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すぐにお助けします!!

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うつ伏せになったままで、顔を両腕に埋めて泣いていた。ヴォルフラム殿下が私のために動いていたことを知ったからだ。

今も、背中から慈しむように寄り添っている。

「好きだよ、セリア……泣かないでくれ」
「ヴォルフラム殿下のせいです……」
「すまない……でも、絶対に見捨てないし、婚約も破棄しない。セリアがいなくなったら、王太子殿下の地位もいらないんだ……セリアと結婚したくて、王太子になろうとしていたんだ……」

王太子殿下の結婚相手は、聖女と決まっている。確かに、聖女は私一人ではない。でも、私は幼い頃から、聖女の能力が高く、家柄も含めて、私が聖女であるかぎり王太子殿下の結婚相手は、私に決まっていた。
それが、ヴォルフラム殿下が王太子にならなければ、私は次の王太子候補の婚約者になっただろう。私が聖女であるかぎりそうなるのだ。

背中から伝わってくるヴォルフラム殿下の熱が優しい。雪が降り始めているのに、寒いとは思えなくて……。

「ヴォルフラム殿下……私も……」

幼い頃からずっと好きだった。何事も一生懸命で、誰よりも王太子殿下に相応しくなろうとしていた。その姿に尊敬と憧れがあった。自分も彼に相応しくなるように頑張ろうと……。

私も、ヴォルフラム殿下が好きだと言おうとした。その時に慌ただしくなって来た。

「ギャウッ!!」
「ヴォルフラム殿下!!やっと見つけまし……たぁ!?」

私を全裸で抑え込んでいるヴォルフラム殿下の姿に、小さな聖獣様は、毛を逆なでて怒り始めた。ブレッドは驚愕する。夜会から突然姿を消して、ずっと探していたらしい彼が固まったように立ち止まった。

「ヒィーーーー!! 何をなさっておいでですか!! ヴォルフラム殿下―!! ここは外ですよ!!」
「くっ……」

いいことろだったのに、と心の声が聞こえそうなヴォルフラム殿下が私の背中に顔を埋めた。
慌ててブレッドが自身のマントをはぎ取っていた。

「……ブレッド。助けてください! ヴォルフラム殿下が……!」
「はぁ!?」

ヴォルフラム殿下が、身体を起こして私の発言に驚いた。

「セリア様!! すぐにお助けします!! 離れてください! ヴォルフラム殿下! さすがに外は不味いですよ!!」

急いでヴォルフラム殿下にマントをかけて起き上がらせるブレッド。やっと背中が軽くなった。でも、少しもの淋しいと思える。

私も起き上がると、ブレッドのマントに全身を包まれたヴォルフラム殿下が鋭い視線で睨んでくる。

「……言っておくが、襲ったわけではないからな」
「知ってます。ちょっとした意地悪です」
「意地悪?」
「はい。だから、これで秘密にしていたことは、なかったことにします」
「それはどうも……では、俺からも……」

そう言って、ヴォルフラム殿下が近づいてくる。

「後で部屋に行くから……」

ヴォルフラム殿下の低くて男らしい声音が耳元で囁かれると、そのまま頬に口付けをされた。心臓がどくんとする。
耳元から離れれば、ヴォルフラム殿下が私をじっと見る。

「俺もこれで、セリアが秘密にしていたことは、なかったことにしてやろう。では、あとで……」

何も返事ができないでいた。ヴォルフラム殿下に頬とはいえ口付けをされたのだ。その紅潮した頬を手で押えたままで、ブレッドに連れられて行くヴォルフラム殿下を呆然と見ていた。





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