勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【145.5話】 お部屋の存在 ※144.5話の続き※

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「ぬぁ?」
その… 皆がリリアを見た…

で…

「やはり、話しかけてきているな」
「そう解釈するのが妥当だな」
「待ってまって!あたし、皆に話しかけているから、皆に話しかけたうえでそこの熊に質問するから」
また、話が脱線しそうなので、リリアは指名制度を利用した。スマートチョイスと言えるだろう…
「……………」
「…… 何よ、熊に聞いているのよ」
「……………」
「…… 熊は答えないの?答えたくないの?…… じゃ、鹿…」
「……………」
「……… いいよ… じゃ、キジ…」
「……………」
「……… 何よ… じゃ、ブラックバス…」
「……………」
「… 何なの!無視?失礼でしょ!話しかけられて一斉に無視?」リリアがちょっと怒る。
「… やっぱり、違うようだ。人間の娘は熊や鹿に話しかけているようだ」
「ちょ!違う、あなた達に話しかけてるのよ、熊や鹿じゃないの?なんとか熊とか何キジとか細かく分類があるってこと?」
「人間の娘、こちらに話しかけているなら大変な見当違いだ」
「こちらは熊でも鹿でもキジでもブラックバスでもない」
「皆、こちらは名前があるの、あたしリリア、名乗り遅れたけど、リリアって名前」
一言発すると不規則に誰かが発話する。リリアその度に部屋をキョロキョロして、ブラックバスやら熊やらを見る。
「熊やキジじゃないの?何なの?」
妖精とか精霊とかが宿ったり、賃貸しているのだろうか?恐らく長い時間の中で存在し続ける物に違い無さそうだ。こういった連中は時間の観念が違うので、ノンビリ屋さん、暇人、趣味人が多い。
「元熊だった首の壁掛け、元鹿のそれ、元キジのはく製、元ブラックバスのなれの果てである。物質界ではそんな呼び名であろう」
出た!こんな感じ。ブラックバスの扱いだけ悪い!
1日決められた時間で効率的に行動するためには要点を掴んだ情報交換を行い、そのためには相手が言わんとしている事を推測し、お互いが早く理解を深め… 等は時間が限られた生命達のする事であり、不滅に近い存在達はこんなんだ。時間が余り過ぎてわざとからってくる奴も多い。

リリアもたまにこんな存在に出会う。4人?4体?一部屋に存在するのは珍しい。主体性というか、自己意識も低く、呼び名が無かったり呼んでも意識していなかったり、話しかけても無視、だれかれ構わず発話している事等が多い。
この連中も話を聞くと、元熊の魂と言うわけでも何でもない。その辺を漂う感じで存在し、時には意思を持って移動し、最近はこの村のこの宿周囲にいるらしい。因みに最近とはここ50年前後のようだ。
これらの存在はお互いに黙って意思の疎通も可能で何かの物理的な補助を使わなくても発話可能。普段人が使われない時間にリリアが部屋にいたことをきっかけに何となく流れで元熊だの元ブラックバスを借り会話になったようだ。
ここに4人存在しているが、果たしてここの4人が昨日から継続して存在している同じ相手か、全く気にもしていな、お互いに呼び名も無い、リリアを見て口を動かして発話することに感化され、部屋のデコレーションを模して会話をしだした存在がいて、他の存在も釣られたと言った様子。存在はしているが自意識が薄く、流されやすいようだ。
人間語で会話しているが、誰かが何かで別な言葉を発するとしばらくそれになる。
何語だろうか?魔法使い達が呪文を唱える時の言葉に響きが似ている。
リリアが何か発言すると人間語に戻って来る。
何故はく製の口が動かせるのか、不思議であるが人間の常識では計り知れない。

リリアは長々とかかってここまで貴重な体験だが、どうでもよい、どうにもならない情報を集めた。
そして、どうにも眠くなってきた。

リリアはトイレと水飲みに食堂に行った。人が飲み明かして騒いでいる。
「ここも寝れそうにないわねぇ…」リリアはその様子を見ながら呟く。
リリアが応接室に戻ると静かになっていた。
「いなくなったかな?黙ったかな?」リリアが呟く。
が、リリアが戻ってしばらくすると発話が始まった。どうやら、リリアの存在に引っ張られるようだ。
「やれやれ…」だ。相手に人間の常識は通用しない。
会話が始まったのでリリアは布団を頭まで被ってソファーに寝ている。
「あの部屋出るので変えてください」って言いたいが、好意で使わせてもらっているのだ、騒いで迷惑もかけられない。

「そだ!男の部屋にでも押しかけて… えっへっへ」
夜のストレス発散しながら平和に朝まで寝かせてもらおうか!お互いに利益のある交換条件。リリアちゃん大サービスよ!夜のクエスト!
「… やめとくか… また、変な噂立てられる…」
最近少しはリリアが誰か、地道な地域密着型活動で顔と名前くらいは知られて来た。
勇者リリアが突然部屋を訪れてきて、問答無用で押し倒し、股間がもげるような大回転のウルトラCで蕩ける様なサービスをして朝までベッドを我が物顔で使っていたとか噂されかねない。

「………? 静かになったね」
気が付けば部屋が静まり返って寝やすいトーンになっている。
“今よ!寝る!リリア寝ます!朝まで絶対目を覚まさない!”リリアは決心。
そして、あっと言う間に寝た… 寝るのは大得意。
リリアは気が付いていないが布団を頭まで被ったことで顔見えなくなっていた。周囲の状況に引っ張られる存在もこれで、人間の習慣と縁が切れた…


「テリーさん、またね、昨日は助かった」
リリアは朝、宿をチェックアウトして出発する。寝不足気味…
「あぁ、悪かったね、寝にくくなかったかい?こんど、良い香草が手に入ったら持って来ておくれよ」
リリアは昨晩の事は話さなかった。どうせ気まぐれな連中で言っても証明がつかない事が多いだろう。
挨拶をして宿を出る。
カウンターのフクロウのはく製がリリアを見ているようだったがリリアは視線を合わせないようにして出かけて行った。
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