勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【91話】 二つの勇者パーティー

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「俺、兄貴達に負けないように頑張るぜ!」
ソルディア家末っ子勇者オルデガが張り切っている。
勇者パーティー編制は勇者オルデガ、商人フトンネコ、踊り子イズ、遊び人ジュニチ。
兄貴達が出撃中の今、酒場に残っている仲間は彼らだったらしい。
見学者パーティー、戦術バランス抜群の弓士リリア、剣士オフェリア、攻撃魔術士ペコ、治癒術士アリス達はヒソヒソ噂する。
「勇者パーティーのバランス変だよね。商人、踊り子ときて遊び人よ」
「残存勢力らしいわよ、勇者とは言え心配になってきた」
「遊び人はいずれ賢者になるための予備動作なんだって、発想だけならすでに賢者級だよね」
「大丈夫だよ、ソルディア家よ」リリアはニコニコしている。ある意味他人事。


戦っては移動、戦っては移動の繰り返し。
徒歩で移動し、連戦するアンバランス勇者パーティー、と、馬車に乗り微妙な距離感で見物する好バランス見学者パーティー・リリア一同。
「気が引けるよねぇ…」
「手伝った方がよくない?…」
「保険の都合上、手出しは禁止です」馬車手に注意される。
物凄く恐縮する。居心地悪し。
「さすが本家勇者はすごいね!」リリアは全然気にしないらしい。
末っ子勇者と商人の働きはなかなかだ。後の二人はちょっとよくわからない…
魔物は全部本格派。ギガンテス、サラマンダー、BANされた魔法教団… 上げたら限が無い。
一番恐ろしく思えたのは殺人コケコッコー。見かけは鶏と変わらないが、たまに養鶏場に潜り込んで人を襲う。
「殺人コケコッコーめ!」勇者達に取り押さえられ首を跳ねられていた。恐ろしや…


ボス戦までやってきた。今回の退治はこいつらしい。
何がボスなのか、何でボスなのか、哲学的。
その周辺で一番強いようだが、別に個別の魔物とボス的なやつと直接繋がりは無さそう。
「魔物のボス?俺のせいで人々の生活が?… 突然押しかけて来ておまえら何を…」名も無きボスが不思議がっている。
「しゃらくせぇ!やっちまえぇ!」血気盛んで手柄が欲しい末っ子。
「ねぇ?物語みたいにもっと最後まで話し聞いてあげた方が良くない?」リリアは平和派。
「まだ学習しないの?大人になんなさいよ」ペコが注意する。
戦闘が始まった。


勇者が剣を振るい、商人が攻撃し、踊り子が不思議な踊りを踊り、遊び人はすっころんでいる。
大苦戦、さすがにボスは強い。
「ねぇ、やばくない?手伝った方が良くない?」リリア以外は不安になる。
「ダメです、保険の関係で…」強く止められる。国の役人はお役所的。

苦戦しながらもなんとかボスを倒す…
「わ!すごい!物語みたい!メタモーフィングしてる!」
見ると人型だったボスは変身中。リリアは感動している!
「感動してる場合か!もっと強くなるのよ!」
体が大きくなり、口が裂け、角と牙が生え、腕がいっぱい出て来て足腰も逞しい。
炎を吐き、呪文を唱え、腕を振り回す。
強烈な呪文が飛び交い、勇者が躍動し、商人が激しく応戦。踊り子は踊り狂い、遊び人はリリア達をナンパする。
「すごい!商人が治癒されながら炎の中で焼けながら戦っている!遊び人おおごけ、踊り子バック宙、勇者… とりあえずオーソドックス」リリアが興奮して実況している。
「商人が仲間呼んだよ!あの人達どっから現れたの?リンチして立ち去った!どこに消えた?何でどっか行っちゃうの?来たんだから最後まで一緒に戦えばいいのに!踊り子のベリーダンスよ!あれは何か意味あるの?遊び人4回に1回くらいコケる。立ってもいられない奴連れて来る?」リリア大興奮。

「ねぇ、これ絶対やばいパターンだよね」
「これは勝てないでしょう…」
「人として手伝うべきだよね」
「保険の関係で…」

「商人と遊び人死んだ。蘇生した!何で遊び人先なの?順番変じゃない?でたぁぁ!蘇生からの会心の一撃!あ!勇者倒れた… 死んだ… あぁ、皆倒れていく… 死んじゃった……… あらら…」リリアは声を失う…


「おお、勇者オルデガよ死んでしまうとは情けない」
教会でファーザーがオルデガに言う…

勇者パーティーが全滅してしまったので、見学者パーティーのリリア達が遺体を回収して戻って来た。何だか変な話だ…
「あいつをやり過ごしてから遺体を連れて帰ろう」
ボスが居なくなってから勇者達を連れて帰ろうと思ったが、ボスはそこから動かない。
「あの… 水曜日は焼却ゴミの日で… そんなわけで、遺体改修に来ました。今回は大変ご迷惑をおかけしたみたいで… また、日を改めて戻ってきます」
リリアが精いっぱい愛想笑いしながら見学者カードを見せびらかして誤魔化しながら、いそいそと遺体を馬車に乗せ教会まで連れてきたのだ。度胸満点。勇者として落第点。


「情けないって何よ!!オルデガは、勇者オルデガ、国のため、国民のため戦って犠牲になったのよ!NPOだからって税金も払わずノウノウと暮らして、敬意を払いなさいよ!ちょっと考えなさいよ!」
静寂に包まれる大聖堂の中、列席していたリリアがスクっと立ち上がり凛とした声をあげた!
「ちょ!リリアは何言ってるのあなたがもっと良く考えなさいよ」オフェリア達があわててリリアを押さえつける。
「リリアだって勇者の端くれよ!勇者するって大変なんだから!給料も出ないのに体と命張るのよ!死んでまで情けないなんて言われる筋合いじゃない!」
儀式どころではない、見学者パーティー一同は憤慨するリリアを聖堂から連れ出す。

「やれやれ… 変な社会科見学に参加しちゃったわね」一同顔を見合わせる。
「勇者バカにしないでよ!」リリアはメッチャ怒っている。
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