勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【144.5話】 「ぬぁ?」  で… ※少し前の話し※

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とある村、日もすっかり暮れている。
リリアは宿のリビングに通されて一晩過ごすことになった。

馬車護衛をして村に到着だが、今日はトラブルがあってすっかり遅くなってしまった。
馬車に問題が発生したのだ。馬車の進みが悪くなったので、止めて問題の個所をチェック。
「何も問題無さそうだが… 車軸が壊れたのか?」馬車手が馬車を見まわったが何も問題なさそう。
リリアも見てみたが問題を発見できない。しかし、発進させると明らかにおかしい。もっともリリアの場合は問題を発見できる知識があるか疑わしいが…
「通り過ぎた村にロードサービスがあったな、呼んで来るよ」キャラバンの仲間が元来た道を戻っていった。

「こりゃぁ、馬車の故障ではなく、馬の怪我ですぜ、旦那」
ロードサービスのケンタウロスが調べてアドバイスをしてくれた。
馬車の進みが悪くなったのですっかり馬車の故障かと思っていたら馬が屈腱炎を発症して痛がっているというのだ。馬車が進まない原因はこれ。
「うーん… 困ったな、代えの馬を連れていない。怪我の馬を外して、わしとリリアで引っ張るか、わっはっはっは」馬車手が笑う。
「馬に愛情足りてないからこうなるのよ、ってかリリア絶対に馬車なんか引かないし、引けるわけないし、面白くないし」リリアも笑うしかない。
「… どうやら、一時馬を代替してもらうしかないな。ロードサービスさん馬車馬を用意できるかね?」馬車手。
「ガッテンでっさ。馬車の故障と聞いて馬を引いてこなかったので戻って馬を引いてきます」ロードサービスのケンタウロス。
「戻るの?さっきの村まで?ロードサービスなんだからこのまま馬車を引っ張っていってよ」
と、リリアが何気なく言ったら
「おい!人間の女!俺は馬じゃねぇんだ!ケンタウロス馬鹿にすんじゃねぇ!俺達にも人馬権ってもんがあらぁ!後ろ蹴り食らわされてぇのか!」
物凄くキレられた。
「いや、誰もケンタウロスが馬だなんて思ってないわよ。ロードサービスとしてサービスしてよって話しなだけじゃはい」リリアはビックリして取り繕う。
「まったく、人間共は一番数が多いからって威張りやがって」ロードサービスがブツブツ言っている。
「とにかく、代わりの馬をお願いよ。ダッシュよ、夕暮れに間に合わなくなっちゃう。ご自慢の快足なんでしょ?優駿さん」リリアが言う。
「おう、任しておけ。俺はこう見えてもロードサービスギルドの優駿祭で毎年優勝する勝ち馬投票一番人気、馬券キングって異名をとってるんだ」
そういうとケンタウロスは瞬く間に村に戻っていった。
「…… ねぇ、矛盾を感じるのはリリアだけ?あたし怒られた意味あったの?」
リリアが周囲に尋ねる。皆苦笑いをするのみ…


まぁ、そんな調子で今日の予定は大幅に遅れて村に到着。けっこう遅くなってしまった。
リリアが宿に泊まろうとチェックインしたら宿の主人が「満室で…」と言うのだ。

「あら!珍しいのね… 仕方ないから今日のキャラバンに頼んで馬車の荷台に寝るよ」リリアが宿の主人に言う。
「… 季節的に人も物も移動の時期だからね、年に何回かこんな時もあるよ… リリアちゃん、この前お使い頼まれてくれたし、ソファーでいいなら部屋を貸すよ。食事代だけ払ったらいい。馬車の荷台よりは寝心地良いだろ」
「そね、荷物の間で寝るよりよっぽど良いわね、お邪魔するわ」
そんなわけで、リリアは応対用の一室を使わせてもらえることになった。小さい部屋だが、テーブルとソファーがあり、寝るには十分。
「この部屋で飲み食いはしないでくれよ」
主人はそう言ってリリアに鍵を渡すと部屋を出て行った。


リリアは食事を終えて部屋に戻る。特にする事もない、商人ギルドの人が手にしている経典がおいてあり、特に興味があるわけでもないがラパラとページをめくってみた。
ブーツを脱いでソファーに寝っ転がっている。背の高いリリアは膝を少し曲げないとソファーに入りきらないが荷台で寝るよりまし、これで十分。そのうち眠気が訪れてくれるだろう。

果たして…
眠気は訪れてくれた、早かった。寝るのはリリアの得意技。
自分がウトウトと本を落としかけたのに気が付き、本をテーブルに放り出して、ソファーに安らぎの姿勢をとるリリア。

「……………… …z …zz …zzZ …………   っどっぴゃ!!」
リリアは飛び起きた!心臓が胸を突き破るかと思った!
「… 人間の女か、珍しいなと言ったのだ」声が続いている。
リリアの目は驚きのあまりまん丸を通り越して、縦に楕円形になっている。
声の方向を見上げると… 首だけになって飾られている熊のはく製がしゃべっている。
「別に珍しくないだろう、この時間に人がいるのが珍しいが」
続いて声がするのでそっちを見ると鹿の首がしゃべっている。
“首だけの装飾品が何か会話してるぞ!!”リリアはしばらく自分の心臓がその辺に転がっていないか心配するような思いで眺めていた。
「この時間は部屋に鍵をかけて人が入ってこないけどな」
そっちを見るとキジのはく製。
「そこの女はさっきここのご主人に案内されて入って来たぜ」
こっちは壁にかかったブラックバスのはく製?…
リリアはしばらくあっけに取られて眺めていた。
壁掛けの首だけとか、羽根を広げたのとか、アフター魚拓とかが好き勝手にしゃべっている。
「…… 皆ごめん、あたし寝れないんだけど…」
リリアの第一声…
「ぬぁ?」
その… 皆がリリアを見た…

で…
「今話しかけられたか?話しかけられたな」
「そりゃ、人間だから話すだろう」
「問題は言語を発した事ではないだろ、人間がこちらに向かって話しかけてきたかどうか」
「滅多に無い事だろうけど、あり得なくはないな」
「どう思う?こちらに向かって話しかけて来たのかどうか?どう思う?」
「そうだなぁ… 無くは無いと思う。しかし、統計と確率からすると…」
何だか四人で話が回っている…
「いや、リリアは明らかにあなた達に話しかけているでしょう」リリアが口をはさむ。
「ぬぁ?」
その… 皆がリリアを見た…

で…
「おい、どうやら人間の女は俺達に話しかけているようだな」
「言っただろ、俺の言ったとおりだ」
「いやいや、待てよ、俺達に話しかけたかどうか… 俺たちの中の一人、あるいは俺たちの中の誰か以外に話しかけた可能性も捨てきれないぞ」
「人間の女の目線の動きを見るとだ…」
「いや、でも人間は物理的に限られた視野しか持っていないから…」
「声の大きさからすると俺達全員に十分聞こえる音量で…」
「ちょっと… 話しかけてるんだから、そっちだけで話すの辞めてよ。とりあえず仲間に入れなさいよ。何なのよ、指名制度?名指ししなきゃお話ししてくれないの?」
リリアが言う、どっちを見て話すべきかわからないが、とりあえず4人を見ながら、そして主に熊の首に話す。
何故熊の首が主か…
何となく生前、一番強そうで一番影響力がありそうにリリアには思えるからだ。
小賢しい!!
「ぬぁ?」
その… 皆がリリアを見た…

で…


次回のサイドストーリーに続くのである…
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