勇者リリアに任せて!っとか言ってさ… どうすんだよ、戻るのかよ、野宿かよ」ダカット、意外に器用に二人の口調を真似ている。才能あり。
「ねぇ!あたし謝ってるよね!通れると思って来たけど通れなかった!それだけじゃない!橋が架かってると思って行ってみたけど、橋が流されて引き返さないといけなくなったのと何が違うのよ!偉そうに口だけ動かして!自分で掃除一つできないくせに!この斜めカットホウキ野郎!!」リリアもキレだした。
どっちも理屈は通っているっぽい…
「橋とこれは大違いな話しだろ!橋は成り行き上回避不可能だけど、これは人のアドバイスも聞かず、わざわざ選択したわけだろ。これが別な事だったら言わねぇよ!だけど、自分は勇者だから!とか言って危険な方を選択してこれだぜ!!ブラックも甘… だぁーーーーーーー!!」

リリアはホウキを洞窟にぶん投げ入れてしまった。
「ダカット、あんたねぇ!こっちは散々あんたの世話してやってんだからね!あたしもうダカットの面倒見ないから、誰か他の人に拾われなさい。生意気よ!リリアの事馬鹿にし過ぎよ!そんなに洞窟にこだわりたいなら、好っきなだけそこにいれば?根が生えるまでそこに転がってていいから、千年くらいそこで寝てれば?じゃ、さようなら」
リリアは洞窟に向かって捨て台詞を吐くとブラックの手を引いて引き返し始めた。
ダカットは何か言っている… か、どうかわからん… ダカットは声が小さいから…


リリア達は昼過ぎに集落に戻って来た。
リリアがホウキを放棄したので、ブラックが放棄されて洞窟に放置されかけたホウキを所持している。
集落の民家のような宿に再びチェックイン。
皆無言…
リリアがホウキを放棄して放置したのでブラックがダカットを拾いなおして来た。
「すまなかった、俺、言い過ぎたよ」ダカットが謝ったがリリアは無視。
「先輩、お腹空いたっすね、お弁当食べるっすか?集落についてからお昼っすか?それとも集落に戻ってからお弁当っすか?」ブラックがご飯の話しを振る。
「………」
リリアは無視してスタスタと歩いて行く。ポニーテールの両側から角が生えているように見える。

「チェックインしたから。夕食代と朝食代も払ったから。皆自由行動ね。まぁ、誰かさんの口はいつでも自由行動みたいだけどね」
「うっす、自分の分は自分で払うっすよ… 先輩、明日の予定…」
「あ、そこのホウキ、リリアはもう要らないから、一緒に行動しないから、必要ないならこの宿にドネーションよ。解散よ、解散」
リリアは澄まして言うと、カウンターに置いてあった焼きポテトとワインを掴むようにしてお代を払ってさっさと部屋に入ってしまった。
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